03 私に超絶イケメンのお兄様ができました
お茶会が無事? 終わった頃でしょうか・・・。
私は公爵家の広い図書館に隠れていたのですが、お腹が空いてのろのろと出てきたところを、捕獲されました。
お母様は、今日のお茶会に参加してくれたお嬢様全員に、自筆でお礼状を書くように言っただけで、お叱りの言葉は何も仰らなかった。
怒られはしなかったけれど、それが却って不安だった。
その夜お父様とお母様が夫婦の寝室で、今日の話を夜遅くまでしていた。
私の事で、二人はかなり悩んでいたらしい。
一人娘の私が、あんなんじゃ・・・それは悩みは尽きないでしょう・・・。
「ほら、やはりアルルーナにお茶会は早かったんだよ。私はあの子には無理せずのびのびとしていて欲しいんだ」
「でも、いつまでものびのびさせていたら、あの子と結婚して、この公爵家の後を継いでくれる婿なんて、探せませんよ?」
「それなんだが・・・私の弟が平民の女性を妾にして、その女性との間に出来た男の子が、もう13歳になっているんだ。その子を養子に迎えてはどうだろう」
私は、お母様に言われたお礼状を書くのに必死で、こんな話を両親がしているなんて知る筈もなかった。
お茶会から1ヶ月経ったある日、お父様とお母様にリビングに呼ばれると、そこには私より年上の、とても綺麗な抹茶のような緑の髪の毛に、緑の瞳の男の子が立っていました。
「アルルーナ、この子は私の弟の子で名前はエディックだ。いずれこの公爵家を継いでもらおうと考えている」
あまりに急なお話しで、私がボーッと呆けていると、お母様が何か勘違いして、私を慰めだした。
「アルルには公爵家とか家柄を考えずに、のびのびと好きな事をして欲しいと考えたの」
なるほど、私には公爵家が重荷だろうと考えた両親は、早くに手を打って下さったのですね。しかも従兄弟にこんな素敵なお兄さんがいたなんて・・・。
両親は私がなんと返事をするのか固唾を飲んで待っている。
(『公爵を継ぐに相応しい人を、私のために選んで来てくれたのですね。お父様、お母様ありがとうございます』)
心の中の感謝の気持ちですが、実際には感動で、音声にはなっていません。
私は長年の責務から解放された喜びで、心の底から感謝していました。
すぐに、この重責と結婚から救ってくれたエディック様にも感謝の気持ちを伝えなければ。
そう思い、麗しいご尊顔を見た途端に声が出ない。
人見知りが発動してしまいました・・・。
一般の男子生徒にすら声を掛けた事もない私が、眉目秀麗男子においそれと話し掛けられません。
『エディック様の良き妹として、頑張りますのでどうぞ宜しくお願いします』
と脳内では再生しているのですが、ちっとも喉の方にまで届いていません。
はくはくと口を動かしていたら、エディック様の手が、私に向かって握手を求めて伸びてきた。
「この公爵家のお役に立てるように勉学に励み、アルルーナ様にも認めて頂ける用に邁進します」
あまりのキラキラ男子ッぷりに伸ばされた手を取る事も出来ませんん。
私が、わたわたと躊躇っていると、エディック様は伸ばした手を、元の位置に戻してしまった。
駄目だ。これは失礼な事をしてしまった!
