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56 ハル様、婚約破棄を望む?(2)


レオンさんの耳にフッと息を吹き掛け、艶っぽい声で囁く。

「あら、大胆ね・・・。いきなり女性の腕を掴むなんて、強引なのね。・・でも・・・情熱的なのは嫌いじゃないわぁー」


と囁いたのはジュスターさん。

野太い声が間近で聞こえたレオンさんは、耳を押さえ椅子を倒して立ち上がった。


「何なんだ?君達は!!」

レオンさんの叫びにも似た質問に、パウラが冷静にかつ、遊んで答える。


「ふふふ、私達は悪の組織からお嬢様を守る・・・えーっとチーム名、何にします?」


聞かれたパウラが、人差し指を頬に当て考える。

「そうねぇ、チーム名はピンクスネークなんてどう? ほら、私達って結構ねちっこいタイプじゃない?」

パウラもジュスターさんも、今はチーム名とかはいいのです。


悪のりしだすと止まらなくなる二人を前に、頭を抱える私。


「あの、そろそろ本題に戻って下さい」

私がお願いすると、二人は真剣な顔になる?


「そうね、大事なのはお嬢様の手よね。アルルーナお嬢様の手を勝手に掴むなんて許されないのよ、そこの男子!!」


ジュスターさんがレオンさんに『めっ』と怒る。


呆気に取られていたレオンさんだが、急に柔らかい雰囲気になった。


「ああ、嫌だな。手を掴んだんじゃなくてゴミを取ってあげたんだよ」

ほらっと手の中の糸屑を見せる。


「まぁ、それはありがとうございます」

私はゴミを取ってくださったレオンさんへ、深々と頭を下げた。


「お嬢様ったらチョロすぎ?」

・・パウラ、主人にチョロいって、言いすぎよ。

「そこは素直って、言ってあげてぇ。いくらなんでも可哀想よ」

ジュスターさんもフォローになってないわ。



ちゃんとお礼を言ったのに、レオンさんまでも私を憐れみの目で見ている。

「・・・やめた・・・。こんな人を相手に下手な小細工をしている自分が馬鹿に思えてきた・・・」


え? ディスられてます?

態度を変えたレオンさんが、ドカッとソファーに座った。


「実は・・私はオルドー中立国の第2王子・・レオナルド・オルドーです」


・・・あら・・これは・・・とっても嫌な予感。

今聞いたビッグネーム、私の記憶から消せないかしら。


「殿下!! よろしいのですか?」

エリザベス・コート伯爵夫人が険しい顔で私とレオナルド殿下の顔を交互に見る。

それは、伯爵夫人もこの件に加わっていると自白したようなものです。知らぬ存ぜぬを貫いて欲しかったわ。


心の中でぶつくさと文句を言っていたら、レオナルド殿下がテーブルに手を付いて頭を下げた。


「貴女の知恵で私の国と私の妹を助けて欲しい。この通りだ」


展開が早くてついていけない私は、慌ててしまう。

だって、刺繍を習いに来たら、彫刻のイケメン男性が動き出した。そして、次は隣国の第2王子って言ったと思ったら、今度は『助けて』というの。


もうついてけない。

でも、切羽詰まってるレオナルド殿下の様子に、話だけでもと思ってしまった。

だって、国と妹って言ったのよ。

抜き差しならない所まで追い詰められてる人が目の前にいて、放ってはおけない。


「先ずは話を聞かせて下さい」


これでまた、余計な事に首を突っ込んでしまったよね・・・。





レオナルド殿下の話は二年前に遡る。

オルドー国は2年前、国の中心の火山が大噴火した。

その吹き出した火山灰で被害が始まったというのです。

灰は高く積もり、畑は使い物にならなくなった。

乾燥地帯が多い国にあって、僅かな畑が灰に埋まり作物が作れなくなった事は大打撃である。


備蓄の食料も底を付き、このままでは国民が飢えて死んでしまう。


そこに目を付けたのが、もう一つの帝国、ランティス帝国のオスナワルド皇帝だ。オルドー国の王女のカテーナ様を自分に嫁がせろと言ってきた。それが無理ならシュバルツ帝国の属州の不満を煽り暴動を起こし、シュバルツ帝国が揺らいだなら食料支援をしようと提案してきたのだ。


オルドーの王女はまだ14歳。方やオスナワルドは62歳。

大事な王女を野獣に差し出す事も出来ず、オルドー国は今まで守ってきた中立国の立場を捨てて、シュバルツ帝国の属州に接近した。


だが、どの属州も次期皇后(アルルーナ)に期待して、その誘いには全く動かなかった。

焦ったレオナルドは、密かに遠縁であるコート夫人に頼んでアルルーナに会いに来たのだ。


「うーん・・・」

話を聞いてしまったら、このままさよならなんて出来ないわ。


だって何なの!!

62歳の思慮分別を弁えた大人が、14歳を差し出せって!!

