回想② ── グレン 視点 ──
「周囲に何の気配もないことを確認した俺たちは、即座に彼の元へ向かった。そして彼に声をかけてみたんだが、全く反応がなかったんだ。目立った傷もなく、魔法でも異常は感知できなかったのに、だ。」
そこまで言って、彼は若干言い淀む。
「どうした?」
「……ギルマスは、俺の出自を知ってるよな?」
「ああ。……あまり、裕福な家庭ではなかったらしいな。」
「ああ。だからこそ、こう思ったんだろうが……。……彼を初めて見た時、俺は、ここで彼の心が壊れてしまったんだろうなと思ったんだ。……この子の状態は、いわゆるスラムにいる子供に似ていた。心が壊れてしまえば、何の反応もないことにも納得がいく。……おそらく、この戦いの後に、彼の心を壊す何かがあったんだろう。発狂して暴れ出さないのは幸いだった。」
「……それだけか?確かに異常だが、それならあそこで隠す必要はなかったような気がするが……。」
「ああ。俺たちも、初めは彼を保護して報告して終わりにしようと思っていた。……周囲を探索している時に、これを見つけるまでは。」
彼はそう言うと、いくつかの結晶の破片を取り出し、机に置く。
「これは……!まさか!?」
「ああ。そのまさかだ。」
俺はその結晶に、見覚えがあった。
「封魔結晶に誘引結晶、それに契約石だよ。……しかも、魔力の残滓からこの封魔結晶は、封魔領域を生み出すために使われたことがわかった。」
「ちょっと待て!そうなるとこの子は……!」
「ああ。十中八九殺されようとしていたんだろう。その証拠に、周囲のモンスターには1体も魔術を使う奴はいなかった。」
「……確かに、これは下では話せないわけだ。……この子について、他に何かわかっていることは?」
「名前だけだ。ここに来るまでに色々話しかけてみたんだが、名前以外は何も答えてくれなかった。」
「ちなみに、名前は?」
「ノア、と言っていた。」
「……とりあえず、判断は簡易鑑定を通してみてからだな。」
名前だけじゃ判断なんてできたもんじゃない。最低限とはいえ彼の情報を知るため、簡易鑑定の魔道具を使ってみることにしたんだが……。
「……マジか……。」
「簡易鑑定とは言え、これはひどくないか……?」
思わず、そんな声が漏れる。結果は、以下の通りだ。
────── ノア=繧キ繧ケ繝 ──────
種族 人族
年齢 10歳
天賦 蛻?閨LV不明
「とりあえず苗字があると言うことは貴族で確定だが……まさか簡易鑑定で出る最低限の情報だけ、しかも天賦に関してはわからないとか……。……これは本当に厄介な拾い物をしちまったかも知れねぇな……。」
「……だな。……この子、どうする?」
「とりあえずギルドで保護するが……。……その後どうするかはアルバートと相談だな。まあ、この子のことは俺らに任せて、元の任務に戻ってくれ。」
「了解。」
そう言って、この子をここまで送り届けてくれたパーティーは部屋を後にする。
「……とりあえず……アルバートを呼ぶか……。」
数分後、俺の呼び出しに応じアルバートが部屋に入ってくる。
「どうかしましたか……!?……グレン、その子は……?」
部屋に入るや否や、彼は警戒心をあらわにノアを見、言う。
「国境の森で保護された少年だ。……どうかしたか?」
「……この部屋に入った瞬間、私の周りにいた精霊が一瞬で彼の元へ向かいました。」
「そうか……。……となると、本格的に厄介なことになったかもしれないな……。」
俺はアルバートに、あのパーティーから聞いたことをそのまま話す。
「── ということらしいんだが……お前はどう思う?」
「それは……難しいですね……。……最適解はうちで保護して、そのままうちの国所属の冒険者として登録することでしょうかね……。」
「だよな……。……とりあえず、孤児としてうちで保護するか。」
「ですね……。……どうします?調べますか?」
「いや、やめておいたほうがいいだろう。」
「何故ですか?」
「おそらく、この子は帝国の貴族の関係者だ。下手に調べれば、こっちの身が危なくなる。」
「……そうですね。わかりました。」
「……ところで、アルバートはこのくらいの子供の扱い方、分かるか?」
「……逆に冒険者で、子供の扱いに慣れているものがいると思いますか?」
「だよなぁ……。……はぁ……。」
いきなり目の前に立ちはだかった壁に、俺はため息をつくのだった。
作者の葉隠です!初めての作品なので、至らぬところも多々ありますが、温かく見守っていただけると幸いです。もし気に入っていただけましたら、ブックマークと☆による評価を、よろしくお願いします。




