第2便 トイレ貸してください!
「ハァ……、ハァ……!」
俺は肛門括約筋を必死に引き締めながら町を目指した。
俺の腸内では借金の取り立て屋が、
「オイッ! いるのはわかってんだよ!! さっさとここを開けやがれッ!!」
とけたたましく(肛)門を叩いている。
いやホントマジで今だけは勘弁してください!!
払いますから!!
後でちゃんと払いますんで、もう少しだけ待っていてください……!!
――俺は決して野○ソはしないのがポリシーだ。
何度も言うが俺は最強の魔法剣士なんだ。
世界中の魔法剣士達が俺を目標に日々鍛錬を積んでいる。
そんな俺が万が一野○ソなんてしてるところを誰かに見られたらどうなると思う!?
「うわあ、最強の魔法剣士なのにウ○コとかするんだ……」
ってなるだろッ!!?
いやウ○コぐらいするけどね誰だって!!?
でもなんかこう……、強いやつはウ○コしないみたいな風潮があったりなかったりするじゃん!?!?(そうかな?)
だから俺は用を足す時は必ずトイレでって心に誓ってるんだ――。
「……お?」
そうこうしているうちに幸いにも小さな村を発見した。
――よし、あそこでトイレを借りよう。
「さて……と」
村に着いたはいいが、ここからが問題だ。
こういう時理想的なのは所謂公衆トイレだが、残念ながらこの村にはそんな御大層なものはないっぽい。
これはトイレというトイレを渡り歩いてきた俺だからわかる。
公衆トイレがある村や町は、ある程度裕福なところと相場が決まっているのだ。
だがこの村には失礼ながらそんな雰囲気は欠片も感じない。
あまり経済的に潤っている村ではないのだろう。
となると次善策としては宿屋や酒場等でトイレを借りるという手があるが、見える範囲にそういった施設はない。
最早いつ取り立て屋が強硬手段に出てもおかしくない今の状況で、これ以上歩き回るのはなるべく避けたいところだ。
そうなると後は誰かの家でトイレを借りるということになるが――。
何回やってもこの工程は慣れない……。
初対面の人に「トイレ貸してください!」なんて、ただでさえ人見知り気味な俺にはハードル高過ぎるんだよな……。
――ぐぎゅるるるるるる
「はぐふぅ……!」
だが借金返済日は刻一刻と迫っている――。
このまま自己破産するくらいなら、恥を忍んでトイレを借りるしかあるまい……!
「あ、あの!」
「ん?」
俺はたまたま目の前で自宅に入ろうとしていた恰幅のいい初老のオッサンに声を掛けた。
「ト、トイレを貸していただけませんでしょうか……!?」
「ああ? トイレだあ? ……お前見ない顔だな。さては余所者だな?」
「え、ええ、そうですけど」
「……怪しいやつだな。大方トイレを借りるフリして、うちに押し入り強盗でもするつもりなんだろう!?」
「い、いや!? そんなつもりは微塵も――」
「うるせえうるせえッ!! いいから余所者は出てけッ!! シッシッ!!」
「――!!」
オッサンは蠅を払うような仕草をしながら、乱暴に家に入っていってしまった。
えーーーーーー!?!?!?!?
俺も今まで数え切れない程トイレを借りてきたが、ここまで酷い対応をされたのは初めてだ……。
――ぐぎゅるるるるるる
「はぐふぅ……!」
も、もう限界だ……!
俺は最強の魔法剣士なのに、大衆の面前で自己破産しちゃうような情けない男なんだ……。
ごめんよ俺を目標にしている世界中の魔法剣士達……。
俺はもう、君達が目指す程の価値がある男じゃないみたいだ――。
「なあそこの君、顔色が良くないようだが、体調でも悪いのか?」
「――!!」
――その時だった。
凛とした女性の声が真横から響いた。
捨てる神あれば拾う神あり――!!
慌てて声のした方を向くと、そこには――。
「む? どうかしたか? 私の顔に何かついているかい?」
「い、いや……」
流れるような長い銀髪。
意思の強そうなキリッとした碧い瞳。
思わず息を呑む程の美女がそこに立っていた。
だが俺が一番目を奪われたのは、その美女が着ている鎧と、両腰に下げている魔力を宿した一対の双剣だった。
こ、この人も魔法剣士――!?
……だが、今はそんなことよりも。
「あ、あの……、トイレを貸してもらえませんかッ!!?」
「……は?」