解放
「どうか私を、この地から解き放っていただけないでしょうか。」
彼女はそういって頭を下げる
「頭を上げてください!僕は、あなたに命を救われました。命の恩人の頼みなら、どんなことでも受けますよ!」
そうして僕は、刀に触れる。すると、体の内側が引っ張られるような感覚があったのち、僕は知らない建物の中に立っていた。自分の体を見ると、軽く透けている。周囲のものに触ろうとするが、手がすり抜けてしまう。
「何だ、ここ……?」
周囲を警戒しながら、僕はそう呟く。すると
「ここは我らの生み出した空間。ここに来たということは、愚かにもあの妖刀に触れたとみえる。何故触れたのか。」
と声がする。
「そんなのは決まってる。命の恩人である彼女を、封印から解き放つためだ!」
「そうか……。だが、こちらとしてはこの封印を解くわけにはいかぬのでな。お主には悪いが、ここで死んでもらう……!」
そう聞こえた瞬間、四方八方から様々な魔術が飛んでくる。それらを捌きつつ、僕は考える。
──さっきこの声の主は「我ら」といっていた。ということはこの弾幕を張っているのは1人じゃない可能性が高い。気配から探ることは今はできないけど、耐え続けてさえいればいつかは位置を割り出せるはずだ。とりあえずは回避中心で立ち回るかな……。
そう考え、僕はひたすらに魔術を回避していく。
しかし、いくら訓練しているとはいっても回避し続けるのは正直厳しい。さっきからいくつも魔術が掠り始めてるし、その分ダメージも蓄積されてきてる。まずいな……。相手の場所はなんとなくは掴めたけど、この弾幕のせいで近づけないし、手詰まりかもな……。
──そう言えば、相手はなんで魔術を撃てる?初めに確認した通り物に触れることはできないはず。ただ、こんな魔術を杖によるサポートなしで撃ち続けられるとは到底思えない。……まさか……!
僕はとある仮説に辿り着き、早速試してみることにした。精神を落ち着け、集中を高める。僕が動きを止めたのを見、一層激しく魔術が打ち込まれる。それが僕に命中しそうになった瞬間、魔術が一つ残らず斬られる。
「な……!魔術を斬る、だと……!」
どこからか声が聞こえる。それを聞きつつ僕は、賭けに勝ったことを確信する。そんな僕の手には、二振りの刀。そう、先ほど虚空にしまっていた刀だ。
──やっぱりね。この世界は精神世界。強くイメージすることができれば、どんなことでもできる。そう考えた僕は、いつものイメージのままに刀を取り出した結果、こうして持つことができた。
──さて、反撃を開始しようか。
僕は刀を構えると、一瞬で間合いを詰め、虚空に刀を振るう。そこには何もないはずだが、僕は確かな手応えを感じる。そして一拍置いて、虚空から1人の老人が転がり出てくる。見ると、腕から血を流している。少し老人に申し訳なく思いつつ峰打ちで老人を気絶させると、残りの気配の方を睨む。するとごくわずかにだが、空気が揺らぐ。
──あと6人か。
一層魔術が激しくなる。しかし、僕に届くことはない。次々と老人を打ち倒していき、いよいよ最後の1人となった。
すると老人は身を隠しておくことが無意味だと気付いたのか、姿を現す。
「何故そこまで戦える?お主は、見たところまだ20年も生きてはいないだろう。だというのに、何がお主をそこまでかき立てる?」
「僕は一度死んでいる。そして彼女に助けられた時、僕は決めたんだ。もう自分を押し殺し続けることはやめるって。だから僕は、自分を助けてくれた彼女を、僕自身の意思で助けようと決めたんだ。」
「そうか……。お主は自らを刀とし戦っているのか……。……お主なら大丈夫そうだな。」
そういって彼は笑うと、起動しかかっていた魔法陣を消す。
「我らはかの刀を封印していたが、それはあれが並のものには扱えぬ代物だからだ。生半可な者では逆にあの刀に殺されてしまう。その点お主なら安心だ。それほどの意志の強さがあれば、きっとあれも扱えるだろう。」
そういって満足げに笑う。すると周囲が徐々に光の粒となっていき、消えていく。
「最後にお主にちょっとした贈り物じゃ。お主の行く先に幸在らんことを願っているぞ……。」
その声が聞こえた瞬間、視界が光に包まれ、気づくと元の体に戻っていた。
【スキル 魔導を獲得しました。】
作者の葉隠です!初めての作品なので、至らぬところも多々ありますが、温かく見守っていただけると幸いです。もし気に入っていただけましたら、ブックマークと☆による評価を、よろしくお願いします。