噂では聞いた事あります。

オスナワルドが変態だって・・・。


オルドー国の皆さんの気持ちを思うと放ってはおけませんわ。


「わかりました。畑を耕しましょう」


グッと握りこぶしを握って立ち上がったのに、レオナルド王子は白けたお顔です。

「先程、説明したのですが・・、畑は火山灰で覆われて耕せない状態です」


耕せるくらいならここには来てませんよね・・。

「でも、耕せるのです。それは『天地返し』という方法で行います」


「「「「天地返し・・?」」」」


あら、レオナルド殿下とコート夫人、パウラとジュスターさんがハモったわ。


「先ず、1mの溝を掘って火山灰に埋もれた元の畑の土を出します。そして掘った穴に火山灰を埋めます。その上に畑の土を乗せます。これを繰り返して畑を再生するのです」


江戸時代の『宝永噴火』では人力で行った気の遠くなる作業。現代ではトラクターを使って行っています。


でも、この世界には土魔法を使える人が沢山いる。その魔法を使えば畑の再生は早いでしょう。

さらに私は話を続けた。

「しかし、それまでの繋ぎの食料問題が残っています。ですので、その問題解決に手助けをしていただける能力が一万倍の方をご紹介します」


「能力が一万倍って・・それは?」

レオナルド殿下の目に緊張が走った。

「それは勿論、シュヴァルツ帝国の皇帝陛下ですわ。この問題は非常に重要な国際問題ですもの。私の一存では出来ません」


「そりゃそうだ」と外野のパウラとジュスターさんが頷く。


でも、レオナルド殿下はそこまでの決心は付いていなかったようで、分かりやすくたじろいでいた。


「・・・そうだな。それしかないな・・。もう方法は・・残ってないな・・」


恨めしそうに私をじっと見詰める目には、最後のチャンスとばかりに再びナルシストイケメンさんだった時に見た流し目で微笑む。


何がしたいのかな?

「・・・えっと・・、では陛下との謁見が早期に叶うように取り計らいましょうか?」

私が、そう提案すると盛大なため息をつかれた。


今のはおかしいタイミングのため息ですよ。

まるで、私が空気を読んでいないような、その呆れたため息をつく理由が知りたいですわ。

どう考えても、私は全然悪くありません。


頭の血管がブチブチと切れそうです。


「そんなに怒った顔しないで・・。私が悪かったよ・・。実は私のこの顔を見た貴女が、私の魅力にハマってオルドーについて来てくれると思っていたんだ。・・・でも、無理だったねぇ。全然靡かないや」


流石、ナルシストイケメンさん。

考える作戦がもう、ナルシストです。


「流石に公爵令嬢を誘拐しては国境を越えられないし、自発的について来て欲しいと思ったんだけどね」


「私一人がオルドー国に行ったとしても、何も出来ませんよ」

私を拐うより、もっと他の優秀な人を狙ったほうが有意義ですわ・・・。


「ふっ・・。君は自分の事を本当に何も分かってないんだね。まあ、いいや。私は決心した。私を皇帝陛下に会わせて欲しい。この通りだ」


うん。それが賢明な判断です。


「隣国である貴方の国が、ランティス帝国に味方される方が困るので、こちらからも是非にお願いします。我が帝国の皇帝陛下に会って下さい」


全く腹の探り合いが要らない、私の素直な言葉に、レオナルドが気が抜ける思いで居たことは知らなかった。



それから、私はすぐに宮殿に向かう。用件を話すと、フォルクマ・シュヴァルツ皇帝陛下は、「息子の嫁の初めてのお願いなら、何でも聞こう」とすぐに了承して下さった。


しかし、陛下は他の事が気になったようで、中々私を屋敷に帰して下さらない。

只今、訳の分からない質問を陛下からされています。


「ところで、アルルーナ嬢はオルドーの第2王子に会ったのだな?」


「はい。先程偶然に遠縁のコート夫人の屋敷にいらっしゃって、お会いしました」


ここで、陛下が険しい顔になった。

「オルドーの国の者は強く、そして・・・大変な美丈夫だと聞いておる。世の女性は目が会っただけで腰が抜けるらしいぞ」


へー・・。

確かにイケメンだった。

「確かに、美しいお顔でした。でも、お顔を見て腰が抜ける事は、医学的に考えてもないのではないでしょうか?」


「・・・・・。」(陛下)

「くっ・・・」(テーゼ様)


二人の幼子を見るような反応は何?

そうだ、ここは異世界でした。魔法なんて簡単に使える世界です。きっと特殊な力があるのかしら?


「もしや、オルドー人にだけ使える特殊能力で腰を抜かしてしまうのでは?」

かのメデューサは人の目を見ただけで、石に変えてしまう事が出来たわ。そういう事なのね?


「うっっ・・・。」(陛下)

「ふ・・・・・・」(テーゼ様)


また、変な事を言ってしまったのかしら?

陛下が両手で顔を隠して、大きく肩を揺らしている。


「へ・・へいか・・・アルルーナ嬢に・・・し・・失礼ですよ」

隣の宰相のテーゼ様は片手で口元を隠して、斜めを向いていらっしゃる。


二人して、顔が真っ赤なんですが・・・。


もう、何か言って下さい。

二人してどうされたの?


「・・・うん。良いお嬢さんを息子は選んだと誇りに思うよ。じゃあ、アルルーナ嬢。明日ね」


分からないけど、立ち直った陛下とテーゼ様は、微笑んで部屋を出る私を生ぬる~い目で見送って下さった。


うーん・・。

気になるけど、明日の準備のために屋敷に帰りましょう。

本当なら、せっかく宮殿に来たのだからハル様にお会いしたかった。

でも、仕事が忙しくて会えないと先ほど連絡がありました。


視察から帰ってきてから一回もお会い出来てませんが・・・。


ハル様、本当にお忙しいのですか?


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