もう一人の私が『本当にバカなの? 早くエディック様の手を取りなさい!!』と脳内で激怒している。
でも、体が動かないのです・・・
「あの・・ごめんなさい・・私・・」
相手に届きっこない声量で謝っても伝わらない。
もう一度勇気を出した。
「あの!」
私の渾身の言葉をだす前に、エディック様は、身を翻す。
「この屋敷を案内していただけませんか?」
エディック様は側にいる侍女に声を掛けた。
顔合わせが・・終わった・・私も詰んだ・・・・。
「そうね、屋敷の間取りや部屋を教えていなかったわね。そうだ、アルル、あなたが教えてあげて」
「ひょえ? わた、私がですか?」
お母様の強いビームのような眼差しから、先ほどの私の失敗を挽回しなさいと伝わりました。
けれど、弱気な私は侍女を振り返り、助けを求めようとした。
が、その瞬間、お母様の紫の瞳に怒りの色が混じる。
この殺気はヤバイです。
震える私は、「で・・では、屋敷をご案内しますので、エエ・・エディック様どうぞ・・こちらに」とリビングを出た。
公爵家の屋敷は広い。
案内していくうちに、打ち解けて仲良くなれるかも知れない。
そう思っていたのに・・・。
残す所、後2か所になっていた。
それもそうです。
「こちらがダイニングです」
と一言言っては、次の場所に行ったならば、すぐに終わってしまうのは当たり前です。
「こちらの日当たりの良い部屋は、冬も暖かく子供部屋にうってつけです」とか言えば良かったのかも・・・
それじゃ、町の不動産屋さんだわ。
ここで、図書館を案内した。
本好きのお祖父様が色んな王国から集めた本がある。
自慢の図書館です。
「・・・凄いね」
エディック様が一歩入るなり感嘆の声をあげた。
お顔も一気にぱーっと明るくなる。
「ほ、本が好きなのですか?!!」
つい、前のめりで尋ねてしまった。
私の勢いに押されてエディック様もすこし砕けた物言いになる。
「うん、好きだよ」
本好きに悪い人はいない。私の勝手な持論ですが、嬉しくなって私の一推しの場所を教える。
「では、こちらに来てください。私のお気に入りの場所があるんです」
三階建ての図書館の更に上の屋根裏部屋。
図書館で働く司書さん達の休憩場所から、梯子を伸ばすと屋根裏にいけるようになっている。
ここには、昔から自分の気に入った本だけを持ち込んで、本の世界に入り込む事が出きるんです。
しかもここの司書さん達は、私がここに逃げ込んでいることを、お母様やお父様には秘密にしてくれます。
嫌な事があって泣いている時には、すすすッとお茶まで入れてくれるのです。
「ははは、本当に凄いね」
大好きな場所を褒められて気を良くした私は、ベラベラと早口で喋ってしまう。
「この図書館の凄いところは、歴史書が多くて、歴女の私なんかはたまらない本が多いんです。帝国図書館と比べると本の数は劣りますが、中々の蔵書数なのです。それにここには、あの有名な・・・」
ハッと我に返ったが、やってしまった。
いつも大好きな物を語ると、1.5倍速の早口で一気に喋ってしまって、他の人に大いに引かれてしまうのに・・・
何度も同じ失敗をしてしまう・・・
エディック様の方を見れば、呆然としている。
呆れられた・・・?
兄妹になって、まだ数時間なのにもう嫌われるの?
「わたし・・わたし・・つい大好きな本の事で喋りすぎて・・引きましたわよね・・・?」
ダメだ。涙が出そう。
グスッ。涙の前に鼻水が溢れそう。
そう言えば、綺麗な子ってなんで鼻水も出さずに泣けるのかしら?
私なんか、いっつも一番に鼻水が出るんですけどぉぉぉ・・
「あの、泣かないで。私は引いてないよ」
エディック様がハンカチを指し出してくれた。
綺麗なハンカチ。
こんな綺麗なハンカチに涙以外のものを拭いちゃダメよね。
「ありがどお、ございまじゅ。えでぃっっぐざま」
「くすくす」
私のぐちゃぐちゃの顔を見て、エディック様が笑っている。
でも、私を嘲笑する嗤いじゃない。
抹茶の瞳が優しくて甘い感じの笑みだ。
「ほら、これで鼻をかんでもいいから」
鼻にハンカチを持って来られては、かむしかない。
「プビー」
エディック様は涙を親指で拭いてくれた。
恥ずかしすぎる。
「エディッぐざま、ハンカヂ、洗っておがえししまず」
慌ててエディック様の手からハンカチを奪い取る。
こんなに美しい人に、鼻水付きのハンカチを返すなんて憤死ものです。
私の情けない姿に呆れたのか、暫くじっと見つめていたエディック様。
でも、不意に私の頭を撫でる。
「アルルーナ様、私の事はエディーと呼んで下さい」
急にそんな事言われても、頭ナデナデが高難度過ぎて躊躇した。
でも、私が怯むと抹茶の瞳が悲しげに揺れる。
「ええええでぃーおにいいさまあ!!」
い・言えましたぁ。
そうだ、ここで終わるとエディック様との距離は縮まらない。
次を言わないと!!
「あああの、そそれではわだじのことは、アルかアルルとお呼びぐだざい」
鼻が詰まったままで必死で訴えた。
「うん。わかったよ。ではアルル宜しくね」
やった。やりました。エディーお兄様に、アルル呼びをしていただけましたわ!!