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5話 期待の派遣新人と不穏な遭遇

久々更新です。


 午前の仕事を終え、ロッカーへ戻ったところで壊れた櫛と目が合った。


 ちらっと視線を向けると朝と変わらない状態で立っている。

 壊れた櫛は後で捨てることにして、財布と共に部屋を出た。

「昼は……コンビニでいいか」

 欠伸を一つ零し、会社近くのコンビニで目当てのご飯を購入。何気なく店内を見ていると上品な印象の櫛があったので試しに買ってみる。

 最近の企業努力は素晴らしく『ついで』で買える値段だ。

 ガサガサとビニール袋がこすれる音を聞きながら、自身のロッカーがある部屋のドアを開けた。

「まだいる。……ほれ。新しいの。帰る時間まで残ってたら私が櫛を使うからね」

 もう一度足元に櫛を置いて、その場を去る。

 他の人が見たら忘れものだと思うだろう。

 実際、聞かれたらそう答えるつもりだったし、問題はない。

 デスクで簡単な仕事をしながら昼食を口にしていると雁来が真面目に仕事をしていることに気づく。

 どうやら今日は調子がいいらしく、いつもの倍働いているようだ。

 邪魔をしないという建前で、彼から見えない位置を探していると衝立の奥からひょいっとパートの村田さんが顔をのぞかせ、手招きしてくれた。

「あら、これからお昼? 良ければ一緒に食べない?」

「ええ、是非。一人で食べるのが少し寂しくて、ご一緒させてください」

 うちの部署にいるパートさんは年齢がバラバラだけれど仲が良い。

 仕事も、元社員だった人も多いので急な欠勤・早退が出てもある程度の穴埋めをしてくれる貴重な戦力だ。課長は昔から嫌われているから、パートさんの恩恵にあずかっていないけれど。

「新作のコラボ弁当じゃない。これ、今人気で買えないんですって。ほら、オマケのクリップが可愛いって若いこの間で流行ってるとか……娘も好きで晩ご飯は「お弁当がいい」っていうのよ。全く、余ったの食べるのは私なのに」

 ブツブツといいながらも話しやすい様に話題を振ってくれた村田さんに感謝しつつ、お礼にオマケ入りの袋を渡す。最初は断っていたけれど、捨てるだけだといえば受け取ってくれた。

「ねだるような物言いになってごめんなさいね。あ、そうそう。補充の人員って、本社から来るみたい。最初に決まっていた人じゃないって、人事が慌ててたわ。本当に急きょ決まったみたいね」

「……え。そんなに急に来る人を変えられるんですね」

「聞いた話だと訳アリみたい。家庭の事情でここじゃなきゃ駄目だとか」

 これには周りのパートさんも驚いていた。

 村田さんは、お手洗いに行った時たまたま人事にいる幼馴染さんと会ったのだという。

「花車さんの横に机を置くって話だから、驚かないようにね。後三十分もすれば男連中が席替えをするって言っていたわ。まとめて机の配置も替えるそうよ」

 驚いていると新人教育に力を入れたいという事で少人数ごとに机を分けるのだという。今のような横並びではなく、だ。

 内心、面倒だなと思っていると机の移動などは男手にたよるのだとか。

「なるほど、ありがとうございます。今話を聞かなかったら、驚いてました」

「そうよねぇ。指導は花車さんと雁来君に頼むって話しているのを聞いたから、今持ってる業務で雑務関係は私達に振ってね。私達ちょっと余裕があるのよ。新人が育つ頃には繁忙期だろうし、早く仕事を覚えてもらわなくちゃ」

 協力するわ、と話すパートの人達は全員頷いた。

 パートと言っても勤続年数が長いのもあってかなり心強い。ありがたいと頭を下げて、余分に買ってきたお菓子を渡せば「気にしなくていいのに。ああ、これ美味しかったから食べてみて」とお菓子交換会になった。うちの部署は全体的にほのぼのした癒し系が多い。

