彼の過去 Side ミリア
「!?ノア君!?」
「ノアさん!?」
突然体勢を崩し膝をついたノア君に、私は思わずそう声を上げていた。しかしノア君はその声に反応することなく床に倒れると、そのまま動かなくなる。
「ノア君!?大丈夫!?」
私はノア君の肩を揺すりながらそう呼びかけるが、反応はなかった。
「とりあえず、彼を運びましょう!」
「う……うん!」
そんなトウカさんの声に従い、私はノア君を持ち上げる。持ち上げたノア君の体は以上なほどに軽く、私の心中に巣喰った不安がより一層大きくなる。
── 正直、違和感はあった。移動中、私が話しかけても気が付かないくらい熟睡してたし、ここに近づいてくるにつれて若干だけど顔が下を向きがちになってたから。だけど、何で突然……!
内心そんなことを思いつつ、私はトウカさんの後についてとある部屋にたどり着いた。そこにあったベッドにノア君を横たえると、私はトウカさんに、前から気になっていたとあることを聞く。
「ところでトウカさん、トウカさんって、ノア君とどんな関係なの?」
その問いを聞いた彼女は少し思案するような顔をした後、質問を重ねてくる。
「質問を重ねるようで申し訳ないのですが、ミリアさんはノアさんの過去についてどのくらいご存知なのですか?」
「ノア君について?んー……10歳くらいの時にギルドで保護されて、それまでの記憶がないってことくらいだけど……。」
「……そこまで知っているのならば、話しても問題はないですね。……ただ、この話を聞くことは、ミリアさんも帝国の闇に触れることになります。……それでも、いいですか?」
私の返答を聞き、トウカさんは真剣な目でそう聞いてくる。
「……覚悟は、できています。」
そんな彼女の目を、私はまっすぐ見つめ返す。
── ノア君に記憶の封印を聞いてから、何があっても彼を見放さないと、そう決めていた。記憶が戻れば、ノア君はまた孤立してしまうかもしれない。そうなったら、今度こそノア君が戻って来られなくなってしまうような、そんな気がしていたから。
「……そうですか。でしたら、お話ししましょう。」
私の目を見た彼女はふっと息を吐くと、そう前置きして話し始める。
「私とノアさんがどういう関係か、という質問でしたね。……おそらくノアさんは、7年前に行方不明になった、私の双子の兄です。」
「行方不明……?でも、トウカさんの家って……。」
「はい。このシスト公爵家です。」
「じゃあ、何でそんなことが……?」
── 帝国でも屈指の力を持つシスト公爵家の子供が、行方不明に?そんなことがあり得るの?
そんな意図も込めて質問すると、彼女は少し俯いた後、話し始める。
「……あの日は、私と兄が10歳になり、初めてモンスターの討伐に挑戦する日でした。『魔の森』の非常に浅いエリアで、10人以上の護衛がついていました。……はじめは、何の問題もなく進んでいました。ですがある時、兄が何か違和感を感じる、と言い出しました。……そしてその瞬間、兄の姿が消失しました。」
「え……?」
「私たちも、何が起こったのか分かりませんでした。すぐに兄を探そうとしましたが、その瞬間、通常出てこないようなモンスターたちが次々と私たちを襲ってきて……。……何とかやり過ごした時には、真上にあったはずの太陽が地平線にかかり始めていました。……それから捜索が始まりましたが、何1つとして手がかりはなし。唯一分かったのは、周囲にあった封魔水晶から、何者かが仕組んだことだということだけ。兄は、消えてしまったんです。」
「そんな……。」
私は思わずそう声を漏らす。そんなことがあり得るなんて、思ってもいなかったから。
「それからも、何の情報もないまま5年が過ぎました。どれだけ探しても見つからない、もしかしたら死んでしまったかもしれない……。そんな空気が、家に流れていました。そんな時、ノアさんに出会ったんです。……私と同じ、白い髪に紅い瞳。懐中時計も持っていました。それに……兄を一番近くで見てきた私が、彼から兄と同じ雰囲気を感じたんです。」
「……そのことは、ノア君は?」
「もちろん、知っています。……ミリアさん、1つ、聞いてもいいでしょうか。……もし仮に、ノアさんが私の兄だった場合……マリアさんは、どうしますか?」
「そんなの、決まってる。今までと同じように接するだけだよ。」
躊躇うこともなく言い切った私の言葉を聞き、トウカさんは大きく目を見開いて、そして笑う。
「その言葉を聞いて、安心しました。……兄は、あまり人と接するのが得意ではなかったので。……ところでミリアさん、ミリアさんの家は、どのような家系なのですか?」
「私の家?王国の男爵家だよ?」
私がそう答えると、
「男爵……一番下ですが、無いよりは全然……。……いっそ、爵位を上げましょうか……?」
と、トウカさんは何かを呟きながら考え始める。
── トウカさんが何を考えてるかは分からないけど……。……ノア君、早く、起きてね。
いまだにベッドに横になって動かないノア君の手を握りながら、私はそんなことを思うのだった。
作者の葉隠です!初めての作品なので、至らぬところも多々ありますが、温かく見守っていただけると幸いです。もし気に入っていただけましたら、ブックマークと☆による評価を、よろしくお願いします。




