18 露天風呂って
陰キャの私が奇跡の『あーん』をした次の日。
ハルさんは先頭集団で先を行ってます。
私は後ろの方で、油断をすると昨日の事を思いだし頬が緩み、しまらない顔になる。
『にへらっ』とした顔がすぐに、精魂尽きた『へろへろ』の顔になったのはすぐだった。
それは、馬が歩きやすい平地が終わり、緑深い森を進んで行くとすぐに変わった。
高低差のない道だったのですが、とにかく岩場だらけの道で、馬を下りて歩いて進むことになったのです。
進むにつれてだんだんと樹木が少なくなり、低木と雑草ばかりになった。
道も、白い岩場が更に増える。
更に行くと急に目の前が眼下に広がる眺望の良いところに出てきた。
ここは少し高台になっている。
ここより先は急に低地になっていて、海抜より低い土地のようだ。
それを見渡せる絶景ポイントに私は立っています。
いつの間にか隣に来ていたハルさんに、私は長早口でこの素晴らしさを語ってしまう。
「見て下さい。この雄大な景色。このポイントからきれいな円形にへこんだ土地があります。
大きなカルデラです。
誰かがコンパスで書いたような円形です。
なんて美しいのでしょう。
そして、ここより先は、赤茶けた岩肌が広がる不毛地帯。
雑草も生えていません。
きっと、硫黄のせいです。
更にカルデラの中に濃いエメラルドグリーン色の湖があります。湖の形は直径30メートルほどで、形は少し歪な形ですがこれは火口湖です。
抹茶ラテを思い出す、きれいな緑色の湖。
ああ、なんて素晴らしいのでしょう!!
さあ、ハルさん。少し降りて、先を探検しましょう!!」
私は感動のあまり、探検隊の隊長のようにワクワクしていた。
小さな旗を持っていれば、バスツアーのバスガイドさん並みに、皆さんを引き連れて、『皆様~、こちら左手に見えますのがー』としていたかも知れない。
それほど気持ちの高揚が押さえきれなかった。
赤茶けた大地から、シューと吹き出す煙。
硫黄の匂いがする中、『ランカ』というネズミくらいの動物が行き来している。彼らがここにいるという事は毒性の煙は出ていない。
安心して先に進む。
すると、直径5メートル程の穴が大地に開いている。その穴には真っ青なお湯が溜まっている。
これは間欠泉?
しかも、少し穴からお湯が少しドーム上に盛り上がっている?
こ、これは今から熱湯を噴き出そうとしているのでは?!!
「皆さん!! 退却してください!! この穴から出きるだけ遠くに逃げて下さい!!」
私が大声で叫ぶ。先頭の私が一番危ない。しかも、足が遅い。遅すぎる。Uターンし走るが、全く間欠泉から遠くに逃げられない。
「どうした?」
ハルさんがこちらに走って来る。
「ダメ、早く逃げて」
私の言葉を無視して走り寄り、ハルさんは私を掴まえると、抱き上げて颯爽と間欠泉から遠ざかった。
それは本当に格好良く、姫様を助ける王子様のようだった。
十分に距離が出来たところで、間欠泉から大量の熱湯が吹き出した。
「「「おおおお」」」
これを見ていた騎士さん達が歓声を上げる。
推定80メートルの高さまで吹き上がった熱湯は、その後約5分間そのまま噴出した。
素晴らしい高さです。
でも、噴き上がった熱湯の温度は120度はあるでしょう。
実際に近くにいたら大火傷でした。
ハルさんのお陰で私は無事にこの間欠泉が噴き上がるのを見られたのです。
噴出が止まると、流れ出た穴の近くの熱湯はスルスルと元の穴に戻って行きます。
グボオオオオオオオーーーー
その時とてつもなく大きな音が、鼓膜をつんざきました。
耳を押さえても、音がうるさくて立ってられません。
この音はあの村で聞いた音でしょう。
この間欠泉と連動して鳴っている穴が近くにあるはずです。
私は耳を押さえながらも、この大音量の発生源を探ります。
すると一ヵ所だけ不自然に、蒸気が大地に吸い込まれていく小さな穴があります。そして、ここが大音量の発生源です。
しばらくすると音も小さくなり、最後にはリコーダーの抜けたような『ピィーーー』と小さな音になり音は止まりました。
「ハルさん、ドラゴンのような咆哮の出所が分かりました」
私が振り返ると、すぐ後ろにいたハルさんも、
「俺も分かったよ、この穴から聞こえてたね」
って耳元で囁かれました。
さっきの大きな音でバカになった耳に、ハルさんの甘い声は優しくスーッと耳に響きます。
騎士さん達は間欠泉と、先ほどの大音響のダブルショックの興奮冷めやらぬ時に、私は全然違う事に興奮が増してきました。
先日のハルさんの『好きな子』発言が舞い戻って脳内で再生されたからです。
