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08 再び図書館で会いました


エディーお兄様の侍女に扮して、また図書館に通えるようになりました!


以前に帝国図書館に行ってから、エディーお兄様が再び連れて行ってくれるまで、何と三ヶ月かかりました。


その間エディーお兄様は、あの時に出会った二人を調べていたそうなのです。


私が、ぼさぼさ頭の役人さんと思っていたカミルさんは、帝国図書館長のカミル・アイヒホルン侯爵様でした。

彼は本好きと広い知識を買われて、表は館長さんをしていますが、政治的なお仕事もこなされているそうです。


ただ、もう一人の赤毛の青年の身元が分からなかったせいで、図書館に行けなかったそうなのです。


しかし、一日千秋の想いで、図書館に行く日を待っている私を不憫に思い、この度決断してくれたのでした。


「待ちわびているアルルを、こんなにも待たせてしまった」と、エディーお兄様に詫びられてしまいました。


「お兄様は全然悪くないです。私の安全確保のために、念には念を入れて調べて下さったのです。寧ろお詫びを言うのは、私の方ですわ。お忙しいところ、無理を言って本当にごめんなさい」


最近の私は漸くエディーお兄様にも慣れて、普通にお話できるのです。

こんなに美丈夫な人と目を合わせて話すなんて、以前は出来なかったのですが・・・『慣れる』って凄いです。


お兄様の美しさへの耐性が付きました。

でも、たまに抹茶色の瞳が潤むように寂しげなお顔をされると、あたふたしちゃいますけど・・・


図書館に行くに当たり、前回は館内の護衛を一人しか付けなかったのに、次回から護衛が五人と大幅に増えたのです。

しかも恥ずかしい事に、仰々しい護衛が守るのは、侍女の服を着た私なんです。


お仕着せの侍女を、公爵令息を含めて六人で守るって、有り得ない風景です。


「これでは、エディーお兄様が変わった人に見られてしまいます。せめて護衛に守られるのはお兄様にしてください」


私がお願いした時に、例の抹茶の潤んだ瞳で逆に、

「アルルは私に守られるのは嫌なの?」

と言われて焦ってしまい、

「そんな、嫌なんて・・嬉しいです」と墓穴を掘って現在こうなっています。


それで、このように私が本を読んでいる間、護衛騎士五人が回りを固め、公爵令息が目を光らせて侍女を守るという構図ができたのです。


でも、私のいる地学の本棚があるブースに、人がいないことが幸いです。


しかも、この奥まった空間に、人が来ることはない。

こうして、何日間かは安心してこの世界の地学に関する本を、目一杯堪能していました。


しかし、油断していると、とんでもない方がやって来た。

この国の宰相であるテーゼ・クランデ様が、この奥まった空間にわざわざ足を運んで来たのです。


黒髪に黒い瞳の大柄の男性は、40歳の働き盛りだが、少しお疲れのようでげっそりしている。

テーゼ宰相様は律儀、真面目でお優しいと三拍子揃っていると侍女に聞いた事があります。


その宰相様が私達に何のご用なのだろう?


エディーお兄様も流石に戸惑っている。


「驚かせてすまないね。君は次期公爵を担うエディック・マイヤー様ですね。是非、一度話しをしてみたいと思っていたら、幸運にも君がこの図書館にいると聞いて、探しに来たのだよ。もし良かったらこの先にある、宰相の特権で作らせた部屋に来ないか?」


皇帝陛下の信頼が厚い、宰相様に言われては断れない。


お兄様が立ち上がり私を連れて行こうとする。

だが、テーゼ様が手で制する。


「侍女の方はここでお待ちください。残りの騎士はエディック様と共に来なさい」


エディーお兄様が焦り、テーゼ様に何か言おうとしているのを、私が小さく首を振って止めた。


侍女を大事にする貴族なんてと、宰相様に変な目でエディーお兄様を見られたくなかった。


エディーお兄様も諦めて、騎士を引き連れてテーゼ様に付いて行く。

テーゼ様は私を少し見て、一瞬目を瞪ったが、そのままエディーお兄様を連れていってしまった。


一人ポツンと取り残されて、少し寂しくなった。

でも、折角エディーお兄様が大切な時間を見繕って、わざわざここに連れて来てくれているので、読みたかった本を探し、再び読書に没頭した。


でも、ものの数分で読書は中断された。

ぼふんと体が浮く。


あの正体不明の赤毛の『ハル』さんが、私の座っているソファーの横に勢い良く座ったからだ。


「また会ったな」


エディーお兄様に、身元の分からないハルさんを見たら避けろと言われていたのですが、すっかり隣に座られては避けようがありません。


「あああああの、私になな何かご用でしょうか?」


この方の強い瞳は苦手です。


昔、スポーツができて勉強もトップクラスで、学校の人気者、

さらに体育祭でも文化祭でも人気を集めるという、何とも羨ましい人がいたが、こういう人の目は自信と信念を持った強い眼差しの方が多いのです。


急に話題もなく話しかけられては、逃げ出したくなります。


「ああ、用と言うより、この前話をした答えを聞きにきたんだ。勤め先を宮殿に変えるのはどうなった?」


この人は職業斡旋の人なのだろう。だからこんなにも熱心に勧めてくれるのでしょう。

「わわ私はマイヤー公爵のところにいます。他にう、う、うつるなんてないです。せ、折角のお話ですが、おおおお断りさせて頂きます」


「ふーん、そうか。随分とあの公爵ご令息様が君を買っているけど、どんな関係なの?」


も、もしかして、私がまだ14歳で、立ち入り禁止なのに図書館に出入りしているアルルーナだとバレかけてる?!!


