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48 シーソーゲーム(2)


私とエディーお兄様は一旦会場横の貴賓控え室で、大勢の招待客が入るまで待機です。


時間が経つとホワイエから聞こえるざわめきが小さくなる。

それに伴い、宮殿の侍女が私のドレスや髪型の最終チェックにやってきた。

ドレスの座り皺を丁寧に湯気を当てて取ってくれる。


パウラが一本一本丁寧に結ってくれた渾身の後れ毛も見直して、崩れたところを直す。


髪の手直しが終わると、呼びにきた侍女に先導されて廊下に出た。

ホワイエも廊下も、先程までの明るさはなく、蝋燭で照らされた程度の明るさになっていた。

そして、人影もまばらだ。


その分会場からのざわめきが大きい。

「エドアルモ・チーフラ侯爵様、ファイビナ・チーフラ侯爵夫人ご入場」

前にいた老夫婦が、私達に一礼する。

そしてチーフラ侯爵夫人が、「夜会、楽しんでね」と微笑んで会場の中に入っていった。


入り口がライトアップされているせいで、二人の姿は光りに吸い込まれるように消えた。


私達は最後なので、後ろには誰もいない。


「マイヤー公爵のご子息、エディック・マイヤー様、アルルーナ・マイヤー様ご入場」


光のカーテンに一歩入る。

・・・・・・・・。


会場が水を打ったような静けさ。


あれ?

どしたの?


「アルル、一礼して」

エディックお兄様の声に反応して軽く腰を落とす。


あまりの『しーん・・』に一礼するのを忘れてたわ。


背筋を伸ばして歩き出すと、ざわめきが大きくなった。


「あの方が傲慢令嬢と呼ばれてる方でしょう?」

クスクス・・・

「いえいえ、あの方は気がお小さくて話しかければ、子犬みたいに震えるという方ですよ」

クスクス・・・

情報が錯綜過ぎる。


この状況下で、自分の事を他人がどう思っているのか気にするなという方が難しい。

だって、あの人達・・・私に聞こえるように言ってるんだもの。


会話の間に挟まれるクスクス嗤う声だって気になる。


「アルル、今の君は最強なんだ。聞こえた方にゆっくりと微笑んでごらん」

エディーお兄様がこの悪意の渦中に、微笑めと仰る。


戸惑いの顔をお兄様に向けると、ふわりと微笑み「ほら」と再び催促された。


そうだわ。本日が今まで頑張ってきた最終試験なんだ。

微笑む練習は、頬の筋肉が攣るまでやった。


固まった表情筋を解放。

口角を上げて、クスクスが聞こえる方向に向けて、まずは威嚇射撃。

打て!!(微笑め)

続いて10時の方向に・・

打て!!(さらに小首をかしげて微笑め)


敵は撃沈!!

微笑みを向けた方から、『ほおぉお』とため息が聞こえた。


油断してはいけない。

敵が現れた。12時の方向から大胆にまっすぐこちらに向かってくる。


「ブロスキ伯爵とその娘ジルベルダ嬢だよ。娘の美しさを武器にラインハルト殿下を狙ってる親子だ」

エディーお兄様が、敵認定した相手の情報を私に囁き教えてくれる。

ハル様を狙っている?

頭の中の侍大将が『迎え撃て』と叫ぶ。

ブロスキ伯爵が、ふてぶてしく私達の行く手を遮った。

「初めてお目にかかります。私はカスト・ブロスキと申します。これは私の娘、ジルベルダです。お喋り好きなので、是非アルルーナ様の友達の末席にお加え下さい」


きっとこの方は、私がまともに話せないという噂を聞き付けて、私を潰しに来られたようです。


「初めまして。私がアルルーナ・マイヤーですわ。私と交流を持って頂けるなんて、とても嬉しいわ。よろしくねジルベルダ様」


優雅に挨拶して見せる。

相手の伯爵親子は、『まともに話も出来ないアルルーナ』の筈が、おどおどしない私に焦っています。


「・・まあ、アルルーナ様にそう言って頂けて嬉しいわ。あら?アルルーナ様のドレスは今の流行りの短い丈のドレスじゃないのですね。もしかして・・ファッションが苦手なのかしら? でしたら、教えて差し上げてもよくてよ」


以前の私なら、『そうなんですか、ご親切にありがとうございます』とマウントを取られていることも分からず、教えてもらっていたでしょう。


空気を読めなかったし、もし読めたとしても意気消沈して尻尾巻いて逃げ帰っていたでしょう。


でも、戦い方は教わりました。


ええっと、こんな時は・・・怖いけれど、反撃しないと再び打ち込まれてしまう。


「ジルベルダ様は流行りを追えていいですわね。私、伝統を重んじる方とこれからダンスをする予定なので、正装ではない(くるぶし)を見せるドレスだと相手に失礼をしてしまう事になるのですもの。あなたはそのドレスで踊って下さる方とのダンス、楽しんでらしてね」

