59 イチャイチャは永遠に
(ラインハルト視点)
一回目の試合に負けた後、レオナルドとルーナが馬車に向かうのを見ていた。
本当に負け犬みたいに指をくわえて見ていたのだ。
きっとさっきの試合で、俺が無様に負けた話をしているんだろう。
あの綺麗な顔で、剣も強いなんて死角がない。
これじゃあ、どうしたって、ルーナを奪われてしまう。
どんなことがあっても、俺のもとにいて欲しい・・・。
それなのに、俺がルーナの手を振り払ったんだ。
あの時のルーナの目が脳裏に焼きついて離れない。
あんなに、寂しそうで悲しそうな顔を・・・俺がさせたんだ。
ルーナは始めこそ引き籠っていたが、どんどんと成長していった。
それはまるで、我が国の渡り蝶のようだ。
芋虫だった彼女は、臆病という小さな殻を脱ぎ捨てると、美しい蝶に変身してしまった。
渡り蝶はあの青く透ける羽で、3000kmも飛んでいく。
彼女も可憐なのに、あの見た目からは想像出来ないくらいに逞しいのだ。
どんな困難にも怯まない精神。
俺はずっと怯えていたのかも知れない。
あの渡り蝶のように俺を置いて遠くに行ってしまうのではないかと・・・。
今回、ルーナの事が絵本になり、ますます俺は一緒にいるべき人間として民に見られているのだろうかと、焦っていた。
その結果があの決闘まがいの試合だ。
ああ・・・俺だけ成長してない。
レオナルドと去っていくルーナ。
『行かないでくれ!!』
その時、ルーナが振り返ってなにかを懸命に探していた。
俺を探している・・。
自惚れている訳じゃない。
でも、確かにそう感じたんだ。
俺は痛む腹を押さえて、再び騎士団の訓練所に戻った。
このまま、大事な物を手放すなんて、愚か者のすることだ。
絶対に取り戻す。
ルーナも、プライドも。
そして、もう一度勝負して欲しいとレオナルドに頼むと、あっさりと承知してくれた。
その日から寝る間を惜しんで政務と剣術をこなしていった。
試合が明日に迫った夕刻。
レオナルドが明日の試合について、話があると言ってきた。
「ねえ、今日アルルーナ嬢に会って話をしたんだ。やっぱり素敵な女性だよね。でね、ただ単に試合するだけじゃつまらないから、彼女を賭けない?」
はぁ?
俺は怒りで殴りそうになった。
「ルーナは物じゃない!!」
へらりと笑うレオナルド。
こんな嫌な提案をする時でも、綺麗な顔で、腹が立つ。
「分かっているよ。だから、私が勝ったらアルルーナ嬢に求婚する権利が欲しいな。いいだろ?それとも試合をする前から負ける気なの?それに、アルルーナ嬢が俺の告白に頷くと思ってるほど、彼女に対しても弱気なの?」
苛つくが、レオナルドの強気な態度に負けるのも悔しい。
「分かった・・。しかし、俺が勝てば絶対にルーナには指一本触れさせないからな」
必死の思いで了承したのに、レオナルドは「はいはーい」と軽い返事で去っていく。
絶対に負けられない。
俺は最後の足掻きで、再び訓練所に戻った。
試合結果は・・・。
俺に遠慮して引き分けだと言う騎士もいるが、自分でも分かっている。
完敗だ。
仕掛けた筈が反対に迎え突きを食らって、後ろに飛ばされた。
間違いなく、俺の突きは浅かった。
情けないが、これが今の俺の精一杯だ。それなのに、こんな俺を格好いいと言ってくれるルーナ。
ルーナが満面の笑みで傍で笑ってくれる。今はこれでいい。
俺が歩みを止めなければ少しずつでも成長し続ける。
ルーナが傍にいてくれるなら、俺は頑張るだけだ。
そう決めると、悩んでいたことが一気に消えた。
彼女の深い愛情に対し、俺の履き違えたプライドはなんて浅かったのだろう。
男のプライドは、愛する者が幸せに笑っていられるように努力することだ。
今、ルーナは最高に素敵な顔で微笑んでいる。
やはり、ルーナは笑っているのが一番だ。
◇□ ◇□◇□
(アルルーナ視点)
1年後・・・。
爽やかな風が、屋根のないランドー型の四輪馬車に吹いている。
私の隣のハル様は、晴れやかな顔で民衆に手を振っている。
私もそれに倣い、小旗を振っている人々に向けて笑顔で手を振る。
結婚式を終えたばかりの私達を祝福するために、民が手作りの旗を振ってくれている。
「さっきの聖堂で誓ってくれた事は、本当だよね?」
笑顔のまま、私に質問をしたハル様。
「嵐の夜は身を寄せ合い、穏やかな日は幸せを喜び合い、一生涯、二人は寄り添って生きるって宣言した事ですか?」
「そうだよ。約束したからには、片時も離れないからね?」
ハル様が私の腰を引き寄せる。沿道の人々には馬車の中は見えませんが、建物の上の階から見てる人には見えてるんですけど・・・。
恥ずかしい・・でも、あのレオナルド殿下との試合から、私の皇太子妃教育のスケジュールが過密なのを知って、一年間待ってくれたのだから、これくらいは我慢しますね。
「勿論、ずっと一緒です」
「それなら、もう一つ約束して欲しい。今日の晩餐会で、他の男には3秒以上目を合わせないで欲しいんだ。それが無理なら、俺の物だって分かるように、ルーナの首筋にキスマークを付けてもいいかな?」
あれっ?
