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06 帝国図書館(1)


エディーお兄様がマイヤー家に来て3年経ち、私も14歳になりました。

現在、絶賛仲良し兄妹です。


エディーお兄様は16歳になり、領地経営や視察などに精力的に取り組んでいて、その優秀さは他の貴族の間で噂されるほどです。


更に勉強熱心に加え、人徳者。

また、『翠色の貴公子』とご令嬢方に囁かれ人気もあり、我が家の行く末は安泰です。


そして、今もエディーお兄様は勉強中。

私は早く終わって大人しくしています。


エディーお兄様は時間があれば、勉強が終わり次第、一目散に私の部屋に来てくれます。

それが嬉しくて、待機中です。


エディーお兄様と本の話をしていたら、あっという間に時間が過ぎてしまいます。

だって、前世は一人っ子で、しかもお友達もいなくて・・・ずっとぼっちだったのです。

本の話を誰かとするのがこんなに楽しいものだと、初めて知りました。


エディーお兄様とお話するのも嬉しいのですが、今日は何と特別に帝国図書館に連れていってもらえるんです。


ここに入れるのは、侯爵以上の爵位の貴族とその家族と、皇帝陛下の側近の方々のみです。


しかも侯爵以上の家族は15歳以上しか入れないのです。


そうです、普通なら14歳の私は入れません。でも、貴族のお付きの使用人には年齢制限がないのですよ。


それは、魔法に関する本が多いのですが、この国では15歳以上にならないと上級魔法の本を読む事が禁止されています。


庶民には魔力が少ないので、ここの本を開けて、魔法に関する本を読んでも、危険はないのですが貴族の子供は魔力が多く、上級の本を読む事は危険だとされています。

知識もスキルもない子供が、うっかり上級者魔法を詠唱して、魔法を発動してしまったら、大惨事になりかねないからです。


しかも帝国図書館には、上級よりさらに上の本がおいています。

魔力はあるが力を制御できない者がそのような特級の本に触れば、本に取り込まれてしまったりするそうなのです。

なので、庶民の侍女として入る分は許可してもらえます。


うふふ、自慢じゃありませんが、私は庶民の方々よりも、魔力がないのです。


・・・本当に自慢ではなかった・・・。


つまり、私はエディーお兄様の侍女として潜入するんです。

うふふ、女スパイみたいでしょ。

お父様やお母様には内緒です。


エディーお兄様の魔法で私の髪の色と瞳の色を、よくある茶色に変えてもらって、服装はお仕着せを着ています。


憧れの帝国図書館。

噂に聞いていますが、この世の全ての本を収めているのではと言うほど立派な図書館内部には、これまた美術館も兼ねているような、数多の美術品の数々が飾られているようなのです。