(訳;その略式のドレスでは、皇太子殿下とは踊れませんよ)


「え? これ正式なドレスではないの」

焦るジルベルダ様を放置して、軽く会釈してその場を離れた。


だって、汗が全身から吹き出しそうな程、怖かったんですもの。

それを分かってくれたエディーお兄様が「よくやった」と褒めて下さった。


先ずは一勝です。


ホッとしたのも束の間。次々に刺客が現れる。

クッ・・60メートルが長いわ。

厄介なのが、私の前で急に跪いて行く手を止める男性達。

一体何のつもり?


でも、彼らは一言も発する事なく、エディーお兄様の木の枝に放り投げられた。

えーと・・飛ばされたあの方達は、大丈夫なの?

心配になるが、私も先を急がねばなりません。

だって、まだ半分の距離しか進んでないのですもの・・・

しかし、敵の包囲網を突破すべく

トールノン伯爵夫人と母に教わった手練手管を使って撃退していく。


ここで救世主が!!

先程、緊張で顔色を悪くしていたモニカ・アイマーロ伯爵令嬢とその婚約者であるベニート・アバーテ侯爵様が手を差し伸べて下さった。


「わが婚約者であるモニカを助けて下さって、ありがとうございました」

ベニート侯爵様とモニカ様は、私達と話しながら、他の人が割り入らないようにしながら、大きな会場を陛下とハル様が貴族の挨拶を受ける壇上に歩みを進める。


おお、凄いですわ。先程までは牛歩のようにノロノロとしか進まなかった距離が、ハル様まで目前となりました。


「では、私達はここで・・」と言い残し二人は小さく礼をすると、人混みに消えていかれました。

ありがとうございました。お二人のお陰でハル様まで、到着できた。

ハル様が私を見て、微笑む。

ゴールしたわ!!!

「ハルさ・・・」

「アルルーナ・マイヤー様、この方を覚えておいでですか?」


ゴール寸前で、またもや障害物競争の続きが再開された。

女性が侍女姿の女性を伴って現れた。

ええっと・・『覚えてる?』と聞かれても、私にはどちらの方とも面識がないのですが・・・。


「ラインハルト皇太子殿下、私はテイラー伯爵の娘、エルダと申します。ここに控えし侍女は、そちらにいらっしゃいますアルルーナ様に虐げられていた者にございます」


私の前に転がり出てきたのは、私の噂話を面白おかしく広げて下さったテイラー伯爵のご令嬢ですね。

わざわざ壇上のハル様を上目遣いで話が出きる場所を陣取っていらっしゃる所は、準備万端ですわ。


「皇太子妃になるお方が慈悲深きお方なら、私もこのような場所に出てきません。しかし、この侍女は半年前に我が屋敷前で行き倒れていて、話を聞くとそちらの公爵家でアルルーナ様に苛め抜かれた後、ゴミのように捨てられたと聞いたのです」


会場が「まあ・・・。なんて事・・」と息を飲む。


「私、ラインハルト様に正しい婚約者候補を選んで頂きたくて・・・」

エルダ様が「よよよ」と泣き崩れる。


いかにも芝居じみているけれど、見ている者は、「殿下のためを思い勇気を出してここにきたのね」とエルダ様を褒める者も現れた。


ここは早めに、エルダ様のシナリオを潰しておかないといけません。

「あの、私・・この侍女の方を知らないのですが・・・」

私が戸惑いながら言う。


私の言葉を待ってましたとばかりにエルダさんが、ニヤリと笑う。先程まで泣いていた筈なのに・・・。

「そうよね。あなたにとって侍女の一人や二人分かるわけがないものね」

してやったりの顔を私に向けるエルダ様。では、私も反撃しますね。


「いいえ、私は我が屋敷で働く全ての使用人の名前を把握しています。その上で、この方は我が屋敷で働いていたことはないと断言できます」


幼き頃から、使用人全てが私の会話の先生だった。ですから、新しく入った方は、私が慣れるまで必ず私の話し相手となって頂きました。

それを踏まえて、この方は屋敷にいたことはないと言っているのです。


「・・アアアルルーナ様は、使用人の名前を全部知っていらっしゃると言うのですか?!!」

エルダ様、さっきまでの勢いはどうされたの?