爽やかハル様は、さっきの聖堂に置き忘れて来ちゃったのかな?
「あの・・・諸外国の方々に失礼な事は出来ませんし、首筋にキスマークもダメですよ?」
「うーん・・・今日のそのドレスは本当に危ないんだよ。ルーナの細い首筋は舐めたくなるし、開いた胸元には目が逸らせない誘惑がある。ああ、そうだ。うなじもなぞりたくなる・・際どいよね。男なら我慢出来ない・・・それに足首も・・・」
停止することなく未だに私の危険な箇所を挙げてますが、私はハル様を無視して、民衆に意識を戻す。
その日の結婚祝賀会は、盛大に行われた。
レオナルド殿下も、オルドー国王の名代としてご出席下さいました。そして、ランティス帝国のオスナワルド皇帝に、妾同然の立場で嫁がせろと脅されていた当時、14歳の妹君のテーナ・オルドー王女を連れて来た。
流石、オルドー王国の血を継ぐ王女様。
見事なブロンドに、青い瞳は全ての男性を魅了できる程の妖艶さを持っていた。
女神級の美少女である。
こんなにも美しいにも関わらず、恥ずかしがりやで、レオナルド殿下の後ろを必死でついて回っている。その様子が微笑ましい。
エディーお兄様がハル様と私のもとに来て、お祝いの言葉を掛けて下さいます。
しかし、去り際に物騒な一言をハル様に耳打ちしていたなんて知りませんでした。
「もし、今夜かわいい妹に無理をさせたなら、明日王宮の城壁に吊るされると思ってくれ」
その言葉が聞こえなかった私は、エディーお兄様より頂いた言葉に感動していました。
「アルル、どんな事があっても君は可愛い妹だ。だから、どんな事でも頼って欲しい。それに、嫌な事があったら無理しなくていい。すぐに帰っておいで。これは義父上も同じ意見だよ」
「エディーお兄様・・・私・・お兄様の妹になれて・・本当に幸せです・・」
優しいエディーお兄様が涙を拭いてくれる。
「ほら、美しい花嫁に涙は似合わないよ」
「ねえ、俺も義理とはいえ弟になるんだから、もう少し優しくしてよ、エディックおにいさま?」
ハル様がエディーお兄様の腕をツンツンと突っつく。
「どうやら、今晩中に城壁に吊るされたいらしい」
よくは分からないけど、ハル様とお兄様の仲がよさげなので、喜ばしい限りです。
この結婚祝賀会には、リッカルダ国のカルロ様とベレニーチェ様夫妻もご招待しています。
誰の結婚祝賀会か分からないくらいに、熱々ぶりを披露中です。
「アルルーナお嬢様・・じゃなかったアルルーナ皇太子妃殿下、この度はおめでとうございます」
「カルロ・・・じゃなかったカルロ様も遠いところ駆けつけて下さいまして、誠にありがとうございます・・・うーん・・しっくりこないわ」
カルロと私は二人見合わせて、吹き出した。
「お嬢様、おめでとう」
「うん、ありがとう。カルロー」
やっぱり、こっちの方がいいねと二人で笑い合う。
カルロとベレニーチェ様の間には、既に娘がいる。
カルロが娘に激甘で、ベレニーチェ様が困っていると聞いた。
私にもかなり甘かったカルロ。娘に激甘って、砂糖を20杯いれた紅茶くらいの甘さなのでしょうね。娘に幼児言葉を話す、デレデレカルロを見てみたいわ。
さて、結婚祝賀会が終わりを迎える頃に、不思議な光景を目にしました。
それはエディーお兄様の後をついて回るオルドー王国のカテーナ王女の姿です。
エディーお兄様は恥ずかしがりやの女の子の心をとろけさせる、不思議な技を持っているのかもしれませんわ。
◇ □ ◇ □ ◇ □
ここはテオール離宮。
少し陛下のいらっしゃる宮殿とは離れた場所にある、皇太子夫妻のための宮殿です。
つまりはハル様と私の宮殿です。
そして、私のいる部屋は皇太子夫妻の寝室・・・。
ベッドの上で、今入浴中の夫・・ハル様を待ってます。
こんな時(初夜)にはどのように待っていれば良いのか、誰も教えてくれなかった。
手持ち無沙汰で、シーツの端を握りしめてみる・・・。
・・・それを伸ばす。
次は折ってみる・・・。
・・・伸ばす。
ガチャ!
