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つまづきの学校 

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 先輩は何もないところで、つまづいた経験はありますか?

 実際のところ、見た目に分かりづらいだけで、何かに引っかかっていることありますよね。

 特に足の裏事情です。バナナの皮ですってん、なんて定番のギャグじゃなくても、自分が思っていたよりも滑るとか、逆にグリップが良すぎると感覚が狂います。

 うっかり踏ん張りがきかないと、そのまま体も持っていかれてこけてしまう……そんなところじゃないかと思うんです。


 足裏はかなり大事に扱われることが多いですよね。身体のツボが集中している場所のひとつということもあり、そこを刺激するグッズなどは現代でも数多いです。

 どうして鋭敏であることが求められがちなのでしょう?

 私の体験したことなんですけれど、聞いてみませんか?



 前に、学校で合唱のコンクールを行うことになったときです。

クラスごとに体育館の舞台の上へあがるわけですが、私はそこでよく足を取られそうになりました。

 ほんのわずかなんですけれどね。足の裏が盛り上がったり、突き上げられるような感触がしたりするんですよ。

 転ぶこともあって、みんなに心配されましたね。ただ原因となるところをあらためて踏んでも特に違和感がなく、なかなか共感を持ってもらえずにいました。


 そのうち体育館に限らず、校内のいろいろなところで同じような目に遭うようになっていきます。

 グラウンド、廊下、教室内……いざ突っかかると心臓に悪いし、いつ来るか分からないのも、ストレスが溜まるものです。

 こうなると、走る時なんか気が気じゃありません。体育の短距離走なんかおっかなびっくりな駆け方になって、ますますみんなからの笑いの的ですね。

 

 

 それによって、とうとう先生方も見かねたのでしょうか。

 放課後、私は生徒指導室へ呼び出されます。何か悪いことしたかなと、えらくこわばってしまう私ですが、先生たちは体育の時の走りについて言及してきました。

 拍子抜けしたぶん、ぺらぺらと口が軽くなる私ですが、先生たちはそれ以外にも、足に異状を感知したところはないか、尋ねてきたんです。

 促されるまま、報告していく私に、脇にいる先生たちは何やら小声で相談し始めてしまいます。「やっぱ、変なことを口走ったかなあ」と、少し後悔し始める私でしたが、やがて先生たちが出した結論は、これまで通りに学校生活を送ってほしいとのこと。

 ただ、足元に不安を覚える時には、先生に報告してほしいとも頼まれます。あまり他の生徒に公にしたくないのか、生徒指導室に引っ張り込まれたうえで、です。

 まあ、私は現金なものです。指導室で報告するときにはペットボトルのジュースが出されますからね。それをタダでいただけるとなれば、おのずと力が入っちゃいました。


 でも、うその報告をでっちあげることはできません。

 どうも先生方は、私の話を聞いた直後から、そのポイントを定期的に見張るみたいでして。移動教室の時などに、私からじかに話を聞いていない先生などが、件の地点で足をトントンさせて探るしぐさを見せているんです。

 うかつなことをいったら、吊るされると感じましたね。その分、本来は必要な部分まで学校を練り歩き、異常のありそうなところへ足を運んだりもしましたが。



 そして、それに遭ったのは一カ月ほど後でしたか。

 学校の体育館裏手には、やや年季の入ったバスケットゴールが向かい合って並んでいるんです。別にバスケ部の練習用というわけじゃなく、全校生徒が使うことができます。

 しかし、目立たないところにあるせいか、誰もいないことも多いです。私が休み時間に調査がてら訪れたときも、誰もいませんでしたね。

 しかし、ゴールに挟まれた中央部分に立った時、私はつい足をとめてしまいます。


 鼓動。

 靴裏のゴムを通じ、感じるのはそれでした。両足を地面に乗せ、気をつけの姿勢を取ります。

 どくん、どくん……。

 私の胸からじゃないです。じっと見下ろす私の身体ごと、突き上げては下ろす、小さな盛り上がりがそこにありました。

 手で触っても分かりません。足でないと、これを感じないんです。しかも回数を重ねるごとにここは熱を帯びてきているようで……。


 ダン、と背後で大きい音がしたのは、その時です。

 びくっと肩をすくめて振り返ると、ゴールのバックボードが落ちていたんです。

 地面でひとはね。カゴのついた方を上に向け、しばらく震えを止めませんでした。私の立つところより、わずか数十センチの後ろ。少しずれていれば、私の頭に当たっていたと思います。

 そそくさと、その場を後にしようとして、私はにわかにグラウンドが騒がしくなるのを聞きましたね。

 駆けつけてみると、グラウンドにいたみんなが、地面に転がった時計とがれきの塊を取り巻いていました。

 校舎に掲げていた時計が、取れて落ちたんですよ。周りの壁材と一緒に、ここまでね。



 私の報告の直後、時計たちの処理に合わせて、バスケットゴールあたりにも先生たちが集まりました。

 遊牧民のゲルを思わせるテントが、私が違和感を覚えたあたりに設置されましてね。まるで手術でも始めるかのような、道具たちが持ち込まれていったんです。

 私は帰るように促されてしまって、その日は以降を知りません。

 ただ翌日に、体育館が使用禁止にされてしまったんですね。ゴール付近を含め、そこに面する体育館の壁面が、半分ほど崩れておりまして。しかも、その割れ目のふちあたりは、黒い焦げ目がくっついていましたし。


 先生方は不審者のしわざと思しいと話していましたが、私にはあの足下の異常が原因だと教えてくれました。

 人間でいうところの「血管の詰まり」みたいだったらしく。早く処置できなければ、学校全体がひどいことになっていただろうと。

 それから卒業するまで、この役目を私は仰せつかっていたんです。

 学校の健康を診られる子供は、だいぶ限られているそうで。

 

 


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― 新着の感想 ―
[一言] 割とこういうこっそりとしたお役目には、特別感や使命感みたいなものを感じてちょっと惹かれるものがあります。老朽化にともなう現象がこういうふうに現れるのはなるほどなと思わされて、とても面白かった…
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