第3話 氷神の嫁
ようやく第3話です。
第3話 氷神の嫁
ファミレス『ゴスト梅田店』の中で、千陽子は注文したクリソを一口飲んでから、一条礼子に尋ねた。
「で、兄貴が捕まった容疑は殺しで間違いないんか?」
「それなんですけど、先程は私も取り乱してまして、人を殺して捕まったと言いましたけど、刑事も何か今のところは、死体遺棄やとか言ってました。でも、それも時間の問題やって…」
礼子は顔を下に向けてすすり泣き始めた。
「ふーん、まあ、ある程度、証拠がないと警察も動かんやろうしな、何か氷神ともめとったんか?」
「いえ、特に、そら、グループにいる時は、相手は対立するグループでしたし、事ある毎に衝突してましたから…」
「まあ、そうやな、で、礼子も警察から事情聴取受けたんか?」
「ええ、最近の兄貴の行動を知らないかとか、誰かと揉めてなかったかとか…」
「まあ、ありきたりな質問やな。」
「あ、それと氷神明菜っていう女性を知らんかとも、」
「それは氷神の嫁や、隼人と何かあるんかいな?」
「いえ、わかりません、兄貴とはあまり連絡は取っていませんでしたから。」
「そしたら、アイツの家に行こか?」
「え?アイツ?」
「氷神の家や、とりあえず、明菜に会おか。」
「ええ?!」
ナンバー3の熊谷樹里亜とナンバー4の美山香が驚く。
千陽子は思い立ったらすぐに行動に移す。
それは昔からの性格で、考えていない訳ではないが、ある意味せっかちなところがあった。
「あ、でも、場所わからんわ。」
と千陽子が言うと、 樹里亜と香はその場にズッコケる。
それを見て千陽子が、二人に、
「めっちゃええやん!あんたらのその動き!そんなタイミングのエエ動きが、うちの事務所の奴等に出来てたら、もっとオモロイもん出来るんやけどな。」
と悔しがる。
「千陽子さん、とりあえず氷神の家は、私が確認しておきます。わかれば、また、連絡しますんで…」
と香が千陽子に言う。
「わかった、頼むわ。」
と千陽子が香に頼んだところで千陽子の携帯から『パワー◯ール』が鳴り響く。
千陽子はプロレスラーの長州◯選手の大ファンで、ずっとこの着信音にしている。
「はい、千陽子!何やエージか、墓参りは?終わった、ああ、そうなんや、で…お前、ネタ遅過ぎんねん!ワイの頭にカビ生えたらどないすんねん!えっ?今からって、お前、さっき事務所にはもう上がるって言うてもたわ、はーもうしゃーないな、わかった、お前、その代わりしょーもないネタやったらシバキ回すからな!おーそこで待っとけ!」
そう言うと千陽子は携帯を切る。
「悪いな、ちょっと事務所戻るわ。」
と千陽子は三人に手を合わせて謝る。
「頑張って下さい!応援してますから!」
と樹里亜が拳を握って、千陽子の目の前でガッツポーズをする。
千陽子は氷神関係の調査を香達に任せて、店を出た。
千陽子が事務所に戻ると、エージこと、カリスマエージがソファーの上に立って、定規を持った手を振り上げ何やら叫んでいる。
「俺の体に眠る、ゴッデスダークのおぞましくも呪われた力が貴様の野望を打ち崩す!」
かなり、真剣であるが、外でこれをやっていると単なる危ない人だ。
「何、アホなことしとるねん。」
とりあえずツッコミを入れる千陽子。
「あ、千陽子さん、お待たせしました。ようやく異世界コントの新ネタ出来ました。今回のは結構自信作ですから、今度の大賞には良いところまで行けると思います!」
エージが振り向いてそう言うと、千陽子はエージの額にデコピンを入れる。
「いったあー!何するんですか!?」
エージが額を押さえて千陽子に文句を言う。
「アホ!良いところまで行けるやと?ワイが狙うとるのは大賞であって、敢闘賞とかと違うんやで!お前、何自分のハードル下げとんねん!」
そう言われるとさすがのエージもぐうの音もでない。
「悪かったです。でも、一回ネタ見てもらえますか?」
とエージは千陽子に両手を合わせてお願いする。
