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39 知らなかった事。知られたくなかった事(1)


お母様は晴れ女。

公爵家の広大なお庭で開かれたビュッフェスタイルのお茶会は、素晴らしい晴天に恵まれ、開催された。


普通ならテントをいくつも張った下にテーブルを並べるのだけれど、今回はエディーお兄様が見事な魔法で藤棚を作ってくれた。

満開に咲き誇る藤棚の下で頂く紅茶は、さぞ美味しいだろう。


その下には、我が家のオリジナルブレンドティーとティーフーズが並べられている。


緑の芝生に風がさあぁと吹いた。


『さあ、ここでお茶会という名のリングにゴングが打ち鳴らされたぁ』

名物アナウンサーが脳内で叫んだ。



私はお母様と一緒に、挨拶をするため、会場に集まったお客様の元に向かう。


「ほら、下を向かない!」

「前を向いて!!」

「猫背にならない!!!」

「笑顔を死守しなさい!!!!」


怠けたがる私の表情筋を、叱咤激励し笑顔をキープする。

前回習った「さしすせそ」やその他諸々を総復習しつつ、背筋を伸ばす。


流石、お母様。

誰一人間違える事なく挨拶をしていく。


「まぁ、テレサ様。ようこそお越し下さいました。ご子息のカンダ様はお元気?」


トールノン伯爵夫人は、お母様の質問に 眉を寄せた。


「それが、質の悪い女に入れあげて、困っているところなの。今度我が家に招待するから、聞いて頂戴ね。あら、所でそちらの可愛らしいお嬢様は?」


きた!!

私は背筋を一度伸ばしてから、カーテシー。


「これは、私の娘のアルルーナですわ。まだ未熟なところが多いと思いますが、宜しくお願いしますね」

お母様が言い終わらない内に、眉が跳ね上がったトールノン伯爵夫人。


ここで間髪を入れずに、すぐに私の台詞だ。


「初めて御目にかかります。アルルーナ・マイヤーです。私……実は社交界のデビューがまだなので、『豊富な経験を積んでいらっしゃるトールノン伯爵夫人』に、お会いできるのを楽しみにしていました。色々とご教授いただけると嬉しいです。どうぞ、よろしくお願いします」


この台詞は色々とバリエーションがあって、『』の部分を少し変えると何通りも使えるのだ。

これをすらすら言えるようになるまで、夜通し練習をしました。


その甲斐あって臆さず、噛まずに言えましたわ!!


トールノン伯爵夫人は目を瞪った。

「まあ、まあ・・やはり本人に実際に会うべきね。なんて素直そうな可愛らしいお嬢さんなのかしら。是非、我が家にもいらして!社交界は伏魔殿みたいな所だから、私がしっかり教えてあげるわ」


どうやら、トールノン伯爵夫人は私を気に入って下さったようです。




お母様は、一人一人の情報を良く把握している。次から次へと来る招待客に合わせて話をする。

そして、こそっと私にアドバイスをくれるのです。


「アルル、あの方はドレスを自身でプロデュースされているわ。ファッションに絶対の自信を持っているのよ」


『了解!』とばかりにこくっと頷く。


そしてファッション好きなご婦人にお母様が私の紹介をした後、さっきの台詞の一部変えた新バージョンを言う。


「私、実は社交界のデビューがまだなので、『ファッションリーダーである子爵夫人』に、色々とご教授いただけると嬉しいです。どうぞ、よろしくお願いします」


「あら、まあ・・わたくしにお嬢様のように若い方と感性が合うのかしら? でも、そんなに仰るのでしたら・・・よいですか、最近の若い女性には品性が足りないと危惧しておりますの。例えばあの方のように、これ見よがしに肌を見せているのは如何なものかしら。それにね・・・」


彼女のレクチャーが終わりそうにないと判断したお母様は、切り替えも素早かった。


「あら、子爵夫人のお話を、我が娘だけに独占させるのは申し訳ないですわ。それにこのように隅っこでは勿体無いです。その素晴らしいドレスを会場の皆様にご覧いただかないとね」


「ああ、そうだったわ!! この新色のドレスを是非多くの方に見て貰おうと思っていたのよ。オホホ」


彼女は会場の真ん中まで、テレポート並みの早さで移動していった。


今日はお母様の鉄壁とも言える盾があるので、安心して人の目を見てお話する事が出来ました。


今まで、何故か怖くてすぐに目を逸らしていたけれど、今日は目を見ていると不思議と怖さが半減しました。


これまでは、会ったばかりの人に嫌われるのが怖くて、人を知ろうとする前に、逃げ腰だったのです。


でも、今日はしっかりその人がどのような人物だったのか、『人となりを見る』テストがあるので、必死で人物の性格やらを把握しようと見ていたからか、怖いとはおもいません。


若輩の私にはまだわかりませんが、達人の域に達するとその人の欲する物までわかるようです。


執事のトーマスやお母様はその達人レベルです。


その達人トーマスが、「お嬢様、完璧です。噂で爆下がりのお嬢様の株が徐々に右肩上がりに上っております」


徐々にですか・・・。

爆下がりなら、爆上がりに・・とはならないのが世間の評価の厳しいところ。

でも、上がっているなら良い傾向です。


このまま一気に頑張ろう!!


