2話
あの盗賊討伐より2月の月日がたった、2か月というのは忌々しい時間の経過である、慣れた、慣れたのだ、この生活にも、この体にも、この世界にもついになれた、それは麻薬のように、私の食す罪人の数は増えていき、今では日に5人は喰らっていた。
あの一件、奴隷の少女を喰らってから理性が千切れたような気がする、趣味もない私の財布には金ばかりが詰み上げられ、冒険者での地位も上がってきた。
そんなわけで今私は冒険者組合の一角で一人酒を飲んでいた、今では街一番の鍛冶屋の装備を身に纏い、使える魔術も少し増えた、そんな私には一つの不安がある。
【冬】の到来であった、これほどに恐ろしいものはない、というのも冒険者の依頼は冬季は停止する、理由は簡単で街までの道が雪に埋もれて狭くなることを理由に街の外に出ることを領主が規制し、食料関連の商業馬車を優先して運行できるように調整しているのだ。
結果として外出必須な冒険者は組合から手当てを貰いつつ蓄えた金を切り崩して生活をする、手当の出る分冒険者たちは口を揃えてこう言った
「冬こそ天国だ」
。。と、しかし私は困ってしまう、仕事がなければ合法的に人を喰らえない、外にも出られない分街中で食い殺せば、、確実に私は憲兵に捕まり最悪拘束されるだろう、そんなことは私は望まないし、何より罪なき人を喰らうのは、、流石にきつい
本格的に雪が降る前にこの街を出て、国の最南端まで移動しなければならない、雪の降らぬ場所に私は逃げねばならなかった。
グルーデンから南のシャカールまで移動する冒険者の数は少なくはない、命を掛けるのが大好きな戦闘狂の冒険者たちは冬の間シャカールで生活することが多い。
私はこの流れに乗るしかないと考えた、この冬季直前の大移動に紛れ込みシャカールまで行くしかない、旅費は幸いにもたんまりあった。
――ここでは私は隣の窓ガラスを見た――
映った自分の顔を見てふと思う、「私は何をやっているのだろう」と、人を喰らうことに対し我を忘れて考えている、情けなかった、何よりこの情けない状況から生まれた行動判断を実行せねばならない自分が、、、恥ずかしかった。
私は席を立ち上がり掲示板の上に貼られている依頼書を俯きながら手に取った、内容は【冬季前シャカール移動馬車護衛・報酬現物支給】である。
要するにこれ、護衛する代わりにただでシャカールに行けるということだ、必須道具は馬だが、この街の名馬を買っても実は旅費より安い、魔物を相手に戦うデメリット以外にこれを受け取らぬ理由がなかった。
金はある、しかしどうだろう、南の地ではさらに金がかかるかもしれない、不死の身故にリスクのない私にとってこの依頼を受けぬ理由はない、つまりデメリットがない。
「ふむ、、、」
冬季前の大移動は2週間後、それまでに私は盗賊依頼をより多くこなし人肉の保存食を用意しなければならない、考えたくもないしやりたくもないが空腹に耐えられないことは自分自身よく分かっている、、、出来ぬことは出来ぬ、これが現実だ。
私は数枚壁から盗賊討伐の依頼書を剥がした、既に組合での私の評価は一級冒険者扱いであり、私が数枚高難易度依頼を手にしても誰も見向きもしなかった。
盗賊団【ドロク】基地偵察・盗賊団【ザクロ】拠点壊滅・指定盗賊団【リュアル】拠点壊滅の3依頼、基地偵察は数人拉致するだけ、壊滅は全滅させる必要はないが拠点の完全破壊が条件だ。
この3つで最も人を手に入れやすいのは偵察だ、何といってもそもそもが人目に付かぬ依頼だし、何人か殺しても不自然ない、ここ2か月で私が好き好んで選ぶ依頼の1つで、この依頼をこなすうちに【インビジブル】という気配を消す魔術を習得するに至った。
