お見舞い
バイクに跨り、東帝大学附属病院に向かっていた。
サン……もとい、榊 太陽はそこに入院しているらしい。私は信号を待っているとコンビニが目に入る。
流石に何か手土産を持って行ったほうがいいよな。
コンビニに入店し、レジ横の四角い缶に入ったクッキーを購入した。
ちょっと高い……。が、その分いいものだろうと言い聞かせ、バイクに再びまたがる。
病院に着き、受付で榊 太陽の部屋番号を聞く。
「ま……私が太陽にしてあげられんのはこれぐらいか」
ドナーカードを手に取り鞄にしまう。
エレベーターに乗り、5階にある榊さんの部屋に向かっていった。
私はコンコンと扉をノックすると中から女の子の声が聞こえてきた。私は扉を開ける。
「よぅ」
「ええと……」
「現実世界じゃ初めましてだな。私は久我 月見。プレイヤーネームはルナ……と言えばいいか?」
「ルナさん! いらっしゃいませ!」
「おう」
私は鞄を置き、クッキーを手渡した。
「ルナさんがきてくれてとても嬉しいです〜! 入院生活はとても暇なので……」
「話し相手になれるんなら幸いだよ……。まぁ、ゲームやれるんなら暇じゃないだろ」
「ですね。でも、午後10時以降は禁止されてるので10時からは暇ですけど」
「それもそうか。いつも入院してんのか?」
「はい。投薬治療をしてるので毎日この点滴を受けてるんです。このチューブはもう長いこと付き合ってるので人生のパートナーみたいなものです」
笑えねえよ。
でも……余命宣告されてるのにずいぶん元気だな。から元気ってわけでもなさそうなのが不思議だ。
強い子だな……。
「投薬治療で治る見込みは?」
「あまりないそうです。やらないよりマシってだけみたいで。私が生き延びるためにはやっぱりドナーが必要みたいです」
「ドナーか……。心臓の病だろ? なかなか見つからねえよな」
「はい。生体移植も出来ませんので……不謹慎かも知れませんが、私が生き延びるには誰かの死が必要なんです」
「それもそれで悲しいわな」
誰かの犠牲を願わなきゃ生き延びることはできない。
誰かが死んで心臓が提供されても心から喜べない。生きても死んでも苦しい。
そんな中で笑える太陽は……。
「……そういや、心臓移植は生体移植出来るようにはなったらしいぞ」
「知ってます。けれど、それには私に完璧に適合する人が必要なんです。姉妹とか、兄妹とか」
「大地がいるだろ」
「お姉ちゃんとは異母姉妹なので……」
「……そうなん?」
「はい。お父さんの前の奥さんが死別して……前のお母さんとの子供がお姉ちゃんで、私は再婚相手のお母さんの子供なんです。お父さんとも血のつながりがあるわけじゃなく、お母さんの連れ子なので……榊家では血のつながりがないんです」
「ややこしい家系だな……」
大地は社長の娘だけど太陽は母さんの連れ子か。
つまりその母さんを探せば適合するのではないだろうか。私が疑問に思っているとアンサーはすぐに太陽の口から出た。
「母さんはまた浮気して離婚しました。今どこにいるのか、消息もわかりません。浮気相手と一緒に死んでるかも」
「……詰みじゃねえか」
血のつながりがある母親も見つからないって……。詰んでるな。
「私のことはこれで終わりです。次はルナさんのことが聞きたいな」
「私のことか?」
「ルナさんは姉妹とかいますか?」
「いねえな。私は一人っ子だ。ろくでもねえ父とろくでもねえ母を持ったな」
「どんな両親だったんです?」
「母さんは浮気性で父さんは暴力だ。わかるだろ」
「なるほど。確かにあまり良いとは……」
「だろ? ろくでもねえんだよ。私はあいつらを反面教師にして生きてんだ。まぁ、暴力は振るってるから父さんのこと厳しく言えねえけど」
前まで喧嘩してたもんな。
今はしてないが。
「ほへー。苦労してるんですねえ」
「お前よりはしてねえよ。さてと。そろそろゲームするだろ? 私も帰ってログインする」
「お、では先ログインしておりますね!」
「おう。待ってろ」
私は革ジャンを羽織り手を振って別れる。
似た者同士だな、私とあいつは。だから割と気が合うのかな。
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