 課長とその取り巻き以外。

 有難く貰ったパウンドケーキを鞄に入れた所で、別部署から男性社員がぞろぞろと入ってきた。軽く会釈をして、その場にいた人間で移動を手伝う。

「……はぁ、つかれた」

 いつの間にかいなくなっていた雁来を恨めしく思いつつ、自身の席へ。

 貰ったパウンドケーキを開封し一口齧る。美味しい。

 コンビニのお茶を飲みつつ、パソコンを立ち上げた。

 すると、私宛の社内メールが二通。一つは課長から。私に教育係兼指導係を任せるという話が書かれていてウンザリ。報告が遅い。

 舌打ちをしたタイミングで戻ってきた雁来の肩があびくりと跳ねる。

「業務内容について連絡が来ているからチェックしておいて」

「は、はい……指導、がかり?」

 うわ、と口元を筋張った綺麗な手で覆う。

 青ざめた雁来は、ハッと何かを思い出したかのようにキーボードをたたき始めたので私は残り少ない休み時間を堪能することに。

 オヤツまでしっかり食べた私が仕事をすべく姿勢を正したタイミングで、付箋がぬっとキーボードに置かれる。

 雁来からだった。

 隣にいるんだから口頭で伝えなさいよね、と文句を言いかけて視線が付箋に縫い留められる。そこには、場所と時間が箇条書きで書かれていた。

「……近づかない、こと?」

 最後の一文を思わず口にすれば隣から静かな声。

 ちらりと視線を向けると雁来はパソコン画面を見ながら、淡々と言葉を紡ぐ。

 囁くような声はきっと私にしか聞こえていないだろう。

 私と雁来の周りが切り取られたように妙な緊張感を帯びていた。

「守ってください。上の三つは特に危ない場所ですから、その時間帯は絶対に近づかないように……性質が悪いものがいます」

 理解が追い付かずに凝視する私を雁来はチラリと私を見た。

 切れ長の瞳はただ静かで普段のようなおちゃらけた雰囲気はどこにもない。

 まるで別人だな、と何処かで思いつつ真面目にパソコン画面を見つめ、付箋を財布の中へ。幽霊とやらの事はよくわからないけれど、塩や消臭剤は持っておこうと思う。

「りょーかい。とりあえず、気を付けておくわ」

 付箋に『女子更衣室』の文字があったような気がするけれど、確認はしなかった。

 短いやり取りの後はひたすら積み上がった仕事を消化。

 課長が誰かを伴って全員の注目を集めたのは三時を少し回った時刻。

 正直、めんどくさい。

 うんざりしつつもそれを顔に出さないよう努力して私たちは視線を中央のデスクへ。

そこには二人の男女がいた。

 女性は小動物のような雰囲気を持つ清楚系、男性は好青年の見本のような顔をした人。

 彼らは『優秀』な人材で、色々な仕事を覚えてもらう為に研修に来ているのだと課長は語った。そして最後に私を呼ぶ。

「花車くん、彼をよろしく頼むよ。数年後には本社へ戻る予定だからね」

「……わかりました」

 偉そうな課長に頭を軽く下げると彼は満足したらしく、女性だけを連れて退室した。

 残されたのは配属されたばかりの新しい人。

 彼は自分に注がれる視線に苦笑しながら朗らかに自己紹介をし始めた。

「本社から今日付けで転属してきた音霧おとぎり 桃志とうしです。突然の移動でご迷惑おかけするかもしれませんが精一杯努めますので、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願い致します。実は私も昨日聞き、慌てて移動をしてきた次第で……」

 家庭の事情は?と思わず顔に出たのが分かったらしい。

 彼は苦笑しながら、申し訳なさそうに地震の予定について話していく。

「明日は出勤しますが、引っ越しもまだなので来週月曜はお休みさせて頂きます。荷物を受け取らないといけなくて」

 ははは、と参ったなというように眉尻を下げる彼に全員が同情したのは言うまでもない。

 きょろきょろと室内を見回しているので、私は自分の隣の席へ手のひらを向けた。

「音霧さんのデスクは私の横になります。私が不在時は私の隣にいる雁来さんに聞いて下さいね」

「わかりました。早速で申し訳ないのですが、仕事内容の照らし合わせをお願いします」

「そうですね、早めに済ませてしまいましょうか。私は花車 蜜柑と言います」

 頭を下げて、隣に座った彼の仕事内容一覧を見せてもらう。

 ほとんど説明できるので問題なし。営業というわけでもないので、外回りなんかもなく書類作成やプレゼン内容、企画立案などそういったことをまとめる為に必要な力量は今後見ていくことになるだろう。

