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37 隠し扉は塞がれた


私はリッカルダ王国を去る時、カルロに『さようなら、落ち着いたらまたマイヤー家に遊びに来てね』と笑顔で別れるつもりだったのです。


このフレーズを夜寝る前に、何度も何度も噛まないように練習したんです。

勿論カルロが困らないように、鏡の前で、笑顔に見えるように確かめました。


ですが、実際には大泣きして、鼻水垂らして、カルロの首筋にしがみつき、『いいっっじょにがえっでほじいい!!』(《訳》一緒に帰ってほしい)と駄々を捏ねてカルロを困らせてしまったのです。


ええ、本当に情けなかったと思っていますよ。

でも、2歳から一緒だったのに別れなきゃいけないと思うと切なくて寂しくて・・。

止められなかったんです・・・。

お恥ずかしい・・・。


エディーお兄様の言葉がなかったら、きっと収拾がつかなかった。


『今カルロが帰ったら、もう二度と領主にはなれない。アルルはそれを望むのかい?』


『・・っ!!・・・ごごめんなさい!!カルロ!!我が儘言ってごめんなさい・・・』


無理を言ってしまった私に、カルロは最後まで優しかった。

『お嬢様の我が儘を、初めて聞きましたよ。それにあっさり、「さようなら」って言われたら、それはそれでショックだったかもね』


と、お茶目にウィンクして涙を拭いてくれました。

そして最後にいつもの頭ナデナデ。



そして、今・・・シュバルツ帝国所有の船の貴賓室でパウラに、真っ赤に腫れた目を冷やしてもらっています。


「あーあー、お鼻も真っ赤になって・・。お嬢様ももうすぐ16歳なのですから、少しは泣き方も大人っぽい泣き方を練習してくださいね。あれじゃ、おやつを貰い損ねたお子ちゃまですよ」


「うぐっ・・・」


そりゃ、『よよよ』としおらしく泣けませんでしたよ。

涙も鼻水も一緒に垂らして、本当に見苦しかったです。


でも・・これでもエディーお兄様に諭された後は、泣くのを我慢したんです。


「・・・でも、まあ・・お嬢様にしたら良く頑張りました」


パウラが珍しく褒めてくれた。

しかも、カルロがしてくれていたように、頭をなでなでをおっかな吃驚ですが、してくれたのです。


驚いた私が目を真ん丸にしてパウラを見ていると、ぷいっと顔を横に向けちゃった。


パウラが私を褒めるなんて!!


ああ、そうか・・カルロの代わりに慰めてくれたのですね・・。

私には優しいお兄さんやお姉さんがいっぱいいます。


パウラの優しさにほんわかしていた頃、私の部屋の外では、エディーお兄様とハル様が言い争っていたなんて知らずにいました。


私の知らなかった言い争いの内容は、このようなものだったらしいです・・・・。

これはカルロの後任に、新しく選ばれ護衛になった、ジュスター・カネトさんに聞いたところによるものです。


ジュスターと言うお名前から、女性と思われるかもしれませんが、れっきとした男性28歳です。


うねった茶髪の長い髪を、結わずにそのままにしているので、後ろ姿は女性です。お顔は濃い眉に艶やかな厚めの唇に真っ赤なルージュをひいてます。

ですが肩幅は広く逞しい男性です。そして、話す言葉は女性のよう。

そんな彼・・? 彼女・・ジュスターさんが話して下さいました。


「それがねぇ、この用意されたお嬢様のお部屋はね、皇太子妃のお部屋だったの。ラインちゃん(ラインハルト)がね、アルルーナお嬢様はいずれ皇太子妃になるのだから、まあ、いいかって言ちゃって・・・。そしたら、エディちゃんが猛反対したの・・・。でもね、この船のご主人様ってラインちゃんでしょ・・だからね・・エディちゃん負けちゃったのよ」


『ラインちゃん』に、『エディちゃん』呼びが気になってジュスターさんの話が半分も入って来なかったのですけど・・・。


兎に角、困った事にこのお部屋は、皇太子妃専用のお部屋だったのね。

皇太子の婚約者でもない私が、皇太子妃のお部屋を使うなんて・・畏れ多いです。

「この部屋を使うには、荷が重すぎるわ。エディーお兄様もそう思ってハル様に言って下さったのよね?」


パウラとジュスターさんが顔を見合わせる。

それから二人が頭を振る。


「お嬢様・・・エディック様はお嬢様とラインハルト皇太子殿下と二人っきりにさせる事に不安を感じた為に大反対されたのですよ。ほら、俗に言う・・『俺の目が黒いうちは娘を嫁にやらん!!』的なものですよ」


エディーお兄様がそんなおじさん臭い物言いはしないと思うのですが・・・。


しかも、このお部屋・・・全てが金ぴかに光っているの。

陰キャの私には眩しいくらいに光っている。


そんな大層なお部屋を用意されても・・・困ってしまいます。


けれども、私が他の部屋に移りたいと言えば、侍女の方々が再び別のお部屋を用意しなくちゃいけないのですよね。


それに、エディーお兄様が言ってもダメだったなら、私が言っても変えてもらえないかも・・。

落ち着かない部屋にため息が出る。

「早く帰りたいな・・・。」


呟いた言葉がジュスターさんには聞こえたようで、私の前に跪く。


「お嬢様が帰りたいと言うならば、即刻わが命に掛けてお嬢様をお屋敷に連れ戻します。わたくしは、お嬢様の望みを叶えるようにカルロ様からいわれておりますので、どうぞ遠慮無くお申し付けください」


皇太子も公爵令息も『ちゃん』付けで呼んでいたのに、なぜカルロは『カルロ様』なの?

