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40 知らなかった事。知られたくなかった事(2)


「ごめん、本当なんだ」

今にも消えそうなお兄様。

何故、エディーお兄様が謝っているのか分からない。

謝るのは私の方です。

始めて会った時から、陰キャの私を妹として優しく受け入れてくれたお兄様。

それなのに、お兄様がこれまでに抱えていた苦悩を、何一つ知らないでいたなんて・・・。

なんて私は愚かなの!!


「ハハハ、そんな奴が公爵家を継げるわけないだろう。おい、クソチビ。お前もこれで分かっただろう!」


ああ、何て事でしょう。

今まで、エディーお兄様がこんな奴に苦しめられていたなんて!!


気が付かずにいたのが、悔しい。

怒りで心臓がバクバクしてます。


怒りを通り越すと、吐き気が・・。全身から汗も吹き出してきた。


こんな卑劣な奴に、大事なエディーお兄様を罵られるなんて、・・・許せない。


お母様に今回のお茶会は『傲慢令嬢』という悪名を払拭させることを第一に考えなさいと言われてたけれど、そんな事はこれに比べたら、些事(さじ)に過ぎません。


私が、今行うべき優先順位の第一番は目の前で嗤うこいつを、完膚無きまでに捩じ伏せて、お兄様の憂いを払う事ですわ!!!


一歩、一歩、ベンジャミンに近付く。

バカなベンジャミンは私が何もできないと踏んで、近付く私をせせら笑っている。


十分に手が届く範囲に来ると、にこりと微笑み、そして力一杯フルスイング!!!

しかも私の手からなんか出た?!!


ズッシャッッッッ!!


ベンジャミンが3メートル後ろに吹っ飛ぶ。

飛ばされたベンジャミンの体がピクピクと痙攣していた。

私は掌がじんじんと痛むけれど、それは後回しだわ。


「あら、ごめんなさい。この公爵家のお茶会に薄汚いハエが飛んでいたので、叩き潰したの。そうそう、ハエのお陰で良く分かりましたわ。この公爵家を継ぐのは、(まご)うことなくエディック・マイヤーお兄様ですわ。あなたの様な愚者が、我が公爵家にたかろうなんて図々しいにも程があるわ!!」


ビシッと人差し指でベンジャミンを指す。

これって、『傲慢令嬢そのもの』じゃないですか?

伯爵令息を『ハエ』呼ばわり。


私の名誉は地に落ちて、きっと地下深く埋まってしまいました・・・。


でも、後悔はしていません。

でも、ちょっとお母様の顔がちらつきましたけど・・・。


わなわな震えていたベンジャミンが、悪あがきでもう一度ヒョロヒョロのテニスボール大の火球を、私目掛けて投げてきた。

が、それはエディーお兄様の木の枝にペシッと軽ーく全て叩き落とされた。


「お兄様!!」

私はエディーお兄様のもとに駆け込んだ。


さっきまで、苦しげに揺れていた抹茶の瞳は・・・もうない。


ぎゅっと抱き締めてくれる力も、いつもと変わりなく安堵しました。


「ベンジャミン、我が妹に二度も危害を加えようとしたことは許さない!! これからもアルルに害を為すなら徹底的に潰すよ」


エディーお兄様が、ベンジャミンに向けて腕を伸ばすと、ベンジャミンの体はあっという間に(つた)や木の枝で指一本さえ動かせない程、雁字搦めになった。




「エディーお兄様が辛い思いをして、我が家にいらした事を全然知りませんでした。今まで気が付かずにごめんなさい・・」


「・・・いや・・寧ろ言えなくて、黙っていたのは私の落ち度だった。大好きなアルルに軽蔑されるんじゃないかと思うと話せなかった・・」


俯くエディーお兄様に、顔を上げて欲しかった。

だけど、更にお兄様に追い打ちをかける人物が現れた。


「なんて事をしているの?この

ドブネズミの分際で!!! 私の可愛いベンジャミンを解放しなさい!!」


叔母のビオンダ・ブルネイだ。

私の耳は可笑しくなったのかしら?

伯爵夫人が『ドブネズミ』って言いましたか?


つまり、エディーお兄様を苦しめていたのは、ベンジャミンだけではなく、ブルネイ一家全員と言うことなの?


叔母に向かって怒りが爆発し、走り出した私。

私の名誉など、木っ端微塵になっても構わないわ。

それよりもエディーお兄様の尊厳を守る方が大切です!!


でも、体がふわりと宙に浮く。

私の護衛騎士のジュスターに抱えられたのだ。


そして私と叔母の間に、お母様が割って入る。


「アルル!!」

大声でお母様に名前を呼ばれ、叱られると思いビクッと身構えた。


「我が娘、良くやった。それから、我が息子、エディック!

よくぞこれまで辛抱しました。後はこの母に任せなさい!!」


お母様は後ろにいる、私とエディーお兄様を一切見ることなく、目前のビオンダ叔母様を睨み付けながら、私たちを大きな声で褒め称えた。


それで、私たちの正当性をアピールしてくれたのだ。



「あなたが、先ほど仰った『ドブネズミ』と言う言葉を訂正して下さいね、裁判所で。我が息子の名誉を傷つけた事は、名誉毀損で訴えます。それと、招待状も無く乱入し、お茶会を滅茶苦茶にしたことは、後にブルネイ家に請求書をお送りするので、お支払下さい。ああ、それと、我が娘に向かって火球を投げつけたことは、この公爵家に喧嘩を売った者としてこれ以降、社交界に顔を出せると思わないで下さいね」