外観は図書館と言うより、立派な王宮です。


コンコン。

お兄様が勉強を終えられて、私の部屋に来てくれました。


「ああ、何て可愛いメイドさんなのだろう。こんなに可愛い侍女がいたら、絶対に屋敷から外にお使いには出せないね」


陰キャの私にはエディーお兄様の褒め言葉には、毎回恥ずかしすぎて悶絶してしまいます。


「そそそんなことはないです。私ごとき多大な褒め言葉・・死にそうです」


顔が真っ赤になるのが分かります。

エディーお兄様は、私がはくはくしているのを見ると、いつも満足そうにしていますが、揶揄うのはやめてほしいです。


「そろそろ時間だ。あんまり遅くなると、お出掛けしているお父様とお母様が帰って来てしまう。早く行こうか」


「はい、分かりました。エディーお兄・・エディー様」


私は侍女なので、お兄様と呼ばないように気をつけないと。


気弱な私がこんな危険な事をして、心臓をばくばくさせてまでも行きたい図書館。


そこには、普段読めない魔法の本が沢山あります。

しかし、ここで私が読みたいのは歴史書と地学の本です。


前世は歴女で、地学オタクでした。

ほとんど地学が研究されていないこの世界で、ここに来れば何かしらの地学の本が読めるのではと思ったのです。


エディーお兄様には、絶対に魔法の本が置いてあるブースには絶対に近寄らないと約束し、連れてきてもらいました。




帝国図書館の入り口には物々しい警備の兵士がきびきびと出入り口のチェックをしています。


黄金の門扉の手前で、私達の乗った馬車が止められました。


我が家の御者が、車内の人物の説明をしているのが聞こえます。


その後馬車の扉がノックされて、騎士の方が丁寧な口調で「公爵家の方と存じますが、規則の為車内を改めさせて頂きます。扉を開けてもよろしいでしょうか」

(うやうや)しく尋ねられた。


「はい、どうぞ」


エディーお兄様が私に合図するので、侍女の私が扉の鍵を開けます。


もうドキドキです。

髪の毛も茶色、瞳の色も変えてます。それに何と言っても私は引きこもり令嬢です。私の顔を知っている騎士の方がいらっしゃるとは思えません。


堂々とすればいいのですが、元々気が小さい私が堂々とできる筈もないです。


ガシャッと開けられた扉に、「ひえっ」と不必要な声を上げてしまった。

でも、お兄様が堂々とすかさずフォロー。

「私はエディック・マイヤーです。これは当家の侍女のルーナです」


「はい、本日の来館は伺っております。どうぞこのままお進みください」


騎士の方がもう一度私を見る。


何か不審者と思われて要るのでしょうか。

怖くて涙が出そうです。


騎士の方は私を見て微笑まれ、そのまま扉を閉めてくれた。


あーホッとした。

通れました。

変に緊張したせいで、疑われていたのかも知れません。


でも、この時疑われるどころか、騎士様達に、

「公爵家の侍女がプルプル震える子猫みたいで、可愛かった」と言われてた事は知りませんでした。



無事に門を潜ると、大きな宮殿のような建物が目の前に広がります。


馬車をおりて、大理石の階段を上ると両脇に見上げるような大きな一対の魔物の像があります。

何と不気味な像なのでしょう。


牛の頭にくねくね曲がる角が生え、胴体は人間の像だ。

この美しい図書館の入り口にふさわしくないわ。

もっと女神様の像にしたらいいのに。


通りすぎて振り返って、もう一度像を見た。

やっぱり趣味が悪いわ。


私が考えていたことが顔に出ていたのでしょうか? エディーお兄様が私にこそっと教えてくれる。


「ここには貴重な書物が沢山あるだろう。だから邪心を持っているものは通さないようにしないといけない。だから、善悪を見るギュメル神がここにいて、常に中に入る者を見極めているんだ」


「はー・・・あれは神様なのですね。しまった!! 私嘘をついて入ってますけど、大丈夫でしょうか?」


あたふたする私にエディーお兄様は、頭を撫でようとする手を、ハッとして止める。


「可愛いことを言うから、いつもの癖で撫でてしまいそうになったよ。アルルは邪心なんてないから大丈夫だよ」


「エディー様、私は侍女のルーナですよ。お間違えなく」


お兄様に大丈夫と言われ、余裕のできた私は、軽口を叩けるまで回復した。


「その調子だよ。ルーナ。ルーナの見たいところに行けばいいよ。私がそこについて行くから」


エディーお兄様、やっぱり優しいわ。

お兄様のお陰で、少ないながらも地学の研究論文があるところに辿り着いた。


さすがにここには、誰も来ないみたい。お兄様と護衛騎士一人と私の三人で、占領しちゃってます。


ふかふかのソファーに厚さ5センチはあるガラスの丸テーブル。

お兄様も一緒にその地学の本の近くにあった『地学と経済』という本を読んでいる。


私は経済が全く分からない。

インフレ、デフレ・・何度聞いても頭がこんがらがって、どっちがどっち? となっている。


16歳のエディーお兄様は、一度読んだ本の内容は理解しているらしく、以前叔父様の家でこの手の本を読み尽くしたので、経済の本は頭に入っているという。


私が読んでいる本を横目で見ていたエディーお兄様は、六角形の岩の固まりを見て喜んでいる私に、「そんな岩を見たことがないな」と興味を示してくれた。


これで嬉しくてまた、早口で説明をしかけた・・・

「これは、柱状節理という冷えたマグマの切れ目ができた状態なんです。これの・・・ごめんなさい。また捲し立ててしまいました・・・。」


エディーお兄様は、誰も近くにいないことを確認して、私の頭を撫でる。

「アルルの興味の有ることは私にも教えて欲しいと思っているよ。でも、折角だから説明は屋敷に帰って聞くね。今はアルルはここに有る本を読むのに集中して」


図書館の明かりが暗いので、エディーお兄様の瞳はさらに濃い抹茶色です。

「私もここで、是非読みたい本があるから探して来るよ。アルルは絶対にここから離れないでね」


「はい、エディー様。ここにいます」


声を出さず、『いい子だ』と口パクするお兄様。

美しい人は何をしても、様になる。


公爵家の息子に騎士が護衛をしないのはおかしいので、騎士はお兄様と一緒に付いていった。


帝国図書館だもの。

一人でここにお留守番してても平気よね。

しかも、地学のブースには誰もきそうにないし・・・。


・・・・なんて安心していたのが失敗でした。


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