「花車さん、でいいでしょうか?」

「ええ。私は音霧さんとお呼びしますね、まずはこちらの仕様ですが……」

 悪くない滑り出し。私の説明にも熱心に耳を傾けて、最後にまとめて分からないところを聞いてくる姿勢も好感が持てた。これは仕事ができるタイプだわ、と。

 あらかたパソコンソフトの仕様なども伝えた所で、音霧さんが爽やかに微笑む。

「堅苦しい話し方じゃなくて大丈夫なので、色々教えてください」

「それは助かるわね。音霧さんも楽にして。分からないことがあれば、遠慮なく聞いて頂戴ね。ああ、ランチは近くにコンビニもあるし、お店も何カ所かあるから後でお店の名前を書いて渡すわ」

 社食もいいけど、定食はすぐに売り切れるとマメ知識を教えておく。

 業務内容を一通り伝えた所だったので、軽い雑談をしていたのだけれど課長がドアのあ辺りで音霧君を呼んでいた。

「あ……行ってきます。帰って来たらまた教えてください」

「はい、いってらっしゃい。面倒になったら適当によいしょしておけば、少し早く解放されるわよ」

「参考になります」

 一礼して課長の元へ向かった音霧君にちょっと同情しつつ、椅子に座り直した。

 入力作業を開始した私に隣から鋭く、低い声。

「……花車さん。あいつには気を付けて下さい」

「気を付けてって、普通に仕事できる新人じゃん」

「僕がいつでも貴女の側にいられるわけじゃないんですから、自衛して下さい」

 妙に真剣なその声に思わず意識が吸い寄せられた。

 眼鏡の奥にある切れ長の目が真剣に私をみている。その奥にあるのは畏れ、だろうか。

 妙な迫力を纏った雁来についにいかれたのかと結論を出した。

「いや、雁来に助けられたこと一度もないけど。助けたことなら数えきれないほどある」

「花車さんはどうして僕に優しくないんですか! あんなちょっと見た目が爽やか系陽キャってだけで!この浮気者っ!」

「評判の精神科、あとでリストアップしてあげるわ。感謝なさい」

 はんっと鼻で笑えば、普段通りの雰囲気に戻った。

 まぁ、その頭に『表面上は』とつくけれど。

 その後仕事をして、結局戻ってこなかった音霧君に軽く合掌。

「じゃ、私先に帰るわ。雁来、もし音霧君が戻ってきたら私が帰ったこと伝えて──あ。メール確認忘れてた。もう一通来てたっけ」

 珍しくうっかり忘れていて、パソコンを起動した所で手首を摑まれた。

「っ、そのメール、間違いメールだったって……一斉送信でうっかり送ったものだから見ないで削除してくれってあったので僕がやっておきます」

「そう? じゃあ、お願い。今日は合コンがあるから急ぐのよ」

 お願いね、と一言告げて足早に離れる。

 背後で雁来の悲鳴じみた声が聞こえてきたけれど、スルー。

 結婚に興味がないわけじゃないので。

 ロッカー前で花梨と合流し、話をしながら化粧を直す。服はこのままだ。仕方がない。

「……なくなってる」

「え? 何か落としたの?」

「ううん、何でもない。それよりさー……」

 花梨と話をしながら、置いた櫛が消えていることに気づいた。

 誰かが片付けたのだろうと納得して、私は会社を後にする。

 何も変わらない、少し見える『もの』が増えただけ。 


 雁来の見ている世界は、私が今まで見てきたものとは全く異なることを、この時はまだ知らない。

 だから、じっとりと私にまとわりつく重たい視線にも気づかなかった。


 ちょっと書き方が変わっているような、いないような。

 しんぷる~にサクッと書いていきます!さくっ!

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