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49 シーソーゲーム(3)


曲が漸く終わる。

ハル様の色気攻撃に耐えたわ。


でも、ハル様は私の手を放さない。

「バイエナンがルーナの匂いに釣られて、目が光ってやがる」


ベイエナンはハイエナに似た魔獣ですよね?

それがこの会場に来ているのですか?

私がキョロキョロすると、顔をハル様の胸に押し付けられる。


「今ルーナが他の男と目を合わせたら、飛びかかってくるぞ。安全地帯の壇上まで早足でいくぞ!!」


「飛びかかるって・・・誰も、私に興味なんて持っていませんよ・・ふふ」

ハル様の大袈裟な言い回しに笑いが漏れた。

でも、ハル様が呆れた顔で私を見て首を横に振った。


「ルーナが俺のところに来るまで、何人もの男が跪いて求婚をしようとしていたのを知らなかったのか? エディックが口上を言う前に魔法の枝で祓ってたんだぞ!!」


私達の前に飛び出してきていた男性達は私に求婚しようと出てきていたの?

知らなかった・・・。

だって、男性達が何かを言う前にエディーお兄様が枝で投げてたんだもの。分かる訳がないわ。


「・・・エディックのお陰で助かったよ」


そう言い終わった時、ハル様は曲の切れ目と同時に私の腰を引き寄せ、半ば強引に抱き上げるように陛下のいる壇上に駆け上がった。


皇帝陛下も険しい顔で会場を見渡す。

「アルルーナ嬢・・今日は一段と美しく飾り立てていて、いかん・・誠に・・いかん」


陛下にダメだと言われるなんて・・どこがいけなかったのだろうと我が身を確かめる。


宰相のテーゼ様は、私のそんな様子を微笑まれながら説明をして下さった。


「アルルーナ様はどこも悪くはございませんよ。陛下も皇太子殿下もアルルーナ様がご入場された時から、招待客の老いも若きも男性が色めきたったので、焦っておいででした」

テーゼ様は陛下とハル様を交互に見ておかしそうに笑いながら、さらに続ける。


「アルルーナ様がこちらにこられるまでお二方が冷や冷やしていましてね・・・。それで、他の者に横取りされぬように急遽本日婚約の発表となったのです。いやー、親子揃って同じように青くなったり赤くなったりと大変でしたよ」


そうだったの・・。そのお陰でかなりの度胸が付きましたわ。


壇上に上がると私を見る目が様々で、このような景色は初めてで驚きました。

ある人は私を認めて下さっている温かな瞳。またある人は値踏みをするような鋭い眼差し。一番怖いのは私に対する明らかな敵意を隠しもしない目。


でも、どうしてでしょう。

どの目に晒されても、今までより怖さは半減している。


彼らに対するあしらい方を覚え、戦える力をつけたからなのでしょうか?


今なら誰でもどんとこーいって感ですわ。

なんて、余裕ぶっていたらまた次のピンチがやってくるんです。


何とエディーお兄様の父である、ショーン様がどうやって入ったのかやってきたのです。

しかも、ドカドカと踊っていらっしゃる皆様を押し退けて・・・。

ダンス中の婦人を力付くで押し倒し、「そこを退け!!」

と叫び音楽もダンスも中断させてこちらに一直線に向かって来ます。


「そこのアルルーナは、知恵も浅く魔力もない!!そんな女を皇太子妃に迎えたら、この国は終わるぞ!!」


くうう、痛いところを突かれました。未だに魔法は使えません。

それに浅慮と言われればそうです。

愛だけでは乗りきれないと自分自身でも痛切に思っていた。

愛の力で魔力が増えて、魔法が使えるようになるなんて、お伽噺だった。

魔力は増えてはいるんですが、まだ使えない。


私が肯定も否定もしないので、人々が騒ぎだした。


その時、「浅慮とは貴方を言うのではないですかな?」と私を庇う発言をしてくれる男性が現れた。


それは、先日テダマラ州から大理石を持ってきた40歳くらいの役人さんです。


「ふん、誰だお前は?」

ショーン叔父様が睨むが、その人は気にする様子もなく、自己紹介をする。


「私はテダマラ州の総督のガストーネ・ラ・トレル・テダマラと言います」


・・・。

総督と言う身分もそうですが、つまり、お名前にテダマラが入っているのは・・・つまり・・

旧テダマラ国の国王です。


貴族はそういった肩書きに弱く、テダマラ総督が次に仰る言葉を静かに待っていた。


「私は我が国で産出される岩石の用途について、アルルーナ令嬢に質問した所、有意義な利用方法を答えて頂きました。普通のお嬢様に答えられませんよね?」


テダマラ総督に合わせて、テーゼ様も一歩前に出る。

「そうです。このアルルーナ嬢は開拓地の木材の調達が出来なくなったときも、木材に変わる石材を提案し、しかも建材として使える岩石の場所を示したのです」


ざわつく会場。


「私もよろしいでしょうか?」

ここで凛とした女性の声が・・・。

リッカルダの王女である、ベレニーチェ様が私の横に立つ。


もちろん、ベレニーチェ様の横にはカルロがいる。

私と目が合うとウィンクした。


「私の王国で、誰も見つけられなかった銀山を逸早く見つけたのは、アルルーナ様ですのよ。このような多彩な知識を持つ女性を私は知りません。彼女の知識を上回る物をお前が持っているとは思えませんが? それともお前にはもっと素晴らしい知識があるのですか?」


