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57 ハル様、婚約破棄を望む?(3)


オルドー中立国の第2王子とシュヴァルツ帝国の皇帝陛下は、陛下の執務室で会談が行われることになりました。


執務室と言っても、流石は皇帝陛下の執務室。両手を広げても届かない大きな執務机に、ゆったりと座れるソファーと大理石のテーブル。暖炉を挟んだ壁には、建国の伝説が描かれたタペストリー。また、奥には陛下執務室室長の机もある。


早く来すぎてしまった私は、ハル様と一緒にその執務室に通された。

陛下とテーゼ様はソファーに座って、これから話される協議について余念がない。


私はレオナルド様が到着するまで、紅茶を頂いて隣に座っているハル様を横目で見る。

久しぶりにハル様に会えた私は喜んでいたけれど、ハル様のお顔は固くどこか距離を感じた。


そこへ、コート夫人と一緒にレオナルド殿下が入ってくる。

レオナルド殿下はオルドー国特有の美しい顔を隠す為に、深くフードを被っている。


執務室に入ると、レオナルド殿下はフードをあげて顔を晒した。


私を除く人々が、数秒間、時が止まったように動かない。

隣のハル様が何やらぶつぶつと呟く。

「これほどの男前とは・・・。金色の長髪、海のような青い瞳。切れ長の瞳は長い睫毛で影を落とし美しさを倍増。鼻梁、口元全てに於いて整っている。くそっ!彫刻像か?」

声が漏れている事にも気がつかないハル様は、我に返ると私の目を慌てて手で隠した。


「ハル様? 何をなさっているの?」

何のプレイが始まったの?


戸惑う私に意味不明の言葉をかける。

「男でも見惚れる美しさだ。ルーナは見てはならない。危険すぎる」


ああ、そういうことですか。

ハル様の行動に得心した私は、目の前のハル様の手を両手で下ろした。

「ハル様、大丈夫ですわ。座っているので腰を抜かしても平気です」

昨日陛下に聞いていたので、オルドーの人達の特殊能力については勉強済みですよ。


「え・・? ちょっと何を言っているのか分からないんだけど・・・」


あら? このような大事な事を陛下はハル様には仰ってないの?

仕方ない。ここは私がご説明して差し上げましょう。


「ハル様。オルドーの人達には顔を見せる事で相手の腰を抜かせる能力がおありだそうです。ですが、このように座っている場合はもう大丈夫です。ご安心下さい」


私がどや顔で説明をしたのに、執務室の物音が遮断されたようにシーンと静かになる。


能力の事、間違えたの?

「レオナルド殿下のお国の能力の説明・・・私、間違えてしまいましたか?」


陛下とテーゼ様に助けを求めようと顔を向けたが、何とも言えない・・そう、梅干しを食べたような顔をして目を逸らされた。


今度はレオナルド殿下を見る。

彼もまた、困った顔をしていたが、面白そうに話す。


「昨日は驚くほどの知識を見せつけられたが、今日は胸痛むほどの可愛らしさを見せつけられたな」


そして、私に微笑む。

すると、隣のハル様が再び私の目を片手で覆った。

「ですから、ハル様・・レオナルド殿下のお顔を見ても私は大丈夫です。それに、これでは話が進みません」


テーゼ様も、「そうだな、ラインハルト皇太子殿下、アルルーナ嬢は大丈夫なので、本題に入りましょう」と議事進行係を買って出て下さった。




話し合いはわだかまりなく進む。

陛下は苦境に立たされているオルドー国に、作物が育つまでの食料援助を約束した。


「アルルーナ嬢から、他に何かあるなら聞こう」と陛下に促される。


チャンスです。

是非レオナルド殿下にこの場で確認しておきたい事が・・。


「レオナルド殿下にお願いがあります。陛下はオルドー国の作物が育たない不毛の地を開発協力をし、豊かな実りの大地を保証してくださいました。だから、ランティス帝国と手を切って、我が国の友好国になってください」


帝国のすぐ東隣にある勇猛果敢なオルドー国。その国がランティス帝国と水面下で繋がられる可能性があるなんて、脅威でしかないもの。


真剣にレオナルド殿下の目を見てお願いする。


「勿論です。武力をもって中立を守ってきましたが、ここまでです。こちらこそ、よろしくお願いします」


レオナルド殿下が握手を求め、私に右手を伸ばす。

私も、素直に右手を伸ばしたが、レオナルド殿下の手をハル様が取り、固く握手した。


「自由諸国との協力関係は、我が帝国の外交政策にとって非常に重要です。どうぞよろしくお願いします」

ハル様がそういって、固く握手をする様はとても立派です。

しかも、二人は固く固く握り合う。

うん、実に友好的だわ・・と思ったのは数秒でした。


友好の握手なのに、違って見えてくるのはなぜ?

これから、協力しようっていっているのに、二人とも何をしているの?

