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12 お会いした王子様はやはり怖かった


謁見の間でお会いするのかと思っていたら、皇帝陛下が身近な貴族と会うための、小さめのレセプションルームに通された。


と言っても70㎡で、日本人の感覚だとかなり広いです。


ここで、騎士の皆さんが扉の前で警備をするために立ち止まった。

「マイヤー公爵家のアルルーナ様、どうぞ陛下がいらっしゃるまで、こちらでお待ち下さい」


扉の中に私一人が入るの?

あれ? パウラは? と思ったがなんと推しがいる扉の外でポヤーと立っている。


そのまま、ゴウラさんが無情にも扉を閉めてしまったので、私一人この広い部屋に閉じ込められた。


床には絵画のような美しいふかふかの絨毯が敷いてあり、じっと見つめていた。


一面のお花畑に、遠くに白い城が聳え立っている。そんな絵柄の絨毯を踏んで歩いてもいいのかしら?

部屋の真ん中に、長い8人掛けのテーブルがある。そこまでふかふかの絨毯を堪能しながら歩く。


絨毯に気を取られていてはいけないわ。

一人でもとにかく、陛下のお話をきちんと聞いて、しっかりとこの任務を果たさなくては・・・


気を張り詰めていたせいで、皇帝陛下が入ってきた音だけで、飛び上がってしまった。


「ああ、驚かせてしまったね。そんなに固くならずに、座っておくれ」


陛下の優しい声にほっとして、声が出ない事を忘れてご挨拶をしてしまう。


「ごおデーいヴぇいがにおがれマジで・・・ゴホゴホ・・ゴホゴホ」


無理に声を出して、咳き込んでしまう。


「あーよいよい。マクソンスから聞いている。風邪で喉を痛めたらしいな。無理に喋らんでも良い。その代わり、私の質問に頷くか首を振るかで答えてほしい」


もしかして、この喉のお陰で会話というものをしなくて済むのではないでしょうか!


昨日頑張った甲斐がありました。


少し安堵したかけたが、こんな状態の私を呼び出す程、尋ねたい事とはなんでしょうか?

何を訊かれるのでしょうか?

もしかして、スパイ容疑?

私って一体何をしでかしたんでしょう・・・・


不安の中待っていると、陛下の質問は意外なものでした。


「社交界に出てこないが、やはり未だ沢山の人がいるところは苦手なのかい?」


苦手を通り越して怖いです。

私は頷いた。


「そうか・・・。少しずつ訓練をしないといけないな」


陛下が今仰った訓練とは?

私が社交界が苦手で、てんで役に立たないから、エディーお兄様が我が公爵家を継いで下さったのですよね?


つまり私は、このまま家に閉じ籠ってても良いのでは?


困惑する私に更に回答に窮する質問がされました。


「ところでラインハルトの事はどう思う?」


えーっと、どういう質問ですか?

昔、お茶会に来られたそうですが、その後お会いしていないので、返事を出来かねます・・・ですが成績優秀で素晴らしいお方と聞いております・・・



これを首を振るだけで、どうやってお伝えすればよいのでしょう?


真剣に悩んでいると、私の苦悶の表情に察してくれた陛下が質問を簡単にして下さった。


「では、聞き方を変えよう。ラインハルトの事は、好きか?」


首を振ると、『嫌い』って事ですよね。そんな恐ろしい事は出来ません。


頷きました。


でも、この質問って全ての人が頷くと思うんですが・・・


「そうか、やっぱりそうか。良かった。こう言うのも親バカなのだが、なかなかの面構えだと思っている。それに、あれは努力家だ。アルルーナもラインハルトの事をそのように思ってくれているとは・・・良かった」


もう、全く話が見えません。

私はラインハルト皇太子殿下の事をどう思っているのですか?


自分の事なのに、さっぱり分かりません。


でも、陛下は嬉しそうに微笑むと何か思い付いたように、「おお、それならば」と一人で納得し頷いておられます。


「今、丁度ラインハルトは自室にいる。次の視察の事で頭を悩ませておってな。一人では気が休まらぬ視察もアルルーナと一緒なら良い案が浮かぶやも知れぬ。アルルーナも2ヵ月後に15歳になるんだったな。15歳になったらすぐに、その視察に同行してやってくれないか?」


引きこもりの私に視察とは、過酷です。しかも、こんな私と皇太子殿下が一緒に行きたいなんて言うはずがありません。


首を横に振ろうとした。


「トルーエン地方なのだが・・」


陛下の言葉に、私は横に振る首を縦に振ってしまった。

トルーエン地方とは、帝国図書館長のカミルさんが村を作る場所を考えていた地方だ。


あの魅力的な土地の形・・・


地学オタクの私は誘惑に勝てなかったです・・。


「そうか、行ってくれるか? ラインハルトも喜ぶだろう。今自室にいる筈だ。アルルーナが伝えに行ってくれるか?」


あんまりにも陛下が、優しいお父さんの顔で微笑むので、ついつい頷いた。


会ったことのない私が、視察についていくと報告しても、皇太子殿下がお喜びになるとは思えない。

寧ろ困惑されるだけではないですか?


でも、陛下にレセプションルームから手を振って送り出されたからには仕方ない・・・。



護衛の騎士が先導してくれるので・・・逃げられもしない・・

知らない人に会うのも苦手なのに、その相手が皇太子殿下なんて、辛い。


無理です・・・


宮殿の中庭を横目で見ながら、足取り重ーく進んでいると、先頭の騎士が急に立ち止まる。


あれ?

