千本桜
現着すると、ボロボロになっている男と、馬乗りになり何度も殴っている男。
他の男たちも止めに入ったようだが反撃に遭って私を呼びつけたようだ。
「おー、やってんなぁ」
「久我……頼む。腕っぷしは女のお前が一番なんだよ」
「男どもが揃いも揃って情けねえなぁ……。しゃあねえ。焼肉奢ってくださいよ」
「わ、わかった!」
私は暴力を振るってる男に近づいた。
こいつは新入りか。結構威勢が良かった奴だな。私は何気なく声をかけた。
「何してんだー?」
「あん!? んだよテメェ!」
「ダメだろ、暴力は」
「知らねえ、よ!」
拳を受け止める。
なるほど。力は一丁前にあるようだ。だがしかし。喧嘩の腕はそこまでではねえな。
力で有無を言わせない感じか。
男は拳に力を込めて力押ししようとしていた。
私はニコニコと笑いながら拳を離し、顎に掌底を喰らわせた。
「敬語使えよ、先輩だぞ」
「なっ……」
男は膝をついた。
私は髪の毛を引っ張り顔を上げさせる。
「んで? なにしてんの?」
「う、うるせ……え……」
私は顔を思い切り殴る。
「で、なにしてんの?」
「…………」
「答えろよ。なにしてんの?」
「おい、久我……。そこまででいいぞ。気絶してる」
「あら」
「いいとこやったなお前……。鹿嶋、大丈夫か?」
「…………」
「救急車! あと久我! そいつ事務所連れてけ」
「へーい」
私は男を背負い事務所に連れて行った。
山田さんは鹿嶋さんのほうに着いて行き、私は再び暴れ出した時のためのストッパーとして男につく。
「こいつ今年の新人すよね?」
「ああ」
「名前なんつったかな……」
「安藤だ。これでも結構有名な不良だったみてえだぞ」
「元ヤンばっか工場長が拾ってくっから……」
「人はいいんだけどな。工場長」
私は回転イスに腰をかけコーヒーを飲みながら田所先輩と話していると安藤の方から声が聞こえる。
安藤は上体を起こした。
「ここは……」
「事務所だよ。テメェ、手間かけさせやがって。んで、喧嘩の原因は?」
「喧嘩……。あ、あの野郎嘘を教えたんすよ!」
「嘘?」
「ここに元関東最強の不良がいるって! 血眼に探したけどいなくてよぉ! 嘘ついてんだよ!」
「…………」
「おい、久我。間接的にお前が蒔いた種だろ」
「悪くねえだろ私。おい、それは千本桜とかそんな名前だろ」
「そうだよ! 探してたのによォ!」
「それ私だよボケ。嘘ついてねえよ」
私が安藤をゲシゲシと蹴りつける。
安藤は驚いた顔をしていた。
「最近異動になってお前が知らねえだけだよコラ。それだけでこんな厄介ごと起こすなよ。問題ごとを起こして責任取る工場長の身にもなってみろよ」
「え……」
「なんで千本桜なんだ? お前の名前に桜とか入ってねえだろ」
「あー、桜並木が立ち並ぶ場所で暴走族を一つ潰してからそう呼ばれるようになった」
「お前そういうことしてたのか」
「昔の話だよ。で、こいつの処遇どうなんの?」
「ま、よくてクビ、悪くて懲戒解雇か逮捕じゃねえか? あいつが訴えりゃあ実刑つくだろ」
「だな」
安藤はフリーズしていた。
が、すぐに再起動する。
「お、俺クビっすか!?」
「そりゃそうだろ。こんな暴力事件起こしてタダで済むわけあるか社会舐めんな。今回の騒動お前が悪いからな」
「お、俺行く当てないんすよ!? すんません、謝るから……」
「私に謝んじゃねえよコラ。謝る相手は鹿嶋だろ。順序考えろボケが」
「久我イラついてる? 生理か?」
「田所先輩は少しデリカシーってものを学ばなきゃ彼女できねえっすよ」
「お前にしか言わねえよ」
「おい、私も一応女の子だぞ」
この先輩私を女だと思ってねえだろ。
「お前が女の子……? あ、ああそうだったな。あまりにも男勝りだから」
「……私だって将来結婚とかしたりするんだから」
「お前が結婚……?」
「おい、失礼なこと思ってんだろ顔に出てんぞ」
ったく失礼なやつだな。
ってか私の話はどうでもいいんだよ。
「お前が助かるのは今鹿嶋を追いかけてってひたすら許しを希うことだろ。助かりたいなら可能性少しでも拾っとけ。ただ謝るだけじゃダメだぞ。それ相当の誠意を見せてこい」
「う、うす……」
安藤は立ち上がろうとしたとき足がもつれてその場に倒れる。
「お前が顎に入れるから……」
「……おら根性根性! 助かりてえんなら根性みせろ!」
「うす!」
安藤は根性で立ち上がり追いかけて行ったようだった。
「ま、あとは私しーらね。田所先輩、そろそろ定時っしょ? 私の方も仕事は終わったんでパーっとやりましょ? 焼肉」
「だな。あとは俺らの問題じゃねえし、飲み行くぜ!」
「バイク置いてくらぁ。酒飲みてえしな」
私はヘルメットを被りバイクを発進させたのだった。
焼肉〜、人の金で食う焼肉は美味えんだよなぁ〜。