ベレニーチェ様がショーン叔父様に向かってビシッと人差し指でしっかりと差す。


人を指差しちゃダメって言うけれど、今回はこのベレニーチェ様の姿を絵に残したいくらいに嬉しいです。


褒められ慣れていない私は、恥ずかしさで蕩けそう・・・。


会場の人々も私を見る目が、全く変わっていて、尊敬の眼差しが混じっているのが分かります。


ショーン叔父様も立場が逆転したのを感じ取ったのでしょう。

このまま、静かに去って下さいと祈るばかり・・。

でも、そうはいかなかった。


ショーン叔父様は再び瞳にどす黒い光を宿した。

「それは、わかった・・だが、魔法はどうだ? 貴族であれば何かしらの魔法が使える筈だ・・。使えるなら、今すぐ使って見せて見ろ!!」


うー・・。

言い訳すら出来ません。

本当に杖を振っても叩いても何をしても・・出来ないものは出来ない。


先程までの、人々の尊敬の眼差しも薄れていってます・・。

人々の評価ってこんなにも、揺らぐのですね・・。


「いい加減にしろ!! 私の妹をこれ以上苦しめるなら私が許さない!!」

エディーお兄様がショーン叔父様を排除しようと木の枝を伸ばし叔父様の体に巻き付けた。


ショーン叔父様は実の息子であるエディーお兄様にあろうことか唾を吐いた。

「くそがっ!! お前が生まれてから俺は碌なことがない。お前は俺の疫病がっ!!だぁぁぁぁああぁぁぁぁ」


天井から、何本もの雷に似た閃光が叔父様を貫いた。


シュー・・・と煙の中で叔父様がピクピクと痙攣中。


「叔父様!!!私の大事なエディーお兄様を侮辱なさる言葉は許しませんことよ!!!!」


怒りで周りが見えなくなっていたが、どうやら私……魔法を使ったみたい。

しかもこの世界には珍しい雷の魔法。


うーん・・虎の上下ビキニとか似合う美女がいましたが、浮気なダーリンに電撃?・・あんな感じでしょうか?


しかも未だに怒りの収まらない私は、体から電気がバチバチと漏れている。

静電気なんて可愛いものではない。電気鰻状態ですわ。


しかも、電気でのせいで髪の毛が逆毛立ち、体からは放電し怒りの仁王立ち。


会場の皆さんの僅かに残っていた尊敬の眼差しは消え失せた。

そして、全て恐怖の眼に変わっていた。


正気を取り戻したけれど、遅すぎたわ。

ああ、早くなんとかしないと・・焦る私の目の前に、ピクピク悶えるショーン叔父様が邪魔です。

まさに、ショッキング映像。


こんなのが、横たわっている限り皆さんのショックは薄らいだりしないでしょう。


ここで、やはりエディーお兄様が助けて下さいました。

木の枝でするするとピクピク叔父様を移動させると、ハル様が騎士に命じてどこかに運び去った。

ついでに、ショーン叔父様を忍び込ませたテイラー伯爵も連れていった。


見事な連携プレーのお陰で、目の前の衝撃映像は、なくなった。


「ああ、我が婚約者は強くて博識。なんて素晴らしいのだ!! アルルーナ・マイヤー公爵令嬢を皇族に迎え入れ、益々我がシュヴァルツ帝国は発展するだろう」


ええ?ハル様!!それはちょっと強引じゃないですか?


皆さんがドン引きしている中、巻き返すなんて出きるのかしら・・・? でももうこうなったら破れかぶれです。


人々に向かって何も無かったように、私は微笑む。

さっき吊り上げていた目尻を下げて、慈愛たっぷり注いだ瞳を向ける。

先程、叔父様を怒鳴った声より高く朗らかに愛情を込めて話す。

「帝国の発展とは、皆様の領地の発展に他なりません。私の力の及ぶ限り尽力いたします」


「「「おおお!!」」」


皆さんの瞳から恐怖の色が消えて、今度は期待・・・と言うよりお金の色に光ってます。


皆さんの正義の持論『有益は正義』という事でしょうか。


今日一日で私の評価は下がったり上がったり折れ線グラフにすると激しい変動だったでしょう。

とにかく、奇跡的に最後には右肩上がりになったのは良かった・・。


これで、良かったのかしら?


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