それに、そんな事で命を掛けなくていいから・・・。

うっかり我が儘も言えません。


「いえいえ、私はハル様や、お兄様の決めた事に口出しをするつもりはありません・・だから、無茶をしないで下さい」


そう言ったら、ジュスターさんがさっきの話し方に戻って、パウラとワチャワチャとおしゃべりを始める。


「でも、良く考えたらぁ・・・ラインちゃんはお嬢様の我が儘なら、何でも聞いてくれそうなのにねぇ」


「そうですよ。皇太子殿下はお嬢様にメロメロなので、この際色々とおねだりすれば良いものを・・・うちのお嬢様ったら恋の駆け引きもしないんですよ。五歳児のお砂場の恋でも、もう少し見応えがありますよ」


「パウラちゃんたら、相変わらず辛辣ねぇ。でも、本当にやきもきさせるわよねぇ」


二人はガールズトークをしながら、部屋の外に出ていった。


静かになった部屋で私は、窓から見える海とカルロに想いを馳せた。


暫くボーッと海をみていると、エディーお兄様が息急き切って部屋に入ってきた。

外に待機していたパウラとジュスターさんも一緒に連れられて入ってくる。


「どうしたのですか?!」

どんな時にも落ち着いているお兄様が、髪を振り乱して走って来たのだ。

私が驚くのも無理もないです。


「はぁー・・間に合った」

エディーお兄様が、倒れ込むようにソファーに座る。


それと同時にノックも無く、廊下側ではない、この部屋の壁が開いて、ハル様が入ってきた。

「ルーナ!来た・・ょ・・?」

しかし、ハル様はソファーに座っているエディーお兄様を見ると、一瞬にして項垂れた。


「・・・どうしてだ? さっき機関室長と機関室に行ったはず・・・」


「アルルを皇太子妃の部屋に入れて、私を機関室長にこの部屋と真逆の機関室に案内させる・・・そんな事で私が騙されて呑気に喜んで説明を受けていると思ったのですか?」


勝ち誇ったように笑っているエディーお兄様。


「この勝負は公爵令息様の勝ちですね」

「そうね、色々と策略を巡らせたのに、ラインちゃんの惨敗ねぇ」


パウラとジュスターさんの会話の意味が分からない私。

だけど、それよりももっと気になる事に、興味を持っていかれてました。


それは、もう一つの扉の事です。


「この扉、すごいですわ。壁に見えて扉があるなんて! 廊下ではなく隣のお部屋に繋がっているんですね。これは、隠し通路ですよね? 怪しい者が来た時に隣の部屋に逃げる扉ですね!!」


昔、前世で忍者屋敷に行った時の事を思い出しました。


「ふふふ、違うよアルル。怪しい者は隣の部屋からやってくるんだよ。だからね、こうしておこう」


エディーお兄様がスッと指を壁に向けると、太い(つた)が壁をつたい、メロンの模様になった。


蔦のせいでもう壁の扉は役に立たない。


「ああ・・・」

ハル様の腑抜けた声が、響く。


「それにしても、折角アルルーナお嬢様を皇太子妃の部屋にお迎えできたのにね・・・憐れだわ」

パウラがメロンになった壁を見て、こそこそとジュスターさんと話している。


「でも、あれを通路なんて言うお嬢様も、かなりの物よね。恋の進展速度って、カタツムリが這うより遅いんじゃない?」


二人の会話で、漸く私は隣の部屋がハル様の部屋だと気が付いた。

ハル様のお部屋と繋がっていたのか・・・。


「えー・・と、ハル様は・・」

一体、ハル様は何がしたかったのかしら?


「ラインハルト皇太子殿下ともあろうお方がね、ここからお前を自分の部屋に連れ込もうとしていたんだよ」


エディーお兄様の口元は、弧を描いて微笑んでいらっしゃるようですが、眼球には何の光りも無く恐ろしいです。


え?部屋に連れ込むって、ハル様がそんな事を考えていたなんて!! 私は冷たい眼差しをハル様に向けた。


ハル様が私の態度に慌て、両手をブンブンと横に振って否定する。

「連れ込むなんて!! そこまでは思っていないよ。俺は少し自分の部屋でルーナと話をしようと思っただけだ」


それって本当に信じても良いのかな?

必死に言うハル様の手を私はギュッと握り、瞳を覗いて真実を確かめる。

「本当に?」


「・・・・。」

ハル様の瞳は戸惑い、サッと私の眼から外された。


目が泳ぐってこんな状態を言うのね。

ああ、なんか今わかりました。

下心、満載でしたのね。


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