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21 俺のルーナはアルルーナ?(2)


(ラインハルト視点です)



いつもと違う出口は、侍女達や使用人が使う扉だ。


俺が通るのを、侍女達は驚いた顔で見ている。

だが、気にすることなくどんどん突き進む。


暫くまっすぐ行くと、厨房に出た。

ここからパーティーの食事や飲み物を作って運ばれている。

その厨房がざわつく。

その声も気にせず、厨房をさらにまっすぐに行くと、俺の前を歩く侍女がいた。

その侍女を見たことがあった。


その侍女はマイヤー公爵家に行った時に仕えていた者だ。


「おい、その飲み物をどこに持っていくんだ?」


「きゃっ!!」

ガシャッ


俺が急に声をかけたせいで、侍女は驚きトレーの上の飲み物を倒してしまった。


「これはラインハルト様、申し訳ございません!! お召し物が!! お許し下さい」


侍女が小さくなって謝る。

どうやら、俺に水が掛かったようだ。

「大丈夫だ。ただの水だ。気にするな。所でその水をどこに持っていこうとしていたのだ?」


「はい、現在貴賓室におられるアルルーナ公爵令嬢に、お水を運ぶところでした」


あの、傲慢公爵令嬢にか?

道理で慌てていたわけだ。


「仕事の邪魔をしてすまなかったな」


俺は新しいトレーと、そこにあった水の入ったグラスを渡した。

そして、その部屋を案内して欲しいと頼んだ


侍女は「分かりました」とすぐに引き受けてくれた。

だが、ずっと手が震えている。

「そんなにあのアルルーナ嬢は怖いのか? やはりな・・・」

俺はきっと傲慢令嬢が恐ろしくて震えているのだと思いポツリと呟く。


だが、驚いたことにその侍女は、あれだけ小声だった声量を急にあげて俺に向き直った。


「あのアルルーナ様が怖いなんてとんでもございませんわ!! あの方は本当にお優しくて、いつも私ども侍女の事を気遣って下さいます」


あまりの剣幕にたじろいでしまった。


「いや・・だって今震えていたじゃないか」


「それは、皇太子殿下の前でこれ以上の粗相しないようにと緊張からです」


さっきまでの態度とは違いすぎるじゃないか。

明らかに緊張どころか、怒りで態度が豹変しているぞ。


その侍女は俺がまだ理解をしていないと思ったのか、あからさまなため息をわざとらしくついて、首を横に振る。


「では、アルルーナ様の真実の姿をご覧頂きたいので、黙って私について来てください」


何だか嫌だったが、どうせマイヤー公爵令嬢をエスコートするために、部屋には行かなければならないんだ。


表からではなく、裏から部屋に入っても同じだろう。

それに、本当に噂と違うと言うなら見てみたいし・・・。


もしかしたら、ルーナが一緒に来ていたら、こっそり見られるかも知れない。


大人しくついていく。


侍女がノックし、

「お嬢様のお水をお持ちしました」と声をかけ、中に入る。


それと一緒に侍女が俺に手招きしてその部屋の中に入れる。

扉を一歩入るとすぐのところには、パーテーションが置かれていて、扉が開いても、すぐ中が見えないようになっている。


侍女はそのパーテーションの後ろに俺を隠したまま、自分だけへやに入っていった。



「お嬢様、大丈夫ですか?」


俺をここに入れた侍女とは別の声が聞こえる。


「ええ、ありがとう。少しは落ち着きました。マリーもお水を持ってきてくれてありがとう」


ちょっと待ってくれぇええぇえ!!

ど、どどどういう事だぁぁぁ!!


この声をお聞き間違う筈がない!!

だって、この声は俺の最愛のルーナの声だ!!


俺の心臓がドドドドと早打ちの太鼓くらいに動いている。



パーテーションの隙間から、そっと部屋の中にいる人物を確認した。


一人はさっきのマリーと呼ばれた侍女だ。

もう一人はパウラと言ったか?

村の視察に一緒にいた侍女がいる。


そして、もう一人・・髪の毛はブロンドのストレートヘアーが肩で波を打ち、紫の瞳を潤ませている・・・あの子だ。


ガタッ


しまった!!

驚きでパーテーションに当たって音を出してしまった。


「誰かいるの?」

ルーナが怯えるが、先ほどの侍女が咄嗟に言い繕う。


「ああ、先ほど仕切りの後ろに立て掛けたトレーが倒れたようですわ」


マリー、さすがだ。

君は出きる侍女だな。


心の中で拍手をする。


俺は愛しいルーナ見たさに、もう一度覗いた。


見れば見るほどルーナだ。

では本当にルーナは公爵令嬢のアルルーナなのか?


