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38 公爵夫人見習い


やっと我が家に帰ってきました。

お母様は私を抱き締めて、「良く頑張りました」と玄関先で何度も褒めてくれた。


その隣では、お父様とエディーお兄様が握手を交わしている。

「エディック、手紙を見たよ。銀の取引はこれで安泰だ」

二人は黒い笑顔でフフフと笑い合っている。


先に『カルロの領地に、銀があるかも知れないが、無かったらどうしよう・・』

とエディーお兄様に泣きついていたけれど、出た場合の準備も進めていたとは。

帰るまでにカルロから取引して、既に書面でもらっていたのね。


抜かりないわ・・・。


お父様は、カルロの領地の銀を安く買い叩いたり、してないでしょうね。


あまりの腹黒い微笑みに、家族ながらも疑ってしまう。


「アルル、大丈夫だよ。私たちはカルロの領地からは適正価格で取引するよ。むしろ、リッカルダの貴族達に先制攻撃して適正価格で取引しておけば、シュヴァルツ帝国の公爵である私たちより低い金額で、カルロに圧力を掛ける貴族はいないだろう」


お父様がお母様の次に抱き締めながら、疑心暗鬼な私に噛み砕いて説明をしてくれた。


そうか、まだ弱い立場のカルロ・ファンゴール伯爵を守ってくれたんだ。

疑ってごめんなさい。

「お父様、カルロの為にありがとうございます」

お父様をちょこっとばかり疑ってしまったお詫びも込めて、お父様の腰に回した腕にキュッと力を込めた。


「うんうん、可愛い娘に抱きつかれるのは、嬉しいね・・・」

なぜか、お父様は困り顔になって私の頬を撫でる。


「私が引退したら、アルルと一緒に領地に行こうと思っていたのに、大きな虫が付いちゃったねぇ・・・。」


お父様、今皇太子殿下を『虫』と言いましたね・・・。

誰かに聞かれたら、どうするのですか!!

少し驚くが、この屋敷の警備は万全だった。

それに、誰かに密告するような従業員は一人もいない。


それよりも、誰にも嫁がないでお父様と一緒にずっと領地にいたいと言っていた事を思い出した。

あの頃は本気で思っていたのです。でも、今は・・・。


「あの・・ごめんなさい」

ここで、いい言葉が思い付かなくてつい謝ってしまいます。


「謝る事はない。寧ろ、他の両親ならばこのような事は誉れに思い喜ぶ事なのだが・・・・・心配だ・・」

お父様はため息をつくと私から離れた。肩を落としふらふらと一人執務室に行ってしまった。


お父様の寂しそうな後ろ姿を見送っていると、お母様が私の手を引いて、リビングへ歩きだす。


「本当に心配よね。だってアルルは殆ど社交的な経験はないし、舞踏会だって、この前はお酒を飲んで出席する前にぶっ倒れて・・・へべれけになって屋敷に舞い戻ってきたもの。これでは皇室になんて嫁に出せないわ」


はい、確かにお母様の言うとおりです。

私くらいの年齢のお嬢様は、15歳になると舞踏会や夜会にバンバン出て、貴族社会に顔を売るのがお仕事みたいなものなのに・・・怖くて隠れてました・・・。


「と言うことで!!!」

パンパン!!


お母様が両手を強く叩くと、リビングにお針子さんにデザイナー

靴職人、宝飾品の店主がどどどっと押し寄せた。

そしてあっという間に、私を囲み、採寸なり、生地合わせが始まったのです。


「ななな・・」


焦る私に、お母様がにっこり・・ではなく、ニヤリと笑う。


「いつも、逃げられるのでここで、すべて一斉に済ますわよ」

母の言葉通りに、ドレス、アクセサリー、靴を一緒くたに選ばれていく。

目が回ります・・・。


三着分のドレスをオーダーしたところで、私がふらつき始めた。


これにより、ドレスは三着の依頼となった。

前世からそうですが、服飾関係者というと、なぜか皆さんキラキラしていて、昔から近寄ると私のHPが削られてしまうのです。


服屋の店員さんが近づくと、いつもビクビクして変な汗をかいてました。

「どういったものをお探しですか」なんて尋ねられると、もう背筋は丸まり、「いえ・・あの・・その・・」と狼狽えて、最後には着もしない感じの服を買ってしまう。

今回もキラキラ店員さんに囲まれながら、聞かれた事に必死で答えたのです。

そんな私が、三着分も良く耐えた方だと、褒めて欲しい。



よろよろになった私を、パウラが手をひいて自室に連れていってくれる。


「他のお嬢様なら、ノリノリでドレスを作ってもらってますわよ。アルルーナお嬢様のように、錦蛇でも体に巻き付かれたかのように、生地を合わせている人なんか、今まで見たことございませんわ・・」


