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42 皇太子の婚約者への道 Lesson1


本来ならば、お茶会で『傲慢令嬢』なる不名誉な二つ名を消し去ってから、ラインハルト皇太子殿下の婚約者に内定したと内外に公表する予定だったのですが・・。


しかし、先日の『あれ』では到底消し去るどころか、鮮烈に思い出させてしまったはず。

伯爵令息であるベンジャミンを指して、『ハエ』呼ばわりした挙げ句、3メートルぶっ飛ばしてしまったのですもの・・・。

きっと世間の評判は更に、上書きされたのではないでしょうか・・。


自室で、「はあぁぁ~~~」と長いため息をついていると、お母様がよく響くノックと共に現れた。


「お母様、上機嫌ですがどうされたのですか?」


あれだけお母様自身も、『ラスボス感』を出しておられたのに、お忘れなのかしら?


「あら、アルル。未だに落ち込んでいるの?」


「あれだけ、大騒ぎになったのですもの・・・。出きることならまた引きこもりたいです」


お母様がなにか突拍子もないことを言い出す前に、こちらの要望だけは言っておく。


「ダメダメ。せっかくの機会なんだから、今度は夜会よ!!」


ヤカン?違うか・・。では・・

やかい?


私、聞き間違えたのかしら?

あれだけの事をした後に、今度はダンスを晒せと言うの?


「・・・お母様・・、もう無惨な姿を晒す前に、修道院に行きたいです・・・」

だって、初めから皇太子妃なんて無謀だったのです。

どんなに頑張ってみても、陰キャは陽キャにはなれません。


「無惨な姿? ・・・あなたって本当に自分の評価がいつも低くて困るわ。それに・・いい? もしアルルが先日のお茶会の事で挫けたら、エディックは自分のせいだって思うわよね。あなたが一人で勝手に皇太子の恋を諦めて、落ちぶれて行くのはいいわよ。でも、そうなるとエディックは、ずっと責任を感じて生きて行くのよ。それでいいの?」


「エディーお兄様が? ・・・私を見る度に辛い想いをされるの・・・?それは嫌です!」


エディーお兄様が私を見る時は、いつものあの優しい笑顔で見てほしい。

責任を感じて生きて行くお兄様なんて見たくないです。


「じゃあ、夜会への出席はどうするの?」


「うううーー・・。も、勿論、い行きますっ!」

恐れていた夜会。

勢いで、行くと言ってしまった。


「では、今から『シャルサ』に行って、目一杯素敵なドレスを作るわよぉ!!」


お母様の号令で、あっという間お母様のお部屋に連れて来られました。

そこには既に、『シャルサ』のデザイナーであり店主である、メリッサさんとその息子であるレイモンさんが、お母様のお部屋に待機されていたのです。


「娘の希望は一切聞かなくていいわ!」

ふえ?

私の意見は通らないのですか?


せめて色だけでも、と口を開くが、お母様のお口の方が断然に早かった。


「あなた達の思う色とデザインで、この子に似合う最高の一着を作ってほしいのよ。よろしく頼むわね」


「よっしゃあ!! この前の時から思っていたデザインがあるんだ。母さん、俺のデザイン画を見てくれよ」


「分かったわ。でも、既にお嬢様のドレスの色はほぼ決まっているのよ。だから、それにドンピシャで合うデザインならいいわよ」


二人は、どんどん意見を出し合いながら、私のサイズを細かく測っていく。


レイモンさんが、私の腕の長さを測りながら、その綺麗なお顔を間近に寄せる。


「俺の服で、最高のお嬢様にするからな、期待しててよ」


ううっ・・イケメンさんがイケメンな事を仰ってマス。

くらぁ~と目の前が回りそうになったが、頑張って意識を保った。


「以前にもお伝えしましたが、お嬢様の男性への耐性は、赤子並みなので、ご注意ください」

パウラがレイモンさんの首を引っ張る。


パウラ、そんなに強く首を引っ張ったら取れます。


「痛てて!」

レイモンさんは首を擦りながら、私を凝視する。


「ああ、そう言えばそうだったな。本当にそんなにきれーな顔でうぶって・・・堪らないだろうな・・・」


「「仕事しなさい!!」」

レイモンさんはパウラに右耳を、お母さんのエリッサさんには左耳を引っ張られた。


レイモンさん、その後はふざける事なく着々と採寸を終わらせる。


レイモンさんは、「出来上がりに期待しててね」とてを振ってメリッサさんとお帰りになった。


ドレスの出来上がりは6週間後。

舞踏会は2ヶ月後なので、出来上がりのドレスを見て、気合いをいれることは十分出来そうです。


それよりも大変な事は、私のへっぴり腰ダンスです。

執事であり、私のダンスの師匠でもあるトーマスのレッスンが翌日から始まりました。


「背筋を伸ばして!」

「猫背にならないで」

「お顔を上げてください」


これってお茶会の時にも言われました。


「肘は床に平行にしてください」


「え?え? こうですか?」


「肩まで上げないで下さい。肩は上がらないようにして・・・」


「ああ、ステップが間違ってます」


一日目は簡単なステップさえまともに出来ない。


こんなんで、間に合うのだろうか?

自慢ではありませんが・・・

何度も言いますが、本当に自慢することがないですが・・。


皆さん文化際の時に、ダンスとかしたでしょうか?