これだけ目の当たりにしても、半信半疑なのは仕方ないだろう?

ずっと、アルルーナは傲慢令嬢だと信じて疑わなかったのだ。


しっかりと再び見る。

本当の姿のルーナは、神々しい程に美しい。

ドレスに身を包み、アクセサリーをつけ、化粧を施したルーナはこの世に舞い降りた女神だ。


ただ、その顔は憂いを含み、悲しげに沈んでいる。


ああ、俺のルーナを悲しませている物があれば、なんだって取り除いてあげたい。

何をそんなに嘆いているんだ?


「お嬢様、元気を出して下さい。きっとエディック様が駆けつけて下さいますよ」


俺はパーテーションから出そうになる。

彼女のエスコートをする役目は俺だ!と・・・


「あの、怖い皇太子殿下にエスコートされるなんて・・・私・・我慢出来ずに泣いちゃうかも・・・」


ルーナの言葉にあぜんとする。


ルーナの悲しみの原因は俺?

俺を取り除いたら、ルーナは笑顔になるのか?


え? 

いつそんなにルーナに嫌われるような事をした?


俺は一人パニックになって髪の毛をかきむしっていた。


侍女マリーの大きな咳払いが響く。

「ゴホン!!」


それで漸く我に返った。


「アルルーナ様はどうして、そんなに皇太子殿下を怖れているのですか?」


マリー・・君は本当に最高だ。

俺もそこが聞きたい。


じっと耳をすませて聞く。


「初めてお会いしたのは、陛下に呼ばれて宮殿に行った時です。村の視察に行く殿下に付き添うように言われたの。そして、それを殿下に伝えに行って欲しいと言われて・・・」


ルーナの声がどんどん小さくなる。


「そうですわ!! あのときの殿下の怖かった事」

もう一人のパウラと言う侍女が思い出したのか大声で納得していた。


え?

その時の事って?


記憶を辿る・・・・。

思い出せん・・・。



「『ああ、風邪を引いているのか? それなのにわざわざこんなところまできて、何を考えているんだか・・』と低い声で言われたんです。初めてお会いした方に冷たく言われて・・心がポッキリと折れたんです」


・・・・・俺は・・言った。

確かにあの時はひどい令嬢だと思い込んでいて・・・。


確かめずに酷いことを言った。



ルーナが泣きそうな声で訴える。


「殿下のエスコートは嫌です・・・。エディーお兄様のエスコートがいいです・・・」


ゴンッ

俺は無意識に、壁に頭を打ち付けていた。


「おほほほ、パーテーションの後ろに置いた大きなトレーが、ぶっ倒れたのかしら!!!厨房に返して来ます!!」


俺はマリーに手をひかれて、マイヤー公爵家の控え室から出された。

もう、その後は覚えていない。

長い使用人の通路を引きずられるようにして移動し、最終的に元いたパーティー会場にポイッと投げ入れられた。


公爵家の人間は、皇族に対して雑すぎるだろう。


だが、ショックで何も感じない。


傲慢令嬢と噂されていたのはアルルーナ嬢。

俺が愛したのはその侍女のルーナだった。

でも、二人は同一人物。

そしてアルルーナ嬢に俺は嫌われている。

つまり愛しのルーナにも嫌われている・・・。


ホール中央では男女のダンスをしている姿が目に入る。

楽しそうだ。


本来ならば、俺だってルーナと踊っている筈だった。

そうだろう。俺とルーナには、初めから身分差なんてなかったのに。


きちんと会えていれば、彼女が俺の婚約候補の中では一番の筆頭だったんだ。


「あんなに嫌われているなんて・・・。俺があの時のラインハルトだと知ったならルーナは・・・失望するだろうな・・」


頭を抱えている息子に、陛下は壇上から『早くアルルーナの元に行ってエスコートして連れてこい』と矢のような催促を目で告げてくる。


その横で宰相のテーゼがにやにやと笑っている。


あいつが腹黒いのをすっかり忘れてたぁぁぁ。


テーゼとマイヤー公爵は昔からの親友だ。

俺が図書館でエディックとルーナを引き離して欲しいと頼んだ時、アルルーナとルーナは同一人物だと知っている筈じゃないか。


なのに・・素知らぬ顔で、俺の恋愛を密かに楽しんでいたに違いない。


なんて悪趣味だ!!


