23 パウラの秘密(1)
(パウラ視点です)
今日ものんびりとアルルーナお嬢様は、読書三昧。
間違ってお酒を一気のみしてからは、飲み物には敏感になっていらっしゃいます。
でも、お嬢様の悪いところは、本をお読みになっている時には、他のものが一切疎かになるとこなんですよね。
先日もクッキーと間違えて、小さなメモ帳を口にして噎せてしまったりと、本当にポンコツになるんです。
また、辛辣だと不貞腐れてしまうので、今日は可哀想だから言葉にはしません。
私がアルルーナお嬢様とお会いしたのはお嬢様が4歳、私が8歳の時です。
あの頃の私は、母はなくなり父と二人で暮らしてた。
この父はお酒を飲むと暴力を振るい、私が一生懸命稼いできたお金を全て奪っては、勝てもしない賭け事に使った。
そう、毎日が地獄だった。
8歳の私が稼げるのは、詐欺まがいの事だけだ。
ボロボロの服で、町の隅に倒れていれば、善意という爛れた感情をお持ちの金持ちが、助けに近寄ってくる。
ボーッとした奴や、老人なら懐に入れている財布を抜き取って走り去る。
たまに、家まで連れてって食事を与えてくれるお間抜けさんには、宝石を盗んで裏社会の換金屋で金に換えた。
騙した奴に見つかって、殴られるなんて事はしょっちゅうだ。
こんなに体を張って稼いだ金を父に搾取される。
そして、今日も冬の寒空に倒れていた。
この時は本当に腹が減って倒れていたんだが・・・
すると小さい4~5歳くらいの女の子が近寄ってきた。
そしたら、私の冷たい手を掴んで口もとに持っていき、ふーふーと息を吹き掛ける。
何してるの?と怪しんでいたら、女の子が拙い言葉で話し出した。
「・・・あの・・、お手々・・あったかくなった?」
「あのね、息吹き掛けたって、そんなの何の助けにもならないよ」
小さい子は私のイライラした言い方が怖かったのか、泣き出しそうになる。
「えっと・・どーしたらいい?」
私はその子の着ている洋服が高そうだと気が付く。
「じゃあ、あんたの家で何か食わしてよ」
「うん、いいよぉ」
女の子は嬉しそうに、立ち上がって私の手を引っ張っていく。
貴族の子だと思ったんだけど、御付きの人もいないのか?
だけど、その子が案内してくれた先には、一際輝く馬車があった。
濃紺の馬車には金色の双頭の鷲と真ん中に剣が描かれているエンブレムがある。
これ、どっかで見たことあったけど・・
記憶の中のエンブレムを色々思い出そうとしていたが、女の子が引っ張るから気が逸れてしまう。
馬車の中は暖房が効いているのか、暖かい。それにふわっと花の香りがした。
「さあ、こっちに座って」
小さい女の子は私に奥の座席を譲る。
出口は寒いから、私をより暖かい方に座らせたのだろう。
私はどかっと座るとさっそく金目の物がないか見渡した。
馬車の中の装飾は豪華だったが、取れるものはない。
私が馬車を見ている時も、女の子は膝掛けだの、肩掛けだの、更にはブランケットを何枚も私に掛けてくる。
ここの馬車には、何枚ブランケットを用意しているの?
「こんなに掛けられたらあっついわ!!」
私が、山のように掛けられたブランケットを前の座席に放り投げると、女の子はめっちゃ喜ぶ。
「あたたかくなった? お顔が真っ赤になって良かったぁ」
「真っ赤って・・・」
怒りで赤いんだと吠えたかったが、あんまりにも嬉しそうだから、それ以上嫌みが言えなかった。
そうしていると、お城に着いてしまった。
てっきり貴族だから、お屋敷程度の家を想像していたら、城のような屋敷だった。
バカでかい門には門兵がいる。
庭のあちこちに、騎士が馬に乗って警戒していた。
これはすごい貴族のお嬢ちゃんを捕まえたな。
女の子は、町の大聖堂よりでっかい扉のある入り口に入っていく。
私が入ろうとしたら、きっと大人が大勢やって来て、『お前のような奴が来るところじゃない』って言われるんだよな。
たまに貴族の子供が、お遊びで私を連れて帰ろうとするんだけど、私が屋敷の中に入ろうとしたら、ガミガミ言われるんだ。
今日も言われるだろうと思っていたのに、すんなり入れた。
だが、目付きの鋭い侍女が私の身なりを見るや否や、「お嬢様のお部屋に入る前に入浴して、体を清潔にして頂きます」って言うと3人の侍女に浴室に放り込まれた。
ごしごしと徹底的に洗われて、綺麗になったら次は可愛いワンピースの服が用意されていた。
「このふりっふりの服が恥ずかしいんだけど、他の服にしてくれないか?」
答えは「承知致しかねます」
一瞬答えが分からず、出きるか出来ないかで答えて欲しいと思ったが、侍女が目を合わせないから、取り敢えず、このフリフリの服で我慢した。
お嬢様がトコトコと調理場に入っていく。
あれ?貴族の御姫様は調理場なんて入らないんじゃないのか?
