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4話 こんにちは、新しい日常。出口はあちらです

書いたっきりで忘れていたので投稿します。


 雁来の部屋で幽霊とかいう存在に遭遇した後でも仕事はやってくる。


くあ、と欠伸をして自分がベッドに寝ていることに少し驚いた。本来寝る予定だった場所には雁来が横になっていたので、私が寝落ちした後に移動したのだろう。

何とも言えない気持ちになりつつシャワーを借りることに。軽く汗を流して体を拭き、畳んだタオルは仕事の後コインランドリーにでも行こうと思った。新しいのを買って返してもいい。

脱衣所を出ると、髪がぼさぼさの雁来がウキウキしながら見慣れない四角い炭をもって照れ臭そうに笑っている。

「おはようございます、花車さん。あの、朝食を用意しました」

「それは『てめぇで食えよ朝っぱらから勝手に部屋うろつきやがって』ってことで朝食は炭なのね? どんな嫌がらせだよこの野郎」

「ええ!? ひ、ひどい。ぼ、僕一生懸命作ったんですよ!」

「炭を?」

「ち、ちょっと失敗しただけです。………ぼ、母性本能とか刺激されました? ど、どうです? ドジっ子属性の男ってトキメクらしいんですけど」

 自分より明らかに恵まれた体格の男が頬を染めた所で、ただ気色悪いだけだとこの時初めて知った。いや、初めてでもないけど。

知的でクールなガワだけいてくれ、その余計な性格要らねぇんだわ。

なんて思いながら無言で荷物の元へ。

「私、帰りながら適当にご飯買うから要らないわ。シャワーありがとお邪魔しました二度ときませんついでに会社で話しかけないでね」

では、とにっこり笑うと雁来はわざとらしく泣きながら、私の足に縋りつく。

粘りに粘られ、仕方なく『駅まで送る』という所業を許すことに。

この状況、会社の人間に見つかったらすっごく厄介じゃない? できれば本気で遠慮したいんだよね。

 雁来の家をでて、すぐに気づいたのは異変。

「………朝なのに随分人が多いのね。働き者だわ」

「いやいやいや。半分以上が、その、死んでるので」

「え、あんたもこれ見えてるの?」

「僕の場合はこれが日常なので」

 愛想笑いとともに添えられたやるせなさをにじませた姿に、少しだけ苛立つ。

いつもしつこくて、うっとおしい位に絡んでくるこの男らしからぬ反応なのだ。

逝きましょう、と疲れた顔で足を踏み出したので私は思わずその場で腕を組んで睨みつける。

 彼は数歩進んで、私が付いてこないことに気づいたらしく、不思議そうに振り返ってギョッと目を見開いた。

「カフェに行くわよ」

「え?」

「案内して。あと、見分け方はあれよね、生きてる人間とは違って、怪我をしてたり、季節にそぐわない服装だったりするのが死んでるってことでいいのよね?」

 カフェに入る前に、制汗剤とファブリーズと塩を買った。

友達が家にホラーDVDを持ち込んで怖いから、とファブリーズと塩を抱えてたから覚えていたので、制汗剤も似たようなものだろうと思って買ってみた。狂暴そうなやつが出た時の為の対策としてもばっちり。塩を握ったままぶん殴れば最悪どうにでもなりそうだし。

 案内されたカフェの中にも死んだ人間はいた。

まぁ、こっちに寄ってくるわけでもないし問題なしと判断し、メニューを開く。

「んー。スフレパンケーキにするわ。あとは、そうね、カフェオレで。多分足りないからサンドイッチも頼むけど、雁来は?」

「ぼ、僕ですか? え、ええと……ブラックコーヒーとモーニングで」

「宿泊代として奢るわ」

 オロオロと視線を泳がせているのをスルーして注文を済ませると、雁来は周囲を警戒しつつ声を潜めた。

その顔色はあまりよくない。

「き、気にならないんですか? 視えてる、んですよね」

「トイレの横にいるのと、窓際のカウンターにも居るくらいでしょ。こっちに来ないんだから放っておけばいいんじゃない。それより、使ったタオルはコインランドリーで洗濯乾燥済ませて返すのと、新しいのかって返すのとどっちがいいか三秒で決めて。私としてはどっちでもいいんだけど、面倒だし買って返すわ」

「ええ! そんな勿体ない……花車さんが全身を拭いたタオルはそのまま返していただければ僕が適切に処理を」

「表現がいちいち気持ち悪いわ色ボケ男」

 はんっ!と思い切り却下してやれば肩を落としながらチラチラとバスタオル入りのビニール袋を見ている。うっかり鳥肌が立った。

 ささっと食事を済ませ、カフェオレとサンドイッチが美味しかったのでテイクアウト。颯爽と店を出た私の後ろを雁来が慌てながらもしっかりついてくる。無駄に脚が長いから歩幅の関係で距離をつめてくるのだ。腹が立つ。