「ふむ、、、」
今回は人を拉致して加工する手間がある、流石に仲間を募集するわけにもいかない、多少の準備をすべく私は街の冒険者向けの道具屋に向かう事にした。
―――――――
グルーデン・冒険者向け道具店【フライツオーレン】
冒険者組合から徒歩で数分、木製の掘立小屋の小さなお店フライツオーレン、普段その店の内部は薬草水の匂いと痛み止めの甘い匂いで化粧品を取り扱っているようなにおいが立ち込めていた。
しかし今日に限っては小屋は取り壊されていて、店の商品は麻布の上に並べられ店主のふくよかな女性は地べたに座り込んで商品を売っていた。
「フライツの店主さん、建物はどうしたので?」
「ああ、あれは取り壊したのさ、もうすぐ冬だ、数年前から冒険者向けの商人への組合助成金が取り消しになってね、南部大移動で店を移動させるのさ。」
「私もシャカールに行くんだ、それで旅の金を稼ごうかと、ギリーマットと拘束紐、あと魔道薬草水を買いたい」
店主はにこにこしながら私の言った商品を手に取り麻袋に詰めた、そしてその麻袋とは別に一冊の魔導書を私に手渡す、魔導書と言っても紙切れ一枚だがその値段はかなりの価値があるはずだ
「えっと、これは」
「お姉さんは腕利きの冒険者、この街の魔導士じゃトップ格さ、媚びを売らせてくれな」
「なるほど、では遠慮なく、シャカールでもよろしくお願いします。」
私は薬草水とギリーマットと拘束紐の金を払いそれらと魔道書を受け取った。
店を後にした私は中央の広場で早速魔導書を確認した、魔導書の中身は【武技】の分類だ、武技とは魔道を利用した武術のことである、例えば剣に加速の魔術を乗せ高速の剣を繰り出すなどバリエーションに富んでいる。
魔導書の内容は【武技・崩撃】簡単に言えば掌底だ、魔力を腕に込めて敵を殴るだけだが細かい魔力調整によりその威力を圧倒的なものにすることが出来ると同時に、あくまで殴るだけなので消音性に優れた武技である。
魔導書を読むとそれは火がついて燃え尽きた、魔導書は誰かが読むと燃えるように細工してある、読むうちに魔力が籠ってしまい術が暴発するのを防ぐための仕掛けだ、魔導書が高価であり続けるのはこれが原因である。
「はぁ」
息を吐き出せば薄くだが白い息が漏れ出した、冬の到来は直ぐそばまでやって消え入る、最近までは緑が生い茂っていたと思えばすぐ冬だ。
私は慣れた手つきで今日こなす依頼ドロク基地偵察の準備を始めた。
ドロク基地は借馬を駆りて半日、内部の地図の奪取と尋問を行なうだけの簡単な依頼である、しかし基地の破壊は許されない、盗賊が散ってしまうからだ。
必要な道具はギリーマットと呼ばれる枯草を編み込んだ掛け布団のようなマット、尋問に必要な薬草水のみである、冬季前の一斉盗賊討伐をひかえる騎士団からのこうした偵察依頼の報酬は普段よりも高かった。
私はギリーマットを裂いて鎧や靴にそれらを巻き付ける、この時期鎧にギリーマットを巻き付けて寝転ぶと凄まじいほどの隠密性を誇り、インビジブルとこれを併用すれば盗賊基地に忍び込むことも容易であった。
、、、最近私は魔術師というより忍者だ。
――――――
ドロク街道・ドロク基地近郊
私は枯草に紛れてドロクの基地を確認した、既に日は傾き基地の明かりは不自然に輝いている、商業馬車を集中的に狙う盗賊団ドロク、ここドロク基地は拠点とは違いこの盗賊団の本部である。
