回想① Side グレン
「……行ったか?」
「はい。受付で依頼を受けているようですね。」
アルバートが精霊から受け取ったその情報を聞き、俺は大きく息をつく。
「ふぅ……。……しかし、厄介なことになったな。」
俺はノアから受け取った、一枚の紙を見る。それは、彼の持つ懐中時計に彫られていた家紋を写し取ったものだ。
「藤に虎……もしこれが本当にあいつのものなら、だいぶやばいぞ。」
「そうですね……。……幸いなのは、彼の冒険者登録の時にこの王国所属にしておいたことでしょうか。」
「ああ。……だが、全てが明らかになればあいつがこの国を出て行ってもおかしくない。」
そうなれば、きっとミリアもあいつについて行くだろう。そうなれば、うちの国の戦力が大きく低下することになる。
「理想はノアの活動拠点がうちの国で、基本的に滞在するのが向こうの国、ってパターンだが……。」
「その場合、移動がネックになりますね……。」
「ああ。どれだけ速くこっちに向かっても3日はかかるからな……。……何とかうまくいくことを願うしかない、か……。」
俺たちは、揃って頭を抱える。まさかこんなことになるとは……。あの時に、もっとちゃんと調べておくんだった……。
俺はそんなことを思いつつ、アルバートに言う。
「まあ、こればっかりは今悩んでもどうしようもないことだ。それよりも、あいつがようやく認められたことを喜ぶとするか。」
「そうですね。……しかしまさか、あの子がここまで上り詰めてくるとは……。」
「ああ。同感だ。」
俺たちは、出会ったばかりの頃のノアの様子を思い出し、感慨に耽っていた。
── 7年前 ──
「ギルマス!ギルマスはいるか!?」
ギルド内に、そんな声が響く。
「どうした!?」
彼らは、隣のクリスタ帝国との国境にある森の調査を任せていたパーティーだ。あの辺りは強力なモンスターが頻繁に出現する地域だから、定期的に調査をさせているんだが……。そんな彼らがこうも焦って帰ってきたとなると、まさか……!?
俺が若干の焦りとともに駆け寄り、
「何かやばいモンスターでも出たのか!?」
と聞くと、彼らは若干顔を見合わせ、言う。
「いや、モンスターは問題なかったんだが……ちょっと、拾い物をしてな……。」
彼らはそう言って、なかなか核心に触れようとしない。
「ここでは話しづらい感じか?……なら、ついてこい。」
そんな彼らの様子に厄介な雰囲気を感じた俺はそう言うと、機密性の高い話をするための部屋に向かう。
「……で?一体何を拾ったんだ?」
「実は……。」
彼らのリーダーはそう言って、パーティーメンバーに囲まれていた1人の少年を見る。
10歳くらいだろうか。小柄で痩せ気味の彼を一言で表すなら、『異質』だった。全ての光を吸い込んでしまうような黒色の、腰まで伸びた髪。所々擦り切れた衣服から見える肌は青白く、生気を感じさせない。そして髪と同じような黒い瞳は輝きを灯しておらず、まるで作り物のようだ。そして、そんな彼の纏う衣服には血がべったりと付着している。それでいて彼はどこも怪我をしていないように見える。
「森の中で、彼を見つけたんだ。……ひどい状態だったよ。」
そこからぽつぽつと、リーダーは彼を発見した状況を報告する。
「初めに違和感に気づいたのは、うちの斥候だった。……全くと言っていいほど気配のない空間の中に、ぽつんと1つだけ気配を感じたらしい。警戒しつつそこに向かってみると、そこに彼がいた。……正直言って、地獄みたいな状況だったよ。彼の周囲には、馬鹿みたいな量のモンスターの死体があった。オークロードやオーガキング、ミノタウロスにワイバーン、果てはレッドドラゴンまで……。少なくとも、1,000はいただろうな……。その全てがめちゃくちゃに斬り裂かれていた。そんな中で、彼は身動き一つせずに地面に座り込んでいた。……そんな彼の足元には、1つの棒状の何かが落ちていた。金属製だったから、剣か何かだったんだろう。おそらく、彼がそれを使ってこの状況を生み出したんだろうと、いやでも理解させられた。」
俺はその状況を想像し、身震いする。10かそこらの子供が、1,000を超えるモンスターをたった1人で蹂躙しただと?そんなこと、本当にあり得るのか?
話は続く。
作者の葉隠です!初めての作品なので、至らぬところも多々ありますが、温かく見守っていただけると幸いです。もし気に入っていただけましたら、ブックマークと☆による評価を、よろしくお願いします。




