第3便 こっち見んな
「いやあ、本当に助かりました。あわや自己破産の危機でした」
「む? 自己破産?」
「あ、いえいえ、こっちの話です」
「ふふ、面白い男だな、君は」
「ははは……」
銀髪の美女魔法剣士の自宅でからくもトイレを借りることが出来た俺は、何とかギリギリ借金の返済に成功し難を逃れた。
今回はマジで終わったかと思った。
この銀髪美女には心から感謝だぜ。
「それにそんな敬語を使ってくれる必要はないぞ。多分君の方が年上だろう?」
「あ、ああ、そうかも……ね」
確かに歳的には18歳前後といったところか。
その割には随分堅苦しい喋り方をする娘だ。
「ところで君の着ている鎧と背中の魔剣――。君も魔法剣士だな?」
「うん、まあね」
鎧は王立魔法剣士団から支給されるものなのでどれもデザインが似てるし、魔剣は持ち主の魔力を宿している特殊な剣なので、魔法剣士かどうかは同業者ならすぐわかる。
まあ、もっとも銀髪美女が着ているような標準的な白い鎧と違って、俺の黒い鎧は特注品だけどね!
何故なら黒の方がカッコイイからッ!
「私は中級魔法剣士のダナカ・トゥモコ。ダナカと呼んでくれて構わん」
「へえ、その若さで」
ダナカくらいの歳で中級魔法剣士にまでなっているのは相当優秀な部類だ。
まあ、俺がダナカくらいの頃はとっくに上級魔法剣士だったけどね!(ドヤッ)
……さてと、名乗られたからには俺も名乗らない訳にはいかないよな。
……だが、一応業界トップである俺が死にそうな顔でトイレを借りたなんて、同業者な上女性のダナカには知られたくないな。
――しょうがない、偽名を使うか。
「俺の名前はガトウ・マジユキ。ガトウでいいよ。……等級は君と同じ中級魔法剣士だ」
「そうか、これも何かの縁だろう。よろしくな、ガトウ」
「ああ、よろしく、ダナカ」
ううむ、嘘を吐くのは若干心苦しいものがあるな。
だがこれも俺の――ひいては魔法剣士全体の名誉のため――!
許してくれダナカ――。
「ところでガトウはお昼ご飯はもう食べたかい?」
「え? いや、まだだけど」
借金の返済でそれどころじゃなかったし。
「では君さえよければうちで食べていってくれ。ちょうど私もこれからだったんだ」
「えぇ!? いや、それはいくら何でも悪いよ……」
「まあまあ、実は同じ魔法剣士としていろいろ聞きたいことがあるんだ。だから遠慮はしないでくれ」
「はぁ……、じゃあ、お言葉に甘えて」
「ああ、鎧と魔剣はそこに掛けてくれ」
ダナカは部屋の隅に置かれている鎧掛けを指差した。
トイレを借りようとしてさっきのオッサンみたいな冷遇を受けたのが初めてなら、ここまでの厚遇を受けるのも初めてだな。
何だか今日は珍しい日だ。
「よいしょ……と。――むおっ!?」
「ダナカ!?」
ダナカも鎧を脱ごうと鎧掛けの方に近寄ろうとした、その時だった。
何故かダナカは何もないところで突如つまずき、派手にスッ転んでしまった。
しかもダナカはスカートタイプの鎧を着ていたので、俺の位置からはおパンティオが丸見えンヌだ――。
――白のレース!!
「だ、大丈夫かダナカ!?」
「あ、ああ、すまない。見苦しいものを見せてしまって」
「いや、俺は構わないけど……。むしろありがとう」
「む?」
「何でもない。こっちの話だ」
「? そうか。……私はこの通り昔からおっちょこちょいでな。たまにこうして何もないところで転んでしまう癖があるのだ」
ダナカはスッと起き上がり、軽く膝を払った。
「へえ、そうなんだ」
何はともあれご馳走様でした……!
「だが料理の腕はそこそこ自信があるからな。期待しててくれ」
「ああ、それは楽しみだ――っ!?」
鎧を脱いだダナカを見て、俺は再度目を見張った。
ダナカが鎧の下に着ていたTシャツは、王立魔法剣士団から支給されている、『オウル君』という梟を模した超キモいゆるキャラがでかでかとプリントされたものだったのだ――!
あのクソダサTシャツ着てる人初めて見た!?!?
さっきからダナカの株が大暴落してるけど大丈夫かな!?!?
「む? 私の顔に何かついているか?」
「い、いや、何も……」
強いて言うなら胸元にキモいゆるキャラがついてるけど……。
オウル君こっち見んな。