「ちっ、しゃーないな、おもろなかったらホンマ、この事務所の窓から放り投げるで!」
千陽子は渋々承諾する。
「いや、それは勘弁して下さい。マジで死にますから。」
千陽子は自分が言ったことを結構、実行することがあるので、うかつに『はい』とは言えない。
「はー、何々、ん?『死語魔法』?何やこれ?」
千陽子は今回の最新ネタが書かれた紙の束を見て言った。
「ああ、それですか、それが今回のネタの肝です。」
「何やそれ?おもろいんか?」
「わかりません、ただ、死語魔法は相手には効かないと言うのが前提で、例えばかなり昔の死語とかを呪文として僕が言うので、千陽子さんが、『お前アホか?そんなもん効くか!』とか『何言うてんねん!』とか言って突っ込んでもらいたいんですわ。」
「ふーん、一応やってみよか?」
「お願いします。」
こうして、クリム&カリスマのコントの練習が始まった。
ーーコント『死語の世界』ーー
カリスマ「えーい、邪悪な化身ゾンビーノ男爵!私の最終奥義『死語魔法』で地獄に追い返してやろう!」
クリム『何を生意気な!お前こそ、我と戦って死んでも、後悔するなよ!』
カリスマ「うるさい!いくぞ!死語魔法……『その服ナウいじゃん、イケてるね!』」
クリム「………」
ーーー終了ーーー
「ちょっと千陽子さん!ツッコミ入れて下さいよ!」
「アカン、無理。これ、なにがおもろいんや?」
「えっ?いや、」
「こんなもん、ワイにツッコミ入れられるのを前提にして作っとるやないか!」
「いや、でも、千陽子さんのツッコミが無いとアカンと言うか、」
「あのな、ツッコミっちゅうんはな、客がツッコミ入れられへんのを代わりに相方が入れてるんや!客がどう突っ込んでエエもんか、ようわからんようなネタはやめとけ!」
「客の代わりにですか…」
「そうや、お前はお笑いの作家を目指しとるんやろ?そしたら、ワイに気を使わんと、誰にでも、どの芸人でも使えるようなネタを考ええや。」
「じ、じゃあ今まで僕が考えたネタで、千陽子さんが、一番おもろかったと思うネタって何ですか?」
「えっ?エージの考えたネタでか?」
「はい。」
「うーん、そうやな、強いて言えば…」
「強いて言えば?」
「『抜けない聖剣』の話かな。」
「あ、あれですか、確か、勇者が抜けなくて、魔王が抜いちゃうっていう話ですよね。」
「あれは中々、おもろかったと思うけどな。」
「他には?」
「他?うーん、『田舎者の魔法使い』かな?」
「あれは、確か田舎者の勇者と魔法使いが魔法を唱えても訛ってて、魔法が発動しないっていうやつで、え、それって千陽子さん僕にダメ出ししてたやつじゃないですか!」
「だから、それくらいしかないんやもん。」
「えー、ひどいですね。」
「アホ、ひどいのはお前のネタや!」
「あー僕、才能無いんですかね?」
「才能なんて持ってる奴は一握りの人間だけや、人間は努力や!努力したら何とかなるわ!」
「努力ですか?はー、どんな努力したらエエんですか?」
「そやな、1日100個の小ネタを考えるとか?」
「ひ、100個っすか!きついっすわ!」
「アホ!何でもエエんや、しょーもないことでも、幼稚なことでも、とりあえずやる!まずはそこからや!」
「わかりました。話、もうちょい練り直しますわ。」
「そうせえ、ほならワイは帰るから。」
「お疲れ様です。千陽子さんは今からお店ですか?」
「当たり前や、ここの仕事がないんやったら、他で稼がんとアカンやろ。」
「そうですね、頑張って下さい!」
「お前もな。」
そう言うと千陽子は事務所を出ていく。
「あーネタ100個かあー!きつー!」
エージは両手を上げて伸びをして、そのまま、後ろのソファーに倒れ込んだ。
アカーン、おもろないわ。
今、エージ状態の僕。
脳が切り替わらへーん!
ピーンチ!
読んで頂いた奇特な方ありがとうございます。
次回もよろしくお願いします。