どうしたのかな?


「これはラインハルト皇太子殿下、丁度今からマイヤー公爵令嬢のアルルーナ様をお連れしようと案内していたところです」


え?

今、皇太子殿下がそこにいらっしゃるの?


私は深く頭を下げて畏まる。


「ああ? アルルーナ嬢を?」


ラインハルト皇太子殿下の低ーいお声は、なんでそんなのを連れて来るんだ?と非難めいたお声です。


私もなぜか分からず、連れて来られているんです。

だから、そんな不満そうな声を出さないで下さい。


泣きそうになります。


涙と一緒に咳が出てしまいました。


「ゴホゴホッ・・ゴホッ」


慌ててハンカチで顔を覆いました。大事な皇太子殿下に風邪をうつしたとあっては、一大事ですもの。


「ああ、風邪を引いているのか? それなのにわざわざこんなところまできて、何を考えているんだか・・で、大丈夫なのか?」


どうやら、陛下に風邪なのに殿下に会いたいとわがままを言ったと勘違いされているようで、皇太子殿下の声は先ほどから、地の底から出ているくらい低くて威圧されます。


一応ご心配いただいたので、お返事をしないといけません。


「ばい、だいじょぉぶでぇず」


畏まったまま、下を向いてかすれかすれの声ですが言えました。


「酷い声だな。もう無理せず帰れ」

皇太子殿下の冷たすぎる声に、私のメンタルは、声以上にボロボロです。


ハンカチで顔を押さえたまま、一礼をして帰ろうとする後ろで、皇太子殿下が一言優しい言葉をかけてくれました。


「体をいとえ」


あれ?

このお声はどこかで聞いた気がするんですが・・・思い出せません。

頭のなかで何度か再生してみましたが、どなたの声だったかすっかり忘れました。


よく似た声の人なんていっぱいいますし・・

ものまねタレントさんなんか、何人もの声を出せますものね。


私は、深くお辞儀をして顔を上げると、既に皇太子殿下は背中を向けて、歩き出しておられました。


はー・・・

恐ろしかったです。


あんなに冷たい態度をされて、泣き出さなかった私を誰か褒めて下さい。


シュンとしていると、パウラが私に寄り添ってくれます。


さっきまで騎士団の推しの人たちに囲まれて有頂天だったのに、さすがに落ち込んでいる私を見て、いつものパウラに戻ってくれたようです。


「お嬢様、よく泣かずに耐えました」

うんうん。パウラが珍しく慰めてくれたのが嬉しい。ちょっとほっとしたら涙がこぼれたよ。


騎士団の皆さんも、パウラと一緒になって慰めてくれます。


「今日の殿下は、ちょっとおかしかったな。いつもはあんなんじゃないんですよ」


「うっっ・・」

騎士団長さん、今のは余計に悲しくなる情報です。


「それじゃあ、いつもは優しいけれど、アルルーナお嬢様にだけ厳しかったみたいじゃないですか」


パウラが私の気持ちを読み取って、抗議してくれました。


「ああ、すみません。団長の言い方が悪いですよ! アルルーナ様もそんな悲しそうな顔をしないで下さい。言い方が悪かったですよね。殿下は今、ちょっと厄介な仕事を任されているんですが、それが順調に行ってなくてイライラしていたんだと思います」


さすが若き剣心、ミュラホーク様です。女心をよく知っているのでしょう。優しい言葉選びです。


皆さんのお陰でちょこっと元気になりました。


「お嬢様、帰ったら私が腕によりをかけた美味しいスウィーツを作って差し上げますわ」


パウラの一言で、すっかり元気になりました。


うんうんと高速で頷きます。


「ふふふ、アルルーナお嬢様の元気の源は、パウラさんのお菓子なんですね」


ミュラホークさんが笑うと、他の騎士さんも声を出して笑った。

気落ちしていた私も釣られて、一緒に笑顔になりました。


騎士の皆さんありがとう。

ペコリとお辞儀をすると、辺り一角がほんわかとする空気感に包まれました。


ああ、そうだ!

皇太子殿下に、用件をお伝え出来なかったわ。

後で、お父様に連絡をしてもらいましょう。今もう一度、皇太子殿下にお会いしに行けば、今度は全身が凍りつくと思います。



◇□ ◇□ ◇□

その頃・・・。


宰相のテーゼが、がっかりしている。

「えー? では陛下は皇太子殿下のお部屋にアルルーナ・マイヤー様を会いに行かせたんですか?」


「そうだ、愛し合っている二人を、一緒に視察に行かせたら喜ぶだろうと思ってね。それをアルルーナ嬢に伝えにいってもらったのだよ」


自分が愛のキューピッドになったようで、気分がいい上機嫌な皇帝陛下。


それに反してテーゼは、身分違いの恋に苦しむ皇太子を、もう少し見ていたかったと悔やんでいる。


「そうですか・・・二人は出会いましたか・・・。」


楽しみが奪われたテーゼが、がっかりと肩を落として陛下の御前を辞すると、とぼとぼと廊下を行く。


(出会ったなら、『ハル』がラインハルト様で、『ルーナ』がアルルーナ嬢だとわかっただろう。もう少し楽しみたかった・・・残念だ)


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