あの時テーゼが教えてくれさえしていれば、アルルーナに宮殿で会った時あんな態度をとらなかったさ・・・。


いや、今思えば人の噂を確かめず、鵜呑みにするなと言うテーゼの教えだったのか・・・。


陛下の横でにへらと笑うテーゼ。


テーゼはそんな甘い奴じゃないな。


陛下もあの様子なら、もう知っているようだ。

今さら振られたなんて言えやしない。

また、陛下が早くアルルーナの部屋に行けと手を振っている。


クソ。


行ってやる。


男は度胸だ。当たって砕け・・たくない・・。

しかし、このまま逃げる訳にも行かず、俺は今度は貴族が使う絨毯を敷きつめた廊下から、マイヤー公爵令嬢の控えの貴賓室の前に立った。


ノックをしようとしたが、部屋の中が騒がしい。


「早くお医者さまを呼んで頂戴!!」


「お嬢様、大丈夫ですか?」

侍女達の声がはっきり聞こえた。


ルーナに何かあったのか?


俺はノックも忘れて中に入る。


ルーナがクッタリと床に倒れているではないか。


「どうしたのだ、ルーナ!!」

俺は床から抱き上げて、近くのソファーに寝かせた。


それと同時にルーナがうっすらと瞳を開ける。


「ふわーぁあ。ひっく。ハルさんが紺色の髪の毛に変わってるー。それに瞳も黄金だねぇぇ。あはは。何だかいつもと違う服きて・・・ちがう人みたい。ひっく」


これはいったい・・・


「すみません、どうやら先ほど持ってきたグラスに水ではなく、お酒が入っていたようで・・・」


侍女のマリーがひたすら謝っている。


あれ?


あのグラスを取って、マリーに渡したのは俺だ。


「ああ、ルーナごめんよ。間違ってお酒を飲ませたのは俺だ!!」


「おさけぇ? ハルさん。おさけははたちになってからでふ」

ルーナは俺に『めっ』と可愛く怒った顔をしたら、すぐに寝てしまった。


ちょっとホッとしてしまう。

これで、今日は俺が何者かは、ばれずに済んだな。


だが、これで済むわけがない。

なぜなら、一人の侍女が目を眇てみているのだ。


パウラという名の侍女だ。


「皇太子殿下が『ハルさん』でお間違えないでしょうか?」


バレてる。


さっきから、ルーナが何度も呼んでたもんな。

誤魔化せない。

しかし、ここは何としてもゴネるぞ。


「『そうだ』、という前に・・私がハルだということをマイヤー公爵令嬢には黙ってて欲しい」


パウラという侍女が、『はぁ?』と言いたげな顔をする。

それはそうだろう。気持ちは分かるがここは何としても切り抜けたい。

「現在、マイヤー公爵令嬢の中では、俺はどうやら最低な人間に思われている。」


パウラとマリーが『うんうん』と激しく首を縦に振る。

くっ、お前達・・・。

皇族に対して何の敬意もみられないぞ。


「俺はマイヤー公爵令嬢の中の皇太子の評価を、何とか挽回してから名乗りたいんだ」


「賢明なご判断です。現在アルルーナお嬢様の中での皇太子殿下の位置は、もはや、ゴ◯◯リ以下です。ここは私共も協力致しましょう」


ゴ◯◯リ以下って・・・。

腹をえぐられたんじゃないかと思うくらいに効いた。

少々言い過ぎではないのか?


俺はあまりの不敬にパウラを睨むと、その5万倍の顔で睨み返された。


あっ・・・・。

こいつは、アルルーナのためならなんだってするヤバイ奴だ。


俺はそそくさと視線を下げる。


「手伝ってくれるのはありがたいが、どうしてだ?」


『アルルーナ命』って奴がどうして俺なんかに協力をしてくれるのか、腑に落ちない。

何か裏があるのかと勘ぐってしまう。


「宮殿に行く度に、震えるお嬢様をこのまま見過ごす事なんて出来ません。元凶である皇太子殿下が

優しいと分かれば、宮殿で少しでもお過ごし易くなるんでは・・と考えての事です」


ああ、なるほどね・・・。

『アルルーナ愛』が深い奴がここにもいたのか・・・。


そして、ややこしいことにもう一人『アルルーナ愛』が深すぎる奴と鉢合わせてしまった。


「おい、お前!! 私の妹に何を勝手に触れているんだ!!」


ああ、もう勘弁してよ!!!


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[一言] 「懸命なご判断です。現在アルルーナお嬢様の中での皇太子殿下の位置は、もはや、ゴ◯◯リ以下です。ここは私共も協力致しましょう」 「懸命なご判断」としてしまうと、単なる個人の感想となってしまい…
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