「じじじじじょです!!」


「焦るところが怪しいね」


ハルさんの目がますます怖いです。

心臓がバクバクの私にハルさんが、「はい、これあげる」と見たこともない物体を差し出した。


「きゃっ」


それは真っ黒な物で、恐ろしげな牙が上下に分かれていっぱい付いている。まるで魔物の歯のような形をしているのだ。しかもギョロッとした目まで付いている。


ソファーから逃げようとして、足を滑らせて床に座り込んでしまった。


ハルさんは目を見開いたまま驚いている。

「ええ!! これ今帝都で流行っているヘアアクセサリーなんだよ? 知らないの?」


床にへたる私が面白いのか、怖い物体をパカパカさせてこっちに来る。


「そんな魔物の口みたいなの、頭に付けません!!」


必死に言ったのに、ハルさんはますますクスクス笑う。

ああ、この人バリバリSッ気の人だわ。


「これは『バンスクリップ』って言ってこうやって、髪を挟んで止めるんだよ。今はこんな魔物の顔を模して、怖い目までつけたのが流行ってるんだ」


ああ、前世で見たことあるのと形状が似ています。

お洒落女子の皆さんが髪の毛を挟んでました。


でも、ここのは牙感が凄くて少しおどろおどろしいのです。

今こんなのが、帝都のキラキラ女子に流行っているんですね。


前世でもキラキラ女子の皆さんは、色々なヘアアクセサリーを付けてました。


しかし、私はお洒落なんて全くしなかったから、校則に違反するアクセサリーは買った事がなかった。

黒ゴムだけで生きていた私にとって、ヘアアクセサリーは無縁だったのです。


「初めて聞きました。バンスクリップって言うのですね」


「『エンゾ』ってお店を知ってるだろ? 知り合いの侍女に聞いて買ってきたんだ」


嬉しそうに話すハルさんには申し訳ないのですが・・・正直に答えよう。嘘と見栄はいかんです。


「ごめんなさい。そのお店知らないです」


ハルさんは、驚きつつ残念そうな・・それでいて納得した顔を次々にあらわした。

どういう感情なのでしょう。


「そうか、安いアクセサリーを売ってて、侍女達の間で有名なんだけどな・・・。もしかして高級店の『ナクトレン』で買ってるの?」


ハルさん、男子なのにどうしてヘアアクセサリーの店を、そうも熟知しているのでしょう。

キラキラ男子に死角はないのでしょうか。


「すみません、そのお店も知らないです・・・」


何も知らないって言ったらがっかりされると思ったのですが、意外にハルさんは安堵した表情だった。


「そうだよね。貴族女子が行くところは行かないよね。でも、こんなに全然知らないなんて、公爵家のお給料ってとんでもなく安いの? それとも誰かに搾取されてる? それか、虐められてない?」


なんて事を言うのでしょう!!

お父様はいつも、『当家に働きに来てくれたからには、幸せになって欲しい』と手厚い保証を付けてます。お給料も他の貴族の所より良い筈です。搾取も虐めもないクリーンな会社です!!

ブラック企業ではありません!!


「さ搾取も・・い虐めもないです!」


「そうかそれなら、良かった・・・でもあの屋敷には気を付けないとダメだよ。強烈な女がいるからね。ルーナなんてすぐに泣かされてしまうから気を付けてね。嫌なことがあったら俺か、ここの館長に言うんだよ」


強烈な女?

誰だろう?


思い当たらないけど、こんなに心配してくれているから、取り敢えず頷いた。


「ふふふ、いい子だ」


ハルさんがちょっと遠慮気味に、壊れ物を扱うように私の頭をポンポンと叩いた。


「当家の侍女に触るな!!」


エディーお兄様の声が響くと、一瞬で私の体はお兄様の魔法で出来た木の籠に包まれた。


「最近の司書は仕事もせず、女にばかりかまけているようだな?」

エディーお兄様がハルさんを睨めば、ハルさんも、

「公爵家のボンボンは、非常に心の狭い奴が増えているのか?」

と応戦する。


「ああああの、エディー様もハルさんも・・」

私がワタワタしていると、大人の余裕でテーゼ宰相が、二人の間に割って入る。


「さあさあ、エディック様もそれくらいにして、そろそろお帰りになった方がいいのでは? 公爵夫妻がお茶会から戻られますよ」


「ああ、本当だ。今日はお話し下さってありがとうございました」


エディーお兄様はテーゼ様に促されて、一礼をして踵を返した。


私もご挨拶をとテーゼ様とハルさんに礼をする。

顔をあげると、テーゼ様が「また来てね」と言って下さった。


ハルさんは何だかとっても悲しそうな顔をしている。

私の事を色々と心配して下さったのに、ごめんなさい。


口パクで「ごめんなさい。ありがとう」と言ったけど分かってくれたかしら・・・


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