と思っていたところに、厄介な人物は、必ず登場するんです。




侍女が、険しい顔でお母様に何か囁くと、一気にお母様のお顔から笑顔が消し飛んだ。

人前でこのようなお顔をされるのは珍しく、一体何が起こったのだろうと不安になった。


あれほど私に「笑顔を死守しなさい」と言っていたお母様の顔には、深い眉間のシワと殺気まで漂っています。


「アルル、私は少し離れるけれど、あなたは先のお茶会で付いた不名誉な噂を消す事に、全神経を集中するのよ!」

お母様のただならぬ様子に、ゴクッと唾を飲み込み、この命令を承った。




そう誓ったばかりなのに、私の大嫌いな従兄弟のベンジャミン・ブルネイが私の前に立っている。


招待状、送ってませんよね?

親戚なら勝手に来てもいいの?

・・・ダメよね?


同じ叔父様の子供とは思えないくらいに、エディーお兄様とはなにもかもが違う。

容姿も性格も・・・。


「おい、クソチビ!! お前、なんで公爵家をあの緑頭に譲ってるんだよ!!」


はい?

何を言っているのか、さっぱりわかりません。

元々、ベンジャミンと会話出来た試しがないので、今回も誰かに通訳してもらわないと、意味不明です。


「何を無視してるんだ?! いいか、あのエディックに公爵を継がせるのなら、俺に継がせろ!! お前から父親に言うんだ!!」


緑頭とは・・お兄様の事だったのですか?

それなら、あなたは茶色の土頭ですよ。


それに、お父様があなたのような乱暴者に、この公爵家を継がせる訳がないでしょう。


いつもなら、言われっぱなしの私ですが、エディーお兄様の事を悪く言われ、頭の中に溶岩の固まりを入れられたようにカッカと燃えてきました。


「エ、エ・エディーお兄様は、既に我が家と養子縁組みをして、わわ私にとっては大切なお兄様です!! 緑頭なんて失礼な事を言わないで下さい!!」


苦節十数年、目の前の乱暴者にやっと言い返す事が出来ました。


何故、今までこのような卑劣な奴を怖がっていたのでしょうか?


ちょっと今も怖いけど・・・。


でも、言い返せたと感動している私が、次に見た光景は・・・ベンジャミンが顔を真っ赤にして鬼の形相で、私に向けて火の玉を投げているところでした。


火球でしたっけ、その威力は火属性魔法では弱小ですが、魔法を使えない私にとっては脅威です。

当たれば、火傷は免れません。


咄嗟に目を瞑って、腕で顔を防御して、しゃがんだ。


うん?

何も起こらなかったので、ゆっくりと顔をあげると、木で出来た鳥籠に入っていて、守られていました。


「アルル!! 大丈夫?!」

駆け付けたエディーお兄様が魔法を解くと、鳥籠は消えて私を立たせてくれた。


「ありがと・・」


「うわ!!出た!! 俺の家で腐ったゴミを食べてたネズミじゃん!!」

私が、エディーお兄様にお礼を言う前にベンジャミンが、訳の分からない事を言っている。


「何を言ってるの?」

私の言葉にベンジャミンは、嬉しそうに片端だけ唇を上げた。


「あれぇぇ? もしかしてお前は何も聞かされてないのか? こいつはなぁ」

勿体ぶって嗤うベンジャミン。


私は分からずに、エディーお兄様を見上げると、そこには唇を噛み締め、悔しさが滲む顔。そして辛そうな瞳が私を見下ろしていた。


お兄様のその顔を見て、更にベンジャミンがクククと嗤いを漏らす。


「そいつは親父に取り入って捨てられた召し使いの子供で、俺の屋敷では、みんなの食べ残しを食ってたのさっ」


今ベンジャミンが言ったのは・・・本当の事なの?

信じられない・・・。


「・・・エディー・・お兄様・・?」


お兄様は私の手を放し、真っ青な顔で立ち上がる。


抹茶色の髪がエディーお兄様の顔を隠す。


「・・ごめん、本当なんだ」



気をつけていたんですけど・・・迂闊な私、再び誤字がありました~(汗)

教えて頂きありがとうございます。


読んで頂いている方、すみません。

まだまだ、続くのでどうぞ宜しくお願いします。

m(> <)m



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