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19  言いそびれました

本日、先に更新した18話が、ほぼ間欠泉の説明で終わったので、二回目の更新で19話も投稿します。


開拓の村に帰るとハルさんは、不気味に聞こえていた音の正体を、丁寧に村人達に話してくれました。


私が話すと話が逸れてややこしくなるので、ハルさんにお願いした次第です(汗)。

大地の営みについて話し出した私を、自分で制御できないことは重々に承知しています。


それ以前に大勢の人の前で、話すなんて心臓が跳ね上がって、一言も口から出ない可能性も高いですし・・・。


ハルさんの巧みな会話で、村人は簡単にドラゴンの咆哮だと思われていた音が、間欠泉の仕業なのだと受け入れて下さり説明会はお開きになった。


私はすっかりやり終えた達成感で、自分の部屋のベッドに倒れ込んだ。


あー終わった。


カルデラも見ました。

火山湖も見ました。

なんと、間欠泉までも見られました。

彦◯さん風に言うと・・

地学のテーマパークやー・・です。



村人への説明責任も果たしました。(私が説明をしたわけじゃありませんが・・・)


説明責任・・・


この言葉に、大切な何かを忘れているような気がしてなりません。


あー何か思い出したい。


テレビを見ていて、名前が出てこないもどかしさに似ています。


でも、その前に睡魔が襲ってきました。


これには勝てません・・・。




翌朝、起きるとハルさんが皇帝陛下への説明と王都で残っている仕事のために、一足早く帰路についたとパウラから聞きました。


「そうですか・・・ハルさんは帰ったのですか・・・」


確かに朝遅くまで寝坊していたのは私です。


でも、挨拶もしないで帰ってしまうなんて・・・


あれ? 私は今、なぜこんなにも寂しいと思っているのでしょうか?

これって友達と一緒にお出掛けしてたのに、急に『用事が出来たから先に帰るね』と言われて寂しくなっちゃうことってありますよね。

つまり、友達が帰ってちょこっとだけ孤独感を感じているだけなのかも。


そうよね?

うん! そうです。

・・きっと・・・


パウラが一人百面相をしている私のおでこに手を置いて、心配そうに聞く。


「大丈夫ですか?」


「ふえ? 体はなんともないけど・・」


「心配しているのは頭です」


「・・・」

なんとも辛辣な侍女です。

でも、彼女の媚のない態度に隠された愛情と、絶対的信頼があるから大好きなの。


「ああー、忘れてました。ミュラホーク様から伝言を預かっております」

パウラから小さく畳まれたメモ用紙を受け取り開けてます。


ハルさん(・・・・)に貴女の事をお話頂けましたでしょうか? もし、まだなら一刻も早いご説明をお願いします』


・・・そうでした。

ブワッと全身から汗が出ました。

そうなのです・・すっかり忘れてました。


でも、今さら思い出したところで、話す相手はここにはいません。


なぜ、もっと早く話さなかったのかと後悔が大嵐の波のように押し寄せています。

プルプルと打ちひしがれている私に、容赦のない侍女の攻撃がきました。


「お嬢様、帰る準備をしていますので、ちゃっちゃっと早く朝食を召し上がって下さいね」


言い終わらないうちに、怒涛の如くブランケットをめくられて、ナイトウエアをひっぺがさられた。

さらに手品のような早着替えでドレスになっている。


我が家の侍女のスキルが、ボードに表示されて見れたなら、驚くべき技術が山ほど書かれているでしょう。


ため息をつきながら食堂に降りていくと、マッチョの騎士隊員のジョン・リクマイ18歳が、あくびを噛み殺し挨拶をしてくれた。


「おはようございます。早いですね・・・」

チラリと大きな置時計を見て言うあたり、嫌味のようです。


「・・・ジョンさん、おはようございます」

ここで、私はずっと忘れていた皇太子殿下の存在を今になって思い出した。


そう言えば、私は皇太子殿下の視察のお供でここにきたのに、一回もお目にかかっていません。

どこかに居たのかしら?


紺色の長髪に、瞳は金色。

そんな方ってここにいらしたの?


「ジョンさん、皇太子殿下はここにいらっしゃいました?」


「ああ、随分早くにお帰りになったから、(今日は)アルルーナ様に会ってないですよ」


皇太子殿下はここに着くとすぐに、何らかの用事でお帰りになられたようだと、ジョンさんの言葉をそう解釈した。


私はあの恐ろしい殿下と会わずに済んだ事を心の底から喜んでいた。


良かった。

あの冷たく低い声で舌打ちなどされた日には、数日間は立ち上がれないくらいに、精神を打ちのめされていたでしょう。


この旅行でお母様から課されたミッションは達成しました。

皇太子殿下の視察のお手伝いは、殿下の方が何らかの理由でキャンセルだったから、陛下から強めのお叱りはないはずです。


カルデラも間欠泉も見れました。


ハルさんにも・・・


ああ、あの抱きつかれた感触が全身に甦って顔から湯気が出そうになる。


ふらふらになりながら、なんとか朝食を終えました。

さあ、優しいエディーお兄様が待っている、あの屋敷に向かって帰りましょう。







◇□ ◇□ ◇□


私、テーゼ・クランデはこのシュバルツ帝国で長きに亘り宰相をしております。


ここのところ多きな問題もなく、政治的不安もなく、順調です。


つい最近、皇太子殿下の恋愛に関して面白い事が起こりそうだったのですが・・・

あっという間に解決して、また単調な毎日をすごしている。


今も、陛下の執務室で向かい合わせでソファーに座り、例年と変わらない小麦の収穫量を報告をしていた。


そんな途中に陛下の侍従が、ヒソヒソと陛下に耳打ちをしている。


「テーゼ、ラインハルトが急ぎのようなのか、すぐに会いたいと言っているんだ。ここまで息子が言うのは珍しい。済まないが一緒に話を聞いてもらっても良いか?」


いつもと違う行動をする息子の様子に、陛下が心配気に眉を寄せた。


何事だろうと案じる。

いつも達観している僧侶の様な皇太子殿下が、青年らしく表情豊かになったことを密かに喜んでいたのだ。

その彼が急ぎのようとは。

困った事態でなければよいのだが・・・。


と言うのは建前で、いつも面白く無さそうな顔で、憮然とした態度の若造があわてふためく様子を眺めるのは愉快だ。


それで、今回は何を慌てているのだ?