それじゃあ、まるで睨み合いよ。


「握手はそれくらいにして、私の話を聞いて下さいますか?」

交互にハル様とレオナルド殿下の顔を見ると、双方渋々手を放した。


「オルドー国は乾燥地帯が多く、作物が育たない不毛の地。しかし、このような土地にも作物が育ち多くの実りをもたらす事が出来ます」


オルドー国では、乾燥地帯にこれまで幾度も農作物を試してきたのだろう。

私の言葉に信じられないという顔をしている。


乾燥地帯と言ってもステップ気候くらいの雨量はある。

ならば、任せて下さい。


その他に、オルドー国南部の山で試したい植物がある。

火山灰土質の標高1300メートル付近で珈琲豆が出来ないか考えている。

もし成功したら、上質な珈琲豆が出来るわ。


でも、先ずは火山灰に覆われた土地を、天地返しで改良しないと行けません。


「昨日お話した、『天地返し』の件ですが、シュヴァルツ帝国の土魔法が扱える方に、しばらくの間オルドー国で作業してくれる方を募りたいのですが、陛下・・どうでしょう?」

私の提案に、陛下も快く賛成してくれる。


オルドー国は、武力第一の気質の方が多く、そうなると炎魔法の使い手が自然と多くなる。


でも、今欲しいのは土魔法。

土魔法が使えれば、土壌改良も早く終わる。


協議は穏やかに終わった。

さてと、屋敷に帰って少し休みたい。

昨晩から、オルドー国の気候や作物などあらゆる資料をひっくり返して調べていたので、終わった途端疲れが出てしまいました。


執務室を出てふらふら歩いていると、ハル様が後ろから追い掛けて来て下さった。

「送って行くよ」


いつもなら、お忙しいハル様にお手間を取らすわけにはいかないと、ハルさまの申し出をお断りするのですが、今日は久しぶりのハル様に甘えたい。


「ありがとうございー・・」


私の返事を遮る人がいた。

「いや、私の国の事で迷惑をかけたのだから、私が送っていこう」

突然後ろから現れたレオナルド殿下は、すでに私の真後ろに立っている。

「それに、オルドー人は強いし剣には自信がある。送るなら私の方が最適だろう?」


レオナルド殿下の口調は、ハル様を挑発しているかのようです。

不穏な空気が辺りを包む。


「じゃあ、手合わせで決めようじゃないか」

ハル様が無茶な事を言い出した。


「ハル様、いけません。大事な御身です。お止め下さい!!」

私が必死でお止めするも、二人は騎士団の訓練所に歩いていく。


狼狽える私に、パウラが落ち着かすように横から肩を抱く。

「お嬢様、ここはハル様の様子をご覧になった方が良いでしょう」


「でも、お怪我などされては大変です」

再び止めようとするが、制止された。

「お嬢様、最近のハル様は焦っておいでです。旦那様もそれを感じ、危惧しておいででした。これは丁度良い機会ですわ」


お父様が、気にしている事?

私は何も感じなかった。

ハル様の険しいお顔を見るが分からない。


そうしているうちに、騎士団の訓練所に着いてしまった。

騎士達は何が始まったのだろうと、集まってくる。

二人の様子を察した一人の騎士が審判にたった。


二人は上着を脱いで、練習用の剣を持ち対峙する。


「始め!!」


二人は間合いを取っていたが、先に仕掛けたのはハル様です。

右足を一歩踏み出すと大きく振りかぶり、間合いを詰めたらすぐに剣を振り下ろす。だが、レオナルド殿下は易々と剣で受け止める。

ハル様は送り足で後退。そしてすぐにハル様が剣を振りかぶり相手に機会を与えるが、レオナルド殿下もそれには釣られない。

それ以降暫く二人は激しく打ち合う。


レオナルド殿下は細身なのに、長髪を靡かせて優雅に立ち回っている。


二人の剣の音が訓練所に響く。


しかし、最後はあっけなかった。

ハル様が踏み込んだより速くレオナルド殿下がハル様の右脇腹を強く打った。

「そこまで!!」

審判をしていた騎士団員が手をあげた。


苦しげな顔で倒れたハル様。


私はすぐに駆け寄った。

しかし、ハル様が私の手を払う。


「大丈夫だから・・・」

ハル様はそういうと、ふらつきながら立ち上がり、私を見ずに宮殿へと立ち去っていく。


追い掛けようとする私を、ジュスターさんが止める。


「今お嬢様に慰められたりなんかしたら、彼は底無し沼のジレンマから出てこれなくなるわよ」


「でも・・・」

私がなにか言おうとするも、今度はパウラが首を横に振る。


仕方なくマイヤー公爵家の馬車のところに向かって歩きだした。


あんな、ハル様は初めてだ。

いつも明るくて、私の気分を楽にしようと気遣ってくれるハル様。


でも今日は朝から様子が変だった。

にも拘わらず、婚約者なのにちっとも気が付かないなんて・・婚約者失格だわ。


「ねえ、私の事忘れてない?」

レオナルド殿下がむくれた声を出す。

「も・・申し訳ございません。今日は話し合いが進み本当に喜ばしい限りです。詳しい技術提携の話はまた資料を作りご説明させて頂きます」

それでは、ごきげんようと頭を下げたのに、レオナルド殿下私と一緒に横を歩いている。


「そんなに、邪険にしないでよ。少し話もあるんだ」


それならば仕方ないです・・・。

私は一緒に馬車の方へ向かった。


ここで、ハル様の声が聞こえたような気がして足を止め、宮殿の窓にハル様の姿を探した。


沢山の窓は光を反射して、空ばかりを映している。


ハル様・・・。

いつも私の前を歩いて、私が遅れそうになった時も、振り返って待っててくださったじゃないですか・・。

でも、今・・前にも後ろにも360度見回してもハル様はいない。


私・・・迷子になりそうです。


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