用があれば執事とか、侍女に言い付けるんじゃないの?
私の疑問は増えるが、女の子が調理場に入っていったので私も恐る恐る入った。
「アルルーナお嬢様、どうされましたか?」
白い髭の優しそうなおじさんが、さらに目の回りのシワを下げて、にこやかに微笑む。
「えっと、えっと・・今日お友達を連れて来たので・・お腹がいっぱいになるような、それから、幸せになるあの料理を作って下さい」
「はい、良く言えましたね。すぐ作るのでダイニングで待っててください」
「ありがとう、ルッキーノ!!」
ルッキーノと呼ばれた人物は、後ろを向くと、大勢のシェフ達に伝える。
「アルルーナお嬢様が、幸せのオムライスをご所望だ。急いで作るぞ」
「おお!!」と野太い声が調理場に響く。
調理場には、高級そうな食材がいっぱい有ったが、これは盗む前に取っ捕まって、私が食材にされそうだ。
ブルッと震えて調理場を後にした。
ダイニングという名の、大広間。
広すぎて、そわそわしちまう。
玄関であった目付きの鋭い侍女に女の子が駆け寄る。
「リオンヌ!! あのね、あのね、ルーね・・ルッキーノにきちんとお話してお料理を頼めたの」
目付きが怖いリオンヌと呼ばれた侍女が、お母さんのように優しく微笑む。
「良くできましたわ。これからも、多くの人とお話して人見知りを治していきましょうね」
「はーい!!」
人と話す練習?
なんとまあ、過保護な・・・。
私なんか、人を騙してしか生きていけないってのに。
なんだか、もの凄く腹が立って仕方なかった。
その後オムライスって言う卵をたっぷり使った料理を食べて、女の子と遊んでいたら、日がくれた。
そして、そのまま女の子に誘われるまま泊まることになった。
ふっかふっかなベッド。
「おい、お前さぁ・・寝相はいいんだろうな?」
「・・・・・・うーんと・・寝てるから良いのか悪いのか・・わからないわ。でも、お母様は私の寝相は面白いって言ってた」
お母様だって・・・。
私にはそんなのいない。
けっ! やっぱり面白くない。
明かりを消して暫くすると、女の子からすーすーと静かな寝息が聞こえてきた。
やっと寝た。
私は部屋を物色し始める。
テーブルの上に高そうな宝石の付いたブレスレットが置いてある。
バカだな。
まるで私に盗って下さいって言ってるのと同じだぞ。
ドレスなんて盗んでも、売る所がない。
ここは、ブレスレットだけで勘弁しといてやるよ。
信頼しきっている御姫様が明日どんなに悔しがるのか見たいが、そうは出来ないので、忍び足でバルコニーのある窓へ向かう。
「じゃあね、お人好しの御姫様」
窓を開けて、近くの木に飛び移りするすると地面に降りた。
それから、誰にも見つからずに昼間に入った門まで来ると、ラッキーなことに使用人の出口か、脇の小さな門が開いている。
そこから難なく外に出れた。
「なんだ、あれだけ沢山の騎士がいて、ここの警備は穴だらけじゃないか。あはははは」
おかしくて大笑いした。
だけど、急に心配になってくる。
あの女の子が身代金目的で誘拐されるんじゃないかって考えると、開いていた門が気になってしょうがない。
なんてどんくさいお屋敷なんだ!!
使用人も警護の騎士もダメダメじゃないか!!
私はその辺にあったボロ着れを纏って、さっき出てきたお屋敷の門に戻った。
ちょうど、腰の曲がったおじいさんがいる。門番だろうか?
まあ、誰でもいい。
「あの、おじいさん・・・あんたここの屋敷の人?」
おじいさんはこんな夜更けに声を掛けられるとは思ってなかったのか、びくっと体を固まらせた。
「そうじゃよ。何か用かの?」
「あのさ、ここの小さい門が開けっ放しなんだよ。不用心だろ。しっかり閉めといた方がいいよ」
「・・・・・。」
このおじいさん、耳が遠いのか不思議そうに私を見ている。
「ねえ、聞いてるの?」
もう一回、同じことを言わないと通じてないのか?と苛立ったがおじいさんが我に返って返事をした。
「・・・ああ、良くわかったよ。今すぐに鍵を閉めておくよ。君もこんな夜遅くに出歩いていると危ないよ。気を付けてお帰り」
「ああ、ありがとう」
おじいさんに門の事を伝えられてよかった。
これで安心して家に帰れるわ。
あの、甘っちょろい女の子とは二度と関わることはないだろう。
しかし、自分のこの考えの方が甘かったと思うのは数時間後だ。




