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天界の瑠璃 外伝  作者: 上杉 真
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律子の精進

「釈尊よ!」阿難が問いかける。「釈尊よ、あの律子の身体から発した光明、如何思われますか?」「善い哉、阿難よ、かの律子、あの瞬時、天女より菩薩の一境涯へと転生したのは確かである。汝、律子にさらなる教えを説くがよい」。「かしこまりました。釈尊よ。しかしながら、わたくしよりも、智慧第一の舎利佛しゃりほつにその役を任せては如何でありましょうか?」「善い哉、善い哉、それもまたよし。舎利佛に説かせるがよい」。「承知いたしました」。阿難は、久しぶりに舎利佛とせせらぎのほとりを歩いていた。「舎利佛よ、どうですか?かの律子という者」。「阿難、彼女は純真で、帰依の心が他の天女よりも強い。釈尊の仰るように、ひとつ、法を説いてみよう」。「舎利佛よ、感謝します」。阿難は、早速、律子を舎利佛の元に連れて来た。「舎利佛さま、律子と申します」。律子が恭しく挨拶をした。舎利佛は真面目な顔で、律子を見た。なぜなら、この教化によって、律子は菩薩の位へとまた一歩近づくやもしれなかったからだ。「律子よ、十界とは何か?」舎利佛が律子に唐突に問うた。「はい、それは、地獄、餓鬼、畜生、修羅、人間、天上、声聞しょうもん縁覚えんがく、菩薩、仏界の十であります。」律子が即座に答えた。「そのとおりである。ならば、輪廻を超えた解脱の境涯はそのうちどこであるか?」「はい、声聞以上の世界であります」。「その通りである。ならば、汝は、汝自身、どの境涯にあると信ずるか?」「はい、この世界、仏界・菩薩界に身を置かせて頂いているというものの、わたくしは、いまだ声聞の二乗であると考えます。」「善い哉、律子よ。汝の謙譲の心、美しいものである。ならば、汝は汝自身、仏になることはできると考えるか?」「とんでもございません。わたくしはそのような大それたことは、考えたこともございません。」「そうであるか、律子よ。しかしながら、釈尊は“仏性”というものをお説きくださっている。それは、人は誰しも仏となる可能性、仏となる性を持っているということだ。また、釈尊はこうもお説きくださっている。精進波羅密とは、その仏性を開発せしめんが為、努力するものであると。汝は如何思うか?」「はい、釈尊がそのように仰せになっていらっしゃるのなら、そのようにわたくしも努力させていただきます。」「善い哉、汝は素直であるな。その心忘れるべからず。汝は、釈尊より、過日、六波羅蜜の修行とは何であるか学んだであろう。それを実践し続けるがよい。」「かしこまりました、舎利佛さま。」舎利佛は思った。この律子という者、菩薩の境涯へと思うより早く転生するやもしれぬ、と。そこで、舎利佛は、さらなる教えを説き始めた。「律子よ、さらに言うなれば、仏性とは、如来蔵、即ち深甚なる仏の智慧である。また、“五性各別”衆生の性質には5種あるのだ。菩薩定性ぼさつじょうしょう、縁覚定性、声聞定性、不定性、無性である。先の3つは、決定性けつじょうしょうともいい、仏となることを記別されている者である。不定性とは、仏の教えを聴聞する稀有なる縁を得た者は、仏となる可能性がある、という者である。最後の無性は、言い換えれば、苦界より免れ得ぬ者である。無性の者は、仏を誹謗するゆえ、地獄に堕ちる者もある。汝は、汝自身、声聞の位である、と先ほどわたくしに申したな。ならば、汝は、決定性、仏となる可能性を大いに秘めている者といえるのだ。娑婆における北条誠の如く、衆生の仏性開顕を祈る精進によって、如来蔵を開発せしめることができるのである。一心に精進するがよい。」舎利佛が力強く律子に説き給うた。「そうなのでございますね!舎利佛さま!仏となることが、わたくしのような者でも可能だと知ることが出来、まことにうれしゅうございます。す!その道は、遥か遠い道かもしれませんが、一心に精進いたします!」律子は思った。誠の帰りを奉仕生活の中ただ待つだけの身から、自分も仏に近づくことができる。「誠さん、わたしも、希望を持って、精進するわ!」律子の目に感涙の露が、ひとしずく煌いていた。天界は新しい一日を迎えていた。



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