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プロローグ

 私は缶コーヒーを片手に、休憩室で同僚や先輩たちと談笑していた。


「いやぁ、俺のほうの新卒もまぁ血の気が多くてなぁー! どうしてここは元ヤンばっかり集まんだろうな」

「そりゃ工場長が拾ってくるからだろ。あの人、行く当てのない不良ばっか拾ってきて更生させちまうからなぁ。どこかの誰かさんみたいに」

「それ私のことか?」

「久我ぁ、お前しかいないだろ」


 と、笑っていた。

 セイシン製菓というお菓子メーカーの生産工場。ここには元ヤンばっかり集められる。社長がそういう人だからっていうのもあるけど。

 反抗してきたり、面白がって変なことをしようとするからちょっと厄介ではあるけれど、更生した人もそれなりにいるので結構面白い職場。割とホワイトだしなここ。働き口としてはこれ以上はない。


「それより久我、お前本社の推薦蹴ったんだって? なんだってここにとどまるんだよ勿体ねぇ」

「本社って言ったらパソコンとかカタカタやるほうだろ? 私は現場のほうが向いてるから」

「かーもったいねぇ! 本社のほうがこっちより給料あるってのによー! 俺なら即受けるぜ」

「今でも十分もらってるだろ。ここの給料のほうが下手なサラリーマンよりいいぞ」

「それは言えてる。ここホワイトだよな」


 残業はあまりなく、給料も申し分なくもらえる。

 今のままで満足はしているし本社に行く理由もない。


 私たちが話していると、休憩室の扉が開かれたのだった。

 

「あー、久我さんはいるかな」

「社長?」


 スーツ姿のガタイがいいおっさんの社長が立っていた。

 後ろの秘書と比べると本当に格差がひどく、ボディビルダーのような面立ち。正直、この筋肉の威圧感はすごいビビる。

 社長が私に何か用事があるらしい。


「あ、うっす。ここにいるっすけど」

「おぉ、よかった。ちょっと来てくれないか」

「えっ」


 社長が手招きをしていた。

 先輩たちが何かやらかしたのかと野次を入れてくる。私は何かやらかした記憶がないが……。


 私は社長のところに向かう。

 休憩室から出て、人気の少ない倉庫のほうに移動させられた。私はバクバクと心臓の鼓動音だけが高ぶっているのが分かった。

 クビ……? 社長が私に直々にクビを言い渡しに来たんだろうか。それで元ヤンだから周りに見られないようにボコられるとか……?

 嫌な妄想ばかり広がる中、社長が口を開く。


「そんなに構えなくてもいい。これは君にお願いしたい仕事の話なんだ」

「仕事……? もしかしてスパイとかそういうのっすか? ほかの企業のスパイがもぐりこんでるからそれを見張れとか……?」

「そういうのじゃなくて。久我さん、ゲームは好きかな」

「ゲーム? まぁ、人並みには」


 私がそう答えると、社長は少し微笑んだ。


「仕事でゲームをしてほしいって言ったら怒るかい?」

「えっ、いや、怒りませんけど……」

「そうか。わかった……。これ以上はちょっとここではあれだからね。退勤したら迎えに来る」


 そういって、倉庫から出ていった。

 何だ今の質問は……。私は腑に落ちないながらも休憩室に戻っていく。休憩室では先輩たちが社長に何言われたか聞かれて、素直に答えると。


「なんだそれ。ほか会社への仕事の斡旋じゃないか? 体よくクビ宣言じゃね?」

「やっぱそう思う? 私もうっすら……。ゲーム業界のほうに行けとか言われてる気分」

「なんかした? 喧嘩とかした?」

「いや……した記憶はねえけど」


 私は不思議に思いながらも退勤まで仕事に勤しんだ。

 そして、タイムカードを切り工場から出ると黒塗りの高級車が目の前に停車していた。社長に乗れと言われたので私は車に乗り込み、結構高い料亭のほうに移動させられる。

 部屋に案内されると、スーツ姿の女性が待機していた。


「えっ、なにここ……。ってか私に何が行われるんだ?」

 

 私は席に座らされ、社長が対面に座る。

 個室の和食料理店。私は雰囲気に似合わない工場の作業着姿。浮いているから早く帰りたいというのが本心なのだが……。

 私はドキドキしながら、社長の言葉を待つ。社長は神妙な面持ちで口を開いた。


「私には、難病を患った娘がいるんだ」

「へ? は、はぁ」

「この前、ドナーが現れない限り治らないと言われてね。余命2年だそうだ」

「……お気の毒に?」

「娘は死ぬまでゲームをやりたいと言っているんだ。小さいころから病院で入院したキリで、友達もいない。一人でゲームを始めさせるのは親としても心配で……」

「まぁ、たしかに心配っすね?」

「で、だ。久我 月見さん。お願いだ。娘と一緒にゲームをしてくれないか」


 と、社長が頭を下げてきた。

 あー、だから昼間の質問を……。


「娘の願いはなんでもかなえてやりたい、でも、親としての心配もある。久我さんなら心配はいらないと私は思っている。面倒見がいい久我さんに頼みたい」

「え、えぇ?」

「私からもお願いします」


 と、隣の女性も頭を下げた。


「あ、自己紹介が遅れました。私は榊 大地といいます」

「榊……社長の娘さん!?」

「はい。自己紹介が遅れてすいません」


 いや、それはどうでもいい。

 娘とゲームをしてほしいということを頼まれた。それが仕事ということなんだろうか……。どちらにせよ、この親子は本心で頼みに来ている。

 

「え、えと……。まぁ、いいんすけど……。何のゲームっすか? パズルゲーならあまり……」

「今、巷で流行っているり、りじぇくと・ぎゃらくしーとかいうものだ」

「ああ、あの」

「どうだ? やってくれないだろうか」

「わかりました。社長の頼みですし……。受けない理由はないですね」

「本当か!? 助かる……! ありがとう」


 と、社長は再び頭を下げた。

 いろいろと給料の話とかをして、明日ヘッドギアとソフトを用意して寮にもっていくと言われたのだった。

 明日からゲームをしてほしいらしい。


 ちょっと心躍ってる。











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