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おてんばお嬢と流れ剣客  作者: 柚月 ぱど
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1 用心棒バサラ 8

「バサラ! 助けに来てくれたのね!」

 サクは後ろ手に拘束されていたが、俺は連中が所持していたナイフを使って、縄をほどいてやる。

「ヨシノさんに頼み込まれてな。お前が誘拐されたままだと寝覚めも悪いし」

 軽口を叩きながらサクを起き上がらせてやる。

 彼女は喜びに満ち溢れたような表情をしていた。

「それじゃあ今後も……」

「いや、これは今回だけの約束だ。お前の用心棒になる話はまた別だ」

 そう返すと、サクは少し悲しそうな表情になった。

 ころころと表情が変わる彼女の悲しい顔はなんとなくみたくなかったが、仕方ない。

「とにかく、ここから出よう。長居も無用だ」

 そう言ってサクを促したが、返事がない。

 俺は不思議に思って彼女の方を見やるが、

 サクは苦しそうに胸を押さえてうずくまっていた。

「サク? どうした!」

 俺は近づいてサクに尋ねるが、彼女は苦しそうに呻いたままで何も返そうとはしない。

「おい、サク! 返事しろ!」

「――あぁ!」

 サクはいきなり顔を上げると、胸を掻きむしり始めた。

 それもかなり爪を立てて。

「やめろ! 何やってるんだ!」

 サクの腕を掴んで止めさせたが、それでも彼女は苦しそうに胸へ注意を向けている。

 俺はサクの腕を掴みながら、搔きむしっていた彼女の胸に視線を送る。

 すると、

「――!」

 サクの胸が淡く光り始めたのだった。

 俺はそれを見て、状況以上に衝撃を受けていた。

 胸の発光。

 それは、“あの少女”と一緒の現象。

 まさか、そんなことがあるのか。

 俺は一人、偶然にしてはできすぎている今の事態を噛み締めていた。

 この現象は、選ばれた者にしか起こらない。

 きっと彼女の中には、“卵”が眠っているのだろう。

 俺はその事実を悟って、自分の運命を呪った。

 これは因果だ。

 きっと、俺に対する当てつけなのだ。

 いや、違う。

 むしろ“彼女”が僕に、贖罪の機会を与えてくれたのかもしれない。

 俺はそのように解釈して、一人苦しそうにもがくサクの表情を見つめた。

 だから狙われていたのか。

 この子も、不運な少女の一人だったんだな。

 俺は胸の発光がじきに収まることを知っていたので、そのままサクを安心させるように、彼女の前髪を撫でた。

「ごめんよ、サク。俺、知らなかったんだ。お前がこんな理由で苦労してるなんて」

 すると、少しずつ胸の発光が収まり始める。

 それと同時に、サクの呼吸音も安定していく。

「わかったよ、サク」

 俺は彼女の手のひらを握りしめて、

「俺も、一緒に戦うよ」

 そのように、内なる決意をはっきりと告げた。


 サイレンが鳴っていた。

 それは言うまでもなくパトカーのものであって。

 俺は拘束されていたサクを連れて、到着した警察とヨシノさんたちと合流していた。

「サクお嬢様!」

「ヨシノ! 心配かけたわね!」

 ヨシノは目尻に涙を浮かべていて、駆け寄っていったサクを抱き締めた。

 俺はその様子をなんだか気恥ずかしくしながら眺めていた。

「蕪木さん」

 すると、背後から声をかけられる。

 振り返ると、先ほど俺を工業地帯まで送ってくれた黒澤さんと、他のボディガードたちが並んでいた。

「サクお嬢様の奪還、どう感謝して良いのやら。本当に、ありがとうございました」

 一斉に頭を下げる黒服たち。

 俺は少しだけ慌てて、顔を上げるように伝える。

「運が良かったんですよ。サクも無事で良かったです」

「いいえ、これは実力よ」

 すると、また後ろから声をかけられる。

 振り向くと、そこにはヨシノさんを連れたサクがいた。

「武装した三人を相手に、損失なしで全て撃破。これが伝説の用心棒と言われる所以なのね」

「わたくしからも感謝を。本当にありがとうございました」

 頭を下げるヨシノさんに再度顔を上げるよう頼む俺。

 しばらくして顔を上げたヨシノさんは、そう言えばという顔になった。

「今回の報奨金、お支払いしなければなりませんね」

「んん? ああ、それなら結構ですよ」

「「「えぇ?」」」

 その場にいる俺以外のほぼ全員が、そのように声を上げた。

 俺はなんだかおかしくなって、頭を掻いてしまう。

「それと、サクの用心棒の件ですが、謹んでお受けしようと思います。急に態度を変えて申し訳ありませんが、何卒よろしくお願いしますよ」

 そのように宣言すると、サクやヨシノさん、黒澤さんや他の黒服たちもポカーンとした顔になって、

「「「本当ですか?!」」」

 嬉しそうに歓喜した。

 黒服たちは互いに肩を組んだり、笑い合ったりしながら俺の依頼受注を喜んでくれているようだ。

 ヨシノさんも涙を堪えるように顔を伏せて、それに呆れながらサクが肩をさすっている。

 俺はちょっぴり恥ずかしくなって、鼻筋をこすってしまう。

「そうなると、依頼料は弾む必要がありますね」

 顔を上げたヨシノさんが、そのように提案してきた。

「あー。その件も、ある程度の衣食住と娯楽を保証してくれれば、特段結構ですよ」

 そのように返すと、サクもヨシノさんも意外そうな表情を浮かべた。

「しかし、正当なる対価は支払わなければなりません」

「んー。だったら、依頼が成功した時に一括で良いですよ。サクの用心棒の期間はどれくらいですか?」

「そうですね。多分一年くらいになると思います」

「じゃあそれまでは普通に衣食住と娯楽の保証ってことで一つ。よろしくな、サク」

 そう笑顔を向けると、サクも目いっぱいの笑顔を返してくれた。

「しかし娯楽、ですか。そうなるとやっぱり、わたくしの出番ですわね……」

 すると、ヨシノさんが俺の傍まで近づいてきて、胸に潜ませた母性を少しだけちらつかせた。

「……楽しみです」

「ねぇ! だからヨシノにはそういうことさせないって言ってるでしょ!」

 憤慨するサクの様子を、黒服たちが笑っている。

 俺もヨシノさんも顔を見合わせて、おかしそうに微笑んだ。

 

 この日、俺は用心棒に復帰した。

 それは佐倉サクという、“常識の通用しないおじさんたち”のお嬢の護衛のためだ。

 しかし俺の中にはそれ以上に、大きな意味が一つあった。

 過去の清算。

 守れなかった約束の贖罪のため。

 俺は一人決意した。

 次こそは、絶対に失敗しないと。

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