「良かったぁ・・・起きてた・・。風呂から出てルーナが寝てたらどうしようってそればかり気にしてた」
「寝る訳ないです・・私も緊張してますし・・それに」
「それに?」
うっ・・。
いつかはハル様と・・・、ずっと憧れていた。
って言えないです。
顔を真っ赤にする私に、ハル様が隣に座って頬にキスをする。
それから、首筋に
そして唇に。
「俺はきっと、君じゃないと生きてる意味を見いだせなかった。俺の前に現れてくれてありがとう」
ハル様はゆっくりと私のナイトドレスの肩紐を外した。
ビクッとする私に、ハル様がこれ以上ない優しい微笑みで「優しくする」と言ってくれた。
眩しい・・・。
もう朝?
それにしては明るすぎる。
「ルーナ、おはよう」
軽くおでこにキスをするハル様。
爽やかな笑顔。
でも、知っている・・・。
そう、私は知ってしまった。
男の『優しくする』が虚言だってことを。
筋肉痛の体を起こし、ジト目でみると、急にあたふたと言い訳を始める。
「本当に優しくしようと思っていたんだ。でもね、良く考えてみて? 俺は極限状態を越えてた。そう、例えば空腹で死にそうな時にそこに肉があったとしよう。フォークとナイフで小さく切って、お行儀良く食べるかい? いや、きっと誰もが貪り食ってしまうだろう。しかも、俺の前には極上のルーナがいたんだ・・。もう、嬉しくて嬉しくて・・・。我慢できなかったし、加減も分からなくて・・・ホント・・ごめん・・」
必死に言葉を並べて、言い訳をするハル様が、可愛くてつい笑ってしまった。
「ふふ、なんですか?その『極上のルーナ』って・・・ふふふ」
私の笑みに、ハル様は私の怒りが収まったと敏感に感じ取る。
この時、微笑む加減を間違えると、相手に変な誤解を与えてしまうことを私は知らなかった。
それに、どうやらハル様は、私が微笑むとすぐに理性がなくなる体質になってしまったようです。
「襟元が少し肌けた状態で、無防備に微笑むなんて・・・ごめん・・無理・・」
ハル様の瞳が妖しく光った途端、ベッドに倒された。
「今度こそ、優しくするよ」
「え? 今から?」
◇□◇□◇
アルルーナが懸念していた、バトック州の雷の乙女の像は、住民がノリノリで作った為に遠くからでも分かるくらい黄金に光っている。
そして、アルルーナが皇后になった今でも、その像は大切に磨かれていた。
さらに、本人が忘れたいアルルーナの武勇伝は、訪れた人々に語り継がれ、アルルーナが主人公の「小石と宝石」の絵本と共に愛され続けている。
ーー 完 ーー
最後まで読んで頂きありがとうございました。
情けないことですが、減らない誤字脱字。
それを堪え忍んで最終話まで読んで頂いた事、深く感謝してます。
いいね又は☆→★、ブクマ等、評価下さった皆様、また誤字脱字報告にも心から感謝しております。
本当にありがとうございました。
(*´∀`)♪