「ええ、勿論です。だって私にとって屋敷にいる全ての方は、家族だと思っておりますもの。家族の名前を知らない人はいないでしょう? ところでエルダ様は半年も前から働いていらっしゃるのなら、そちらの侍女の名前はご存知ですよね?」


一斉に人々はエルダ様と横にいる侍女に目を向けた。


「え?・・・名前?」

必死にエルダ様は侍女を見つめ、名前のヒントを探っているようだ。


「・・ああ、そうだったわ。彼女の名前はマチルダだったわ」

上擦った声で仰られたけれど、ここにいる全員の方がエルダ様が、当てずっぽうで名前を言ったのだろうと察しが付いていた。


そして、エルダ様の頑張りもここまでだった。

「私はイリスですけど?」

侍女が自分の名前を言っちゃった。

「「「あーぁー・・」」」

会場の人たちはこの遣り取りの終わりを知って、ため息をついた。


ハル様が衛兵を呼ぶ。

「今宵は余興は要らぬ。エルダ伯爵令嬢にはじっくりとこの茶番を仕組んだ狙いを聞いておけ」

エルダ様は抵抗されていたけれど、屈強な城の衛兵の前には何も出来ずただただ引きずられていきました。


ここで、本当にゴールです!!


ハル様が壇上から降りて、私の手を取って再び壇上に上がろうとする。


あれ?

ハル様、順番が違いますよ。

この後はダンスですよ。


こそこそとハル様に言うが、全く聞いてくれない。


そして、事もあろうに何と皇帝陛下まで順番をお間違えになった。

「今日はよく、参加してくれた。本日このような大がかりな会を催したのは、ここにいるラインハルトの婚約者を紹介するために、集まってもらった。では紹介しよう、マイヤー公爵令嬢のアルルーナだ」


ええ? 今日発表しちゃうんですか?

だって、本日の私の出来高を見てから、後日発表だったじゃないですか・・・。


ハル様も満面の笑みで宣言する。

「至らない点は多いと思うが、これから、アルルーナと力を合わせ、この帝国の発展のために益々力を尽くそう」


ほら、皆さんいきなりの事に驚いて、ポカンと口を開けてらっしゃるではないですか・・・。

ええ?

もしかして、この次に私がこのように晴れがましい壇上で、物を言うのですか?


ああ、確かに皆さんが私に注目していらっしゃる・・・。

ごくりと唾を飲み込む。


震えるなー!声。

怯えるなー!瞳。

曲がるなー!背中。

自分で雁字搦めになるなー!心。

芋虫状態から、解き放て。


先ずは・・・

壇上でカーテシー。

執事のトーマスがプレゼントしてくれた、踵の太いチャンキーヒールでびくともしない。


「皆様!!」

自分でもビックリするくらいに声が出た。

トールノン伯爵夫人の公爵家の使用人に向かってした、叫ぶ練習が効いてます。だって、知り合いに向かって叫ぶ方が恥ずかしかったんですもの。


「私の手をご覧下さい。小さな手です。まだ何も成し遂げていない手です。ですが、これより皆様と手を携えていくことで、大きな未来を掴みとる事が出来ます。どうぞ私に皆様の手をお貸しください。このシュヴァルツ帝国のために・・」


一人パチパチと大きな拍手をしてくれる。

それは我が愛するエディーお兄様。いつも、私を後ろから支えてくれる。

お兄様の拍手が呼び水となって、大きな拍手に広がっていった。


ここで、オーケストラが演奏を始める。

それに合わせてハル様が私の手を取って、壇上から下りてホールの真ん中に連れていく。


そして、一礼。

ダンスが始まる。

大勢の真ん中に私とハル様の一組だけが踊っている。


沢山の人混みに紛れてダンスをするのだと思っていたから、この状況は予定外。


目立つのが嫌いなのにぃぃ・・・

「ほら、リラックスして踊ってよ。それに他を気にしないで・・俺だけを見て」


この広い会場に目一杯の甘い色気を振り撒く事の出来るハル様が、私一人に10倍濃縮フェロモンを注いでます。


私ここに至るまで、何人ものご令嬢による足の引っ張り合いという名の戦いに挑み、勝ち進んできたのです。

フル稼働させた脳みそに、その甘いご褒美は罪です・・・。


ダンスが終わるまで、耐えられるかしら・・・。

どーしても誤字がなくなりません。

(´Д`)

再び沢山の誤字を見つけて下さり、ありがとうございました。


読んで下さっている方には、本当にご不便をお掛けして申し訳ございません。

どうぞ、もう少しお付き合い下さい。

よろしくお願い申し上げます。


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