パウラに褒めてもらおうとしたのが間違いでした・・・。


でも、私はこれが苦手な社交界の出撃の準備だとは気が付いてなかったのです。


良く考えればわかることなのですが・・なにせ経験不足で何も分かっていませんでした。


ドレスを作ったら、どこに出掛けるのか。


それに、私が一緒にいたいと望んでいる人は、いずれこの国のトップに立つお方。


お母様の方が、私よりも将来を見越して早くに動きだしてくださったのだ。

そう、至らない娘に『喝!!』を入れようとしてくれていたのです。


そして、さらに次の行動に移していたのです。

それは、私がウルリーケ嬢を号泣させてしまった因縁のお茶会を、開催しようとしていたのです。


この危機に、服飾関係者のキラキラビームを受けて瀕死状態の私は、癒しの図書館に籠って本を満喫していたのです。





◇□ ◇□ ◇


今回のお茶会は公爵夫人である、お母様が主催のお茶会と言う事で、多少呑気に構えていた。


私がお招きするのではないんだからと、お母様がすることを斜め後ろからぼんやり見ていたのです。


「アルル!! 何を呑気に後ろで見てるの? 早く横に来て私がする事をメモしなさい!!」

お母様の首は180度回るのかと思うくらいグリンと回り、後ろにいる私を見据え、睨んだ。


「はい!!すぐにメモします!!」

そうですよね。これはこの先私がいつか主催する場合のレッスンなのです。

怒られた私はペンを走らせた。



まずはお母様を手伝って、招待状の準備。

招待状のカード選びから始まりました。

できる執事トーマス・グレンがトレーに招待状のカードと封筒のセット8パターンをのせて来た。


優柔不断な私に8択は多いです。せめて2択でお願いしたい。

「これは薄いピンクで可愛いし。ああ、でもこの花柄も捨てがたい・・」

私がカードを選び始めて、5分経過。


待ちきれなくなったお母様は、これにしますとサッと選びとった。

「薄い紫等は、お茶会や夜会などの晴れやかな時の招待状に使ってはいけませんよ」

「はい、分かりました」

お母様の言葉の他にも、トーマスもアドバイスをくれるので、併せてメモに記す。


そのつぎは文面だ。

これは雛形があるため、考える必要は殆どない。


時候の挨拶と組み合わせればok。

・・と簡単に思っていたが、時候の挨拶が書かれた分厚い本を渡された。片手で持てないほど重い。この中から選ぶだけでも大変そうだわ。


次に紅茶商と用意する紅茶を相談します。

今回はビュッフェスタイルに合わせた紅茶が選ばれました。

マイヤー公爵のオリジナルブレンドティーです。


後は料理長とサンドイッチ、ドロップスコーン、ケーキの打ち合わせです。


お母様とトーマスがどんどんと決めていくのを見ながら、その決断力に驚きと畏怖を抱いてしまいます。


二人は頭の中に、パソコンが入っているのかしら?


招待客の選定も、どの人とどの人が親戚で、爵位、仲の良さ、全てが頭に入っているのです。


それを言うと、ジト目で見られた。

「あのね・・当たり前でしょ! あなたもいずれは覚えないといけないのよ。それに、皇室に嫁ぐなら、各国の王室はもとより、その貴族達、そして、この帝国の属州の貴族も覚えないとね!」


覚えられません・・・。

遠い目になった私を、お母様が更に追い討ちをかけてくる。



そして、『ほらっ』と私は名簿と爵位のかかれた名簿を渡される。


ずっしり重い名簿を、今から私の頭で詰め込められるの?


数ページめくったら、始めに覚えたお名前と爵位が耳から溢れ落ちていく。そして、入れては消えていくを繰り返した。

名前の次はその方の領地の特産物。

そう言えば、地理のテストでその地方の特産物の問題が出た事がありますが、なぜかそこだけは得意だった。

今回も領地問題があれば、バッチリ100点が取れそうです。



それにしても、お母様の今回のお茶会に掛ける気迫は、鬼気迫るものがあります。

今回お母様が気合いを入れているのは、私の噂を払拭しようとしている為でもあるのです。


いつまでも、不名誉な『傲慢令嬢』等と呼ばれるのは、皇太子妃への道に進む私にとってはマイナスでしかありません。


まずは婚約に向けて、私についた誤解を解くことが、今回の最大の課題なのです。


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