こんなところテンパって気絶なんてしたら、またハルさんにご迷惑をかけちゃう。
何とか自分の気を逸らす方法を独自に考え付いた。
それは他の事で頭を一杯にすることです。
※ここから私の台詞はおたくっぷりが間欠泉並みに噴き出した説明なので、時間がない方は次の ※印まで飛ばして下さいませ。
「ハルさん!! この地面の下には高温のミネラルたっぷりの熱水があり、この穴は筒状になっています。お水の沸点は普通であれば100度ですが、高い山に登れば登る程沸点が低くなります。例えば8800メートルの高い山なら70度程で沸騰するのです。また逆に地下深くなればなるほど沸点は上がり、100度を越えても沸騰しないんです。地下深くの100度以上のお湯が水面に出てくる事によって、爆発的に沸騰し気泡が筒上の水圧を下げます。それにより一気に外に吹き出すのです。これが間欠泉の仕組みです。(諸説あります)これぞ大地の不思議です。更に吹き出したあとは水位も下がり筒上の中の温度も一気に下がります。ここで気圧が下がるのでここに通じた脇の穴へと空気が流れ込んでいく。その時に笛の役目をしたここの小さな横の穴が音を出し、まるでドラゴンの咆哮の様に聞こえたのだと思われます。偶然にも落石で穴に石が落ちて、その形状から笛のようになったのなら、この穴を塞げば、もうあの音はなくなるでしょう」
※ 時間がない方はここから先をお読み下さい。
読んで頂いた方は、私の拙い説明を最後まで読んで頂き誠にありがとうございます。
あー、気持ちが冷静になりましたわ。
「なるほど、間欠泉と繋がっているこの穴が、笛のように鳴っていたのが、ドラゴンの咆哮のように聞こえていたのだな」
ハルさんは私の説明はしっかり聞いて返事をしてくれました。
これで解決です。
「これを村の人に説明をするれば、安心してあの村に住んでもらえるはずです。しかし、これだけ大きな間欠泉ならば、観光地になりそうですね」
前世の観光スポットに、温泉旅館を想像します。
ああ、ゆっくりと温泉に浸かりたくなりました。
温泉上がりにコーヒー牛乳を飲んで、卓球をして・・・卓球出来ないですけど・・・
運動音痴な私は、卓球の小さなピンポン玉が打ち返せず、体育の授業では相手の生徒に哀れみに近い瞳を向けられていたのだった。
「今、何を考えているの。誰かを思い出していた?」
再び、ハルさんの顔が目の前で
複雑そうな顔をして眉根を寄せている。
「何も考えて・・・そうだ!!いい考えを思いつきました。この間欠泉を『|dragon geyser』と名付けて村か間欠泉までの道を整備して観光名所にするんです。それと温泉を引けたらいいのでが・・・」
「dragon geyser・・ドラゴンの間欠泉と言う意味か・・観光地にするのだね。いい考えだ」
「ドラゴン温泉とか作って、露天風呂があれば・・・最高ですね。入りたいな・・露天風呂」
私は前世の旅館の露天風呂を思い出していたんです。
それなのに、なぜかハルさんの露天風呂が私の想像するお風呂の形式とは違ったのか、急に慌てだした。
「ダメだよ。露天風呂なんて・・ルーナが露天風呂になんて、絶対に賛成できない!! いや、俺と二人なら許せる・・・? でも、他の奴らに見られる可能性がある。やはりダメだ!!」
どんなお風呂を描いているのでしょうか?
「・・・あの、今ハルさんが思い描いてる露天風呂とは、どのようなものを想像しているのでしょう?」
「青空の下、開放的になった男女がみんなでお風呂に入るんだよね? あの羨まし・・あの混浴の事だよね?」
ハルさん、ちょっと羨ましいって言いました?
こんなイケメン青年も混浴はしたいのか・・・。
確かに、そういう露天風呂もあります。でも、私が考えているものと違います。
「ええっと・・・私が言っているのは青空の下はそうですが、きちんと女風呂と男風呂が分かれていて、囲いもあり、脱衣所も全て別ですよ。混浴ではありません!」
ここは必死になって全否定をさせて頂くと、ハルさんの元気がなくなりました。
「ああ、・・・そうだよね・・」
哀愁漂う返事に、私は・・・正直引ましたわ。
そんなに混浴したかったのかな?
ハルさんはそんな事に興味がないと思っていたけど・・・男の子だったのね。
「でも、ここが観光地になるには、王都からの道の整備に、途中の無法地帯を安心に通行できるように治安の回復が大事ですわ」
「ああそうだね・・・・」
ハルさんてば、全くのやる気のなさで、心ここに在らずになっています。
少々、間欠泉の説明が長くなってしまいました。次回からは二人の話に戻りますね。




