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2.出会い


時は一旦、舞踏会の三ヶ月前にさかのぼる。


リリスがガー様と出会ったのは路地裏の古道具屋でだった。


その日リリスは、母の新しい帽子の買い物に付き合っていて、帽子店の店主と話が弾んでいる母を置いて、帽子店の周りをブラブラしていた。


そして、ふと覗きこんだ路地裏の古道具屋の店先で、籠に無造作に盛られた中古の人形達の中に、一際美しい人形を見つける。


その人形は遠目からでも薄汚れて、着せられているドレスも染みだらけだった。

でも、なぜかリリスはその人形から目が離せなかった。青いガラスの瞳に引き込まれて、ふらふらと近付き、人形をそっと手に取った。


(きれいな人形)

元々はかなり高価な人形だったのだろう。ガラスの瞳は角度を変えると少し色合いを変える繊細な造りで、もつれてぐしゃぐしゃになってしまっているが、鳶色の髪の毛も1本1本丁寧に埋め込んである。

染みだらけのドレスは刺繍まで刺してある手の込んだもので、ドレスの下の人形の体も、綿が詰められているだけではなく、ちゃんと体として造られていた。

手や足の造作も丁寧だ。


(とても高貴なお嬢様の人形だったんだわ)

リリスは、そうっと人形の髪の毛を撫で付けながらそう思った。


(本当にきれいな人形)

リリスは今年16才で、もう人形遊びをするような年ではない。

でも、リリスはその人形に強く惹き付けられた。

そして、何だか、離れがたかった(後にガー様が言うには、この“離れがたかった”はガー様の魔力によるものだったらしい、本当だろうか)。


とにかく、離れがたくて、不思議に思いながらも、リリスは人形をぎゅっと抱き締める。


(どうして離れがたいのかしら? いつも、お姉さま達のお下がりばっかりだったからかしら?)

人形を抱き締めながらリリスは不思議に思う。


リリスはグレイシー子爵家の三姉妹の一番下だ。残念ながら美人三姉妹、ではなく、器量は上から順に少しずつ下がる三姉妹で、二番目の姉までは美人の部類だが、三番目のリリスはぱっとしない外見だ。


末っ子なので可愛がられはしたけど、チヤホヤはされず、ドレスや人形は大体、姉達のお下がりだった。

姉達と比べて、ぱっとしない事がコンプレックスだったのもあって、リリス自身もお下がりに文句は言わなかった。

どうせ、自分なんかが、新品を買ってもお姉様達みたいに素敵にはなれないから。

そう思っていた。

ひねくれた子供だったのだ。


この人形にこんなにも惹かれるのは、そんなひねくれていた幼い頃の反動なのだろうか。

もしかしたら、本当は、リリスは自分だけのお人形が欲しかったのかもしれない。

何だか、小さい頃の自分が不憫だったようがしてきて、おセンチな気分になったリリスは、二束三文で売られていた、その人形を購入したのだった。




***


リリスが、薄汚れたまあまあ大きい人形を持って帽子店にいる母のティモシー・グレイシー子爵夫人の元へ戻ると、母はびっくり仰天した。


リリスの母はプラチナブロンドの髪に青色の瞳の冷たい雰囲気の美人だ。

伯爵家の次女でもあった母は身ごなしも優雅で、黙っていると冷たい様子だが、笑うとたおやかな花のように可憐で若い頃はとにかくモテた。そんな母をリリスの父、若きグレイシー子爵が射止めたのは、当時それなりに驚きの事だったらしい。


リリスの父、グレイシー子爵は鳶色の髪の毛に焦げ茶色の瞳の、優しそうだが地味な様子の人で、確かに優しいが特に目立った功績もない。

どうして、伯爵家の美貌の次女であった母が、地味な父の求婚を受け入れたのか、リリスは未だに疑問だ。


因みにリリスの姉達の内、長姉のラスティアは母にそっくりの気高い雰囲気の美人で、次姉のマースは金髪に焦げ茶色の瞳、母の冷たさに少し甘さが加わり、口元には黒子もあって色っぽい。

リリスはというと、父と同じ鳶色の髪に焦げ茶色の瞳、あまり特徴のないさっぱりした顔立ちとなっている。


「リリス、そのお人形は?」

美貌の子爵夫人である母が、訝しげに人形のドレスの染みをじろじろと見ながら聞いてくる。


「あの、そこの、古道具屋で売られていて」

16才にもなって人形を買ったなんて、ずいぶん幼稚だったな、とリリスは顔が赤くなった。


「何だか、欲しくて、か、買ってしまったの。とても安かったし」

どもりながら伝えると、母は目を丸くした後、「まあ、あなたが、お人形をねえ」と言いながらリリスの抱えている人形に目をやる。


「あなたの髪色と同じね」

ゆっくりと人形を検分してから母は優しく微笑んだ。どうやらお咎めはないらしい。

そうしてリリスは、その美しい人形を子爵邸へと連れて帰った。



子爵邸に帰ってまずリリスがしたのは、人形をお風呂に入れることだった。

要するに丸洗いなのだけれど、早くも人形に情が湧いてきたリリスは、丸洗いというより湯浴みをさせてあげる気分で丁寧に人形を洗ってやる。


ぬるま湯で顔や体の汚れを落とし、石鹸と香油でもつれた髪の毛もほぐして洗う。

人形は、輝く白い肌と艶めく鳶色の髪の毛を取り戻し、ますます美しい。

そしてその青い瞳は、生きているかのように輝きだしている。


「本当にきれい。あなたはどこかのお姫様の持ち物だったのかしらね」

ぽつりとそう呟くと、人形の瞳の光が強くなった気がした。


リリスは人形をタオルでくるむと、着ていた染みだらけのドレスを侍女に洗うようにお願いした。


早く洗濯の終わったドレスを着せてあげたいなあ、なんてワクワクしていたのだが、その辺りから体が妙にだるく感じるようになる。


(あれ? 何だろう、体が重い)

ふらふらしながらも、家族の夕食の席には何とか顔を出したリリスだが、食欲もなく結局夕食を中座する事になった。


夜には熱も出てきて、リリスはそのまま寝込んだ。



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