侍女だと思っていた女が公爵令嬢と分かり、今はホッとして愛を育んでいるのじゃないのか?


私が皇太子の事を考えていると、開かれたドアから、ラインハルトが入ってきた。


なにやら、切羽詰まった顔をしているじゃないか・・・。


まさか!!!


子供が出来たのか?


慎重派の皇太子殿下に限ってそんなことは・・・。

いや、慎重派といっても、男はいつの時代も我慢出来ない動物なのだ。若ければ好きな女の前で「待った」はかけられなかったのかも知れないな。


陛下もとうとう『おじいちゃん』か・・。


フフフ。


脳内で孫と遊ぶ皇帝陛下を創造しながら、紅茶を口に含む。

うん。この香りは最高品だな。


「陛下!!お願いがあります。平民のルーナという女性と結婚をさせて下さい!!!」


「ぶーーー!!!」


私としたことが、口に含んだ紅茶を全部吐き出して、目の前の陛下の顔に吹き掛けてしまった。


「申し訳ありません!!! 陛下!! 大丈夫ですか? 誰か冷えたタオルを持て!!今すぐだ!!」


「うむ、大丈夫だ・・・」

さすがは陛下だ。ラインハルトの爆弾発言にも、私の紅茶ぶっかけ攻撃にも冷静だった。


少々騒然としたが、陛下も衣装を手早く着替えた。

侍女達も机の上や、豪華なビスク地方のビスコール織りの絨毯に染みが残らないように拭き上げた。


一旦しきり直してもう一度ラインハルトが陛下に、直訴した。


「もう一度、陛下にお願い申し上げます。私の身分を考えると、このような事を望むのは愚かな事だと解っています。しかし、身分を投げうってでも、ルーナが欲しいのです」


私は驚いた。

と同時に

皇太子は未だに知らんかったのか?

と笑いが漏れそうになる。


いかんいかん。

そっと口許を隠した。


また、面白くなるぞ。



私とは対照的に陛下の顔が真っ赤になっていく。


「何を考えているんだ!! そんな事を認めるわけにはいかんだろう!! 頭を冷やせ!!!」


ダメだ、このまま放置すれば陛下が高血圧でお倒れになるぞ!!

私が間に入って止めなければ・・!

「皇太子殿下、いきなりそのような大事を言われても、陛下もすぐに返事は出せません。陛下と少しお話をしますので、今日のところは自室にお戻り下さい」


諌めた私に対し、ラインハルトは、まだ何かを言いたそうにしていたが、私は首を振って『ダメだ』と諭す。


拳を強く握り締めたまま、ラインハルトは陛下の前から下がった。


陛下を振り返ると、こちらも鬼の形相で握り拳を震わせているじゃありませんか。

やはり、似た者親子ですね。


フーと息を吐くと、私はこれ以上血圧が上がらないように、陛下に本当のところを話した。


アルルーナ・マイヤー公爵令嬢は、侍女のルーナとして、また皇太子殿下は図書館の司書のハルとして二人はお互いに平民だと思って会っているのだと説明をした。




「・・・おい、テーゼ。私の息子で遊ぶな」

陛下に肝が冷えるような声で怒られてしまった。


「いえいえ、最初はちょっと内緒にしていましたが、陛下がすぐにマイヤー公爵令嬢と皇太子殿下を引き合わせたと聞いて、すっかり誤解も解けていると思っていたのですよ。いやーまだ知らなかったとは・・・」


いやー・・本当に面白い。


「身分違いの恋に苦しむ我が息子・・・本当に阿呆じゃ・・・」


「本当に・・」


陛下の言葉についうっかりと返事をしてしまった。

じろっと睨む陛下に身がすくむ。


「あいつは猪突猛進のところがあるからな・・・思い込みが激しいところが特に・・・」


陛下が珍しく息子の肩をもっているな。恋にさ迷う息子を憐れに思ったのだろうか?


「しかし、そう言ったところを直して頂かないといけません。視野を広げていれば、このようなことは起こらなかった筈です」


私が厳しめの意見を言うと、まるで自分が怒られたかのように、肩を竦めた陛下。


「それで、この後はどうなされるおつもりですか?」

私が聞くと、陛下はすぐにお茶目な思い付きを提案してきた。


「今度、舞踏会を催そう。そこでマイヤー公爵令嬢も招待するのだ。そこで二人が会えば、お互いの身分も解るだろう」


そこで素顔の二人を会わせてビックリさせるんですね。


「陛下もご自身のご子息様で遊んでおられませんか?」

「これは、サプライズだよ。テーゼ。だから、頼んだよ」


めんどくさい準備は私がするんですね・・・。

宰相の仕事は大変なんですけど・・・。

まあ、いいか。

面白いし。


「仰せのままに、では準備に取りかかります」


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