 ただ、私が傍にいるからか普段通りではあるけれど、幽霊が近くにいる時などは顔色が悪くなるのでとても分かりやすかった。

あと、私には生きているのか死んでいるのか判断できないやつもいるらしい。涙目で教えられたけれど「ふぅん」程度で聞き流しておく。

 神社でお守りとか買ったらいいんだろうか、なんて考えつつ出社。

 同期が私と雁来が一緒に出社してきたことに勘づき、ワクワクしながら更衣室で怒涛の質問をぶつけてきたけれど、隠すことは一切なかったので返事を返した。

「なぁんだ。雁来くん、ついに蜜柑をゲットしたのかと思ったのに」

「んな訳ないでしょ。私職場で恋人や彼氏は作らないって決めてるの。前にいた会社で面倒なことになってた子を何人も見てるし、人様のゴシップにまるで興味ないし」

「ドライ通り越して乾燥してるわよね。ま、そこが蜜柑らしいんだけど。あ、そういえば今日合コンするんだけど、蜜柑はどうする?」

 会社に常に二種類着替えを置いているのは、仕事が終わらなくなった場合に着替えるためだ。繁忙期は突然やってくるので、ここに努めて一年もすればこうやって『備え』ておく人が多い。私は独身で家に帰っても特にすることがないので、家庭を持つ人の仕事を積極的に引き受けているから一着多く置いてあるのだ。

 お陰で好感度は割と高くて、ちょっとしたお土産やお菓子を個別に貰ったり、こちらの用事があった時はスムーズにそして一日多く休みをくれたりするのだ。

「今日の合コンってどんな感じの人達?」

「えーと色々かなぁ。ほら、C社と業務提携結んで三年たつでしょ? この間、蜜柑は用事があってこれなかったけど私、同じ歳くらいの人達と仲良くなって合コン企画したのよね。色んな部署の人を誘ってみるって言っていたから結構な人数になるわよ」

 完全に独身者限定で年齢も私たちの年齢±三歳に限定したのだという。

 似たような業種で会社の規模もほぼ同等。社長同士や役員同士がそれぞれ知人だったりと何かと接点が多いことが提携後に判明したとも聞く。

「ふぅん……店は?」

「お酒のおいしい所よ。蜜柑の好みって誠実な眼鏡男子だっけ?」

「そう! インテリでもいいけど、最近鍛えてる眼鏡男子もいいかなぁって思ってるのよね。オラオラ系は嫌。うっかり手と足と口がでそうになるもの」

「ほんっと眼鏡男子好きよねぇ……雁来君いいとおもうんだけどな。時々変なスイッチ入るけど、基本的に優秀でしょ? ずーっと蜜柑一筋って感じだし、年も一つ下だっけ?」

 そういえばあまり知らないなと思いながら口紅を引く。ロッカーに着いた鏡に一瞬、ボサボサの髪の女が映った。見覚えがないので多分幽霊だろう。爪が綺麗に手入れされているのに髪がぼさぼさだと台無しだなとふと思った。

「私先に行くわ。今日補充係なの」

「はーい。あ、合コン誘ってくれたお礼にあげる。カフェオレ好きでしょ」

「やーん、ありがと!」

 仲のいい里川 花梨にカフェオレを一つ渡せば嬉しそうに更衣室を後にした。私も社員証を付けたら終わりだったので首から社員証をかけ、ふと思い出しす。

「あんた、せっかく爪を綺麗にしてんだから髪くらい梳かしなよ。勿体ない。此処に置いておくから持って行きな。使い捨てので悪いけど」

 じゃあね、と彼女の足元へ使い捨ての櫛を置いて更衣室を後にする。

 そこそこお洒落に気を遣っていたことがわかったし、満足して消えてくれるといいなという気持ちが四割。あの位置にいると毎回私の鏡に映るので邪魔だなと思ったのが六割。

「おはようございます」

 いつも通り挨拶をして自分のデスクにつくとメモ付きのお菓子が置かれていた。

 ちらりと二つ横の席にいる花梨へ目を向けると器用にウインク一つ。

 茶目っ気のある所や気さくで誰とでも仲良くなれる世話焼き気質の花梨は、筋金入りのダメ男好きだ。私は彼女が「いい!」という男を信用しないと心に誓っているので、雁来は完全にアウト。

「お、おはようございます!」

 パッと表情を明るくさせた雁来はいそいそと私の隣に腰を下ろした。

 そう、隣の席に。

「席が違うでしょう、雁来さん。あちらの席にお戻りください」

「え。いや、でも新人が辞めたから、指導の関係で席を移動してくれと課長から……」

「……確認してくるわ」

 作業開始前で良かったと思いつつ、近くにいた課長へ確認すると頷いた。

 話によれば、雁来の席に補充臨時職員を移動させたいのだという。

 どういうことかと聞けば、既に代わりの人員が補充される手筈になっているとか。

「一切聞いていないのですが……」

「今日の朝会で話す予定だったからね。まぁ、宜しく頼むよ。彼とは同期で親しいだろう。お互い不足があれば協力をして成果を出してくれたまえ」

 話は終わりだというように強引に会話を打ち切った課長にイラッとしつつ、頭を下げて席に戻る。

 自身のデスクから持ってきたらしい様々なものを収納中の雁来が嬉しそうに私を見上げた。

「ということで、今日から宜しくお願いします」

「………ヨロシクオネガイシマス」

 ため息をついた所で始業開始のチャイムが鳴った。

 こうしてまた、一日が始まったのだけれど……今まで見えなかったものが見えるというのは少し、不便であることを私はこれから実感することになる。


タイトルをちょっと変えました!

こういう感じ大好き。

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