お母様の美しい唇が、微笑むように弧を描く。


そして、お母様はその女神のような表情のまま、招待状を持ったお客様に向かって向き直った。


「せっかく本日いらして下さった皆様には、不埒な侵入者によって大変ご迷惑をお掛けしましたこと・・心よりお詫び申し上げます。これより、屋敷内にてケーキバイキングを行いますので、お時間とお腹に余裕のある方は、是非そちらに移動して頂きますようお願い申し上げます」


『ケーキバイキング』の言葉に釣られて、大勢の人が屋敷の方へと足を向けた。



人々が屋敷に向かうのを、優雅に微笑み見送る母。


我が子が木の枝で動けなくなっているのを、地べたにしゃがみこんで助けてと叫ぶ叔母。


母は侍女に持ってこさせたノコギリを、ポイと叔母の足元に放り投げた。

「呼びもせぬのに来て、せっかくのお茶会を台無しにし、我が息子を罵り・・これで終わりだと思わないで下さいね。でも、最後の慈悲です。このノコギリを使ってご自身で息子を助けなさい」


母は吐き捨てるように言うと、私とエディーお兄様の肩に腕を回して屋敷に向かって歩き出した。





◇□ ◇□ ◇□


この後、屋敷に現ブルネイ家の当主、ヒュー・ブルネイが叔父のショーンとビオンダとベンジャミンを連れてマイヤー公爵家を訪れた。


ヒュー・ブルネイはソファーに座り、その後ろに立たされいるビオンダとベンジャミンは、鼻息荒く息巻いている。


あら、この人達は全く反省してない感じだわ。


ヒュー・ブルネイの反対の座席には、お父様とお母様とエディーお兄様が座っていた。


え? 私ですか?

私が居ても、役に立ちそうにないので、お部屋で待機を言い渡されました。


でも、お兄様が心配で応接間の扉の前で立ち聞きをしております。詳しい様子は、応接室の中にいるパウラに、実況中継をして貰って聞いてます。


ヒュー・ブルネイ伯爵は、立ち上がると深く頭を下げた。

これに慌てたのがビオンダだ。


「ちょっと、お父様!! なんで頭を下げているの?」


彼女のけたたましい声を聞いて、もう一度座席に着いたブルネイ伯爵は、頭を抱えてため息をついた。


「この度は、我が娘と孫が騒ぎを起こして大変申し訳無く思っています」

ブルネイ伯爵の言葉に被せて、今度はベンジャミンが怒鳴る。


「お祖父様、悪いのはこいつらですよ!!謝る必要なんて・・」

「黙りなさい!!!」

ブルネイ伯爵の大声にベンジャミンが怯み押し黙った。


ブルネイ伯爵が、意を決し話し始めた。

「今回の事を重く受け止め、ブルネイ家のけじめとして、ショーン、ビオンダ、ベンジャミンとは当家から除籍とし、ビオンダの妹であるトレーシーに伯爵家を継がせるので、本日の不祥事を許して欲しい」


ブルネイ伯爵の次女であるトレーシーはビオンダとは年が離れていて、23歳ながら未婚だった。


ベンジャミンという跡継ぎにも、恵まれていながら、ブルネイ伯爵にとっては苦渋の決断でしょう。


でも、ベンジャミンに後を継がせたところで、せいぜい持って10年というところでしょうか・・。ブルネイ家を取り潰す大失敗を犯す可能性しか見えてこないもの。


『きっと、皇帝からお取り潰しの命令が下ったでしょうね。

だから、これはブルネイ伯爵の英断なのです』

とパウラの見解を聞きつつ、立ち聞きは続く。


「マイヤー公爵家から、ショーン殿をお迎えしてこの始末。マクソンス・マイヤー公爵にはお詫びのしようがありません」


「いえ、私の愚弟をこれ迄庇って頂き、ありがとうございました。愚弟に関してはヒュー様の良きようにお計らい下さい」


パウラが嬉しそうに報告してくる。

『あらら、ショーンもビオンダもベンジャミンも平民になりましたわぁ。平民長屋に『Let's Go』ですよ』

パウラったら、決まった途端に呼び捨てです。

でも、私も嬉しいわ。


「お父様!!!」


おお、何やら悲痛な叫び声が・・・。ビオンダ様の声のようね。


「私たちを捨てるのですか!!?」

「お祖父様、僕は何もしてないんだ!! こいつが・・」

「黙れ!! もうこれ以上恥の上塗りは止めなさい。そもそも、ビオンダ、お前はベンジャミンを我が儘に育て過ぎた。こいつは礼儀というものが全く身についていない」

はあ・・・

誰のため息?きっと伯爵様のね


「それに比べて・・・。エディック・マイヤー公爵令息は、既に次期公爵の貫禄と気品を兼ね揃えている・・・。勿体ない事をしたのお・・」


えへへへ。

そおーよ。

私のエディーお兄様は、優しくて強くて、格好良くてぇ、所作の美しさは貴族の中でもダントツなんだから。


ぐふふふとしまりの無い顔をしていたら、ペシりと頭を扇子で叩かれた。


パウラの動きを不審に思ったお母様が、一人部屋から出てきたのだ。

額に青筋を立てて、かなりのご立腹。


「こちらに来なさい!!」


お母様に耳を引っ張られて、応接室から剥がされて、近くのトーマスの執事執務室に入れらてしまった!!


絶対絶命だわ!!


「アルルーナ! 貴女は公爵令嬢なのよ! それが立ち聞きなんて真似をして、恥ずかしいとは思わないのですかっ!!」


ガチャリッ。


ちょうど良いところにトーマスが部屋に戻って来ました。


(助けて!! ットーマスッ!!)

私の必死のアイコンタクトだったのに、お母様の額の青筋と、つり上がった目に恐れをなしてしまうトーマス。


パタン。・・あ・・・・。

・・・・トーマス去る。


カムバッーーク!! 

トーマスーー・・・!!

地獄の1時間、お説教コースが始まった。


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