私はいつも、音響係、またはライト係を率先してやってました。

衣装係で縫っていたこともあります。


裏方に徹してましたが、こんなことなら、少しでもダンスをやっておくんでした・・。

そしたら、ステップも早くに覚えられたかも知れません。


あたたっ

足がつった!!


「お嬢様、今日は足も限界のようなので終わりますが、明日からはもっと本格的に動けるように、ビシバシ教えますからね」


トーマスったら、あまりの出来の悪さに、額に焦りの青筋が見えていますわよ。


でも、後二ヶ月で、私が優雅に踊っているところを想像出来ないんですもの。それは焦るわよね。


ハル様の足を踏んづけて、躓いて、転んで、回って、青ざめている私なら、いくらでも想像がつきます。


「ほらほら、お嬢様。元気を出して下さい」


「うう、パウラが優しい・・・。泣きそうですわ」


「そりゃそうですわ、お嬢様には明日も頑張って踊ってもらわないと、あんなに愉快なものはそうそうお目に懸かれませんもの」


「え?」


「ダンスと言うより、お猿さんがトーマスに歩かされてるみたいなんですもの。もう腹が捩れるくらいに笑いましたわ」


そう言えば、パウラの目が赤いのは、涙を流すほどに笑ってたのですね。

く・・悔しい!! 絶対に、パウラもビックリするくらいに上手になってみせます!!


みてらっしゃい!!


足をプルプルさせながら、私は覚悟を決めたのでした。


でも、次も私にとっては、厄介なレッスンです。


人とのコミュニケーションを円滑にするための、笑顔、会話の内容、所作を学ぶ時間です。


先生は先日のお茶会でお話した、トールノン伯爵夫人です。

場が荒れそうなお客がいても、トールノン伯爵夫人がいれば、穏便に済ませてくれると言われる程、会話の達人なのです。


「ああの、先日は、お茶会に出席

頂いたのにご迷惑をお掛けする事になってしまい、すみませんでした」


私が頭を下げると、トールノン夫人は首を横に静かに振って「だめよ」と仰る。


何がダメなの?


「あの時にあったことは、後日にお詫びの手紙を頂いていますよ。だから、そう何度も謝らなくて良いのです。今度会った時はネガティブな話題は避けて、楽しい話題から話しましょうね」


「あ、は、はい!!」


返事をした私をじっと凝視したトールノン夫人は、「うーん」と唸ったまま動かなくなる。


「これから領地に引っ込まれて、暮らすのでしたら、良いのですが・・・あなたの好いたお方は皇太子殿下なのですよね?」


「は、はい。そ、そうです・・・」


「でしたら、まず始めにそのつまってしまう話し方を治しましょう。では、こちらにいらっしゃい」


治るのですか?


前世から、これ・・・治らなかったのですが・・・。

懐疑的に思いつつ、トールノン夫人の後についていくと、我が屋敷の庭園に着きました。


そこには、公爵家で働く使用人が集められてきた。

それだけではない。公爵家の精鋭である騎士団の皆さんも訳も分からず集められている。


皆さんは、一体これから何が始まるのだろうと、ざわざわしている。


そこに私が皆さんの前に立つと、シーンとなった。


ここで、私に何をしろと言うのでしょうか?

トールノン夫人は私の後ろからこそっと囁く。

「アルルーナお嬢様、皆さんに貴女が一番なりたい自分を思いきって叫んで聞いてもらいましょう。さあ、どうぞ!!」



さあ、どうぞ?



あわわわ、なんて事になったのでしょう。

今まで幼い頃からお世話になった方々です。一人一人なら、話すなんて簡単です。

でも、こんなに沢山の人の前に立って話すのは・・・むりぃー


「無理とか思っていないですか?そしたら、ラインハルト様との婚約も無理ですわよ」


それは・・嫌!!


私は震える足で一歩前に出た。


「み、みなさん!! わたしは・・」

「ほら、もっと声を出しなさい。喉が裂けるくらいに叫ぶのよ」


後ろからトールノン夫人の激が飛ぶ。


私は、目を開いて覚悟を決めた。


「み、み、皆さん!! わ私はずっと恥ずかしがらずに沢山の人とお喋りがしししたかった。そそれに、お洒落もしたかった。でも、自分に自身がなくて勇気がでなかった!! わ私のせいで侍女の皆さんが持っているお洒落技術を生かせずいることを申し訳なく思っていました。私のせいで、屋敷にお客様を呼べず、シェフさん達のステキなお料理を、沢山のお客様に召し上がって頂けず、申し訳ございませんでした。これから、もっと社交界に出て人と関わっていこうと思うので、どうぞよろしくお願いします」


「・・・・・」


パチ・・パチパチ・・

パチパチパチパチパチパチ


「アルルーナお嬢様、良く言えましたよー」

後ろを振り返るとトールノン夫人がうんうんと頷いている。


前を向くと、侍女の中には目頭をハンカチで押さえている人もいる。

騎士達は頭の上で拍手をしてくれている。


料理長やシェフの皆さんは、白い帽子を振り回して歓声を上げた。


パウラは・・・親指を立てて『GOOD』・・だそうです。


ふわりと持ち上げられて、見るとそこには抹茶色の瞳に優しく見つめられている。


「良く、頑張ったね。最後の方はとても滑らかに話せていたよ」


「そう言えば・・・」

つっかえずに話せていたような気がします。


どうやら、トールノン夫人の荒療治は成功したようです。

流石、コミュニケーションの達人!!


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