盗賊が管理しているとは思えない要塞周辺には街の兵士と見分けのつかぬ良い装備をした警備兵が目を光らせる、その警戒の仕方は異常だ。
というのも私のせいだ、私がほぼ毎日周囲の非合法組織を襲っているせいで最近この手の輩は警戒を怠らず、怪しいと判断した瞬間直ぐに爆臭玉という玉を投げつけてくる、これは凄まじい異臭を放ち魔道詠唱を阻害する、これを我慢するのは不可能て言って問題ないだろう。
が、この闇夜の中インビジブルを使いながら擬態装備の人間を見つけるのは不可能に近く、時間を掛けながらも匍匐前進をすれば基地内の侵入は難しくはない。
じりじりと私は基地に近づいていく、そして虎視眈々とあるものを狙った、それは孤立する敵である、例えば小便をするのに木陰に行ったり、少々道を外れたり、そうして孤立した敵を狙うのだ、、、
ほら現れた、ただ野兎に警戒して警戒網から外れた敵が現れた、警戒してかランタンを消した彼は今ならば殺してもバレない。
「おい、動くな、喋るな、殺すぞ」
私は盗賊を後ろから締め上げナイフを突きつけた、ナイフは盗賊の首に食い込み生暖かい液体を流す、あと少し力を入れれば血が溢れて彼は地面に落ちるだろう。
「な、なんだ!!」
「しゃべるな、黙れ、私が聞きたい事に応えて地図を寄こせ、そうすれば命までは取らない」
私はそう言いながら盗賊をひもで縛り上げ枯草の中に投げ込むと自分自身もそこに身を投げた。
盗賊は威嚇的な目で私を睨みつける、枯草に隠したランタンが映し出す盗賊の顔は恐ろしかった。
「おい、城内の人数、入り口の数、馬の数を教えろ」
「誰が教える、、、うご、ううぉおおお」
私は男の口の中にナイフを入れると左右に振った、盗賊の口は左右に裂けて血まみれになり、くぐもった声が静かに喉から鳴った。
「おい、教えろと言ったのだ、くださいじゃない、次は貴様の玉をくるみを割る感覚で砕いてやろう」
「や、やめてくれ、た、たのむ!!!」
≪グシャ!!!≫
私はナイフの手持ちの部分で男の睾丸を叩き潰した、片方だけだが盗賊は悶絶し涙と小便を流して蹲る。
「さて質問に答える、両方消したくないだろう」
「か、数は1500人、入り口は地図に書かれてる2つと地下から森に抜ける隠し道がある馬は200頭程度だ!!た、ヒュゥ、、、うう、、、」
後は盗賊の懐から地図を盗れば、、、終わりだ、用済みになった彼の喉を私は声の出ぬように一気に叩き切った、男は驚いた表情と共に絶望と憤怒の眼をこちらに向けた後、千切れるように首を地面に落す。
私はそれを喰らった、今は余裕がないという事で一人で我慢し、20人ここから拉致して加工することにする、既に任務は終わっている、あとは任務にかこつけて旅の準備をするのだ、、、
情けなさで胸がはち切れそうだ、何をやっているのだ、私は、こんなところまできて、、、しかし私にはこれ以外の手段が見当もつかず、私は行動を開始する。
もはや尋問の必要はない、私は周囲を歩く警備兵を手当たり次第に襲うことにした、魔法は使わず今回は覚えたての武技を利用する。
カンテラを付けて歩く警備兵の後ろに立った、インビジブルの影響で後ろに立っても気が付かない彼の髪の毛を左手で掴み上げる、驚いた彼がこちらを振り向こうと首を動かした瞬間私は頭に崩撃を右手で叩き込んだ
≪ドン!!≫
鈍い音が鳴り響いた、それは花壇の柔らかい土に鉄球を落としたような鈍い音、男の首は中途半端に千切れてまるで首にもう一つ口が出来た様な造形になる、本来ならば倒れる所だが私が髪の毛を掴んでいるため彼は倒れることなく死んだ。
私は彼のカンテラを取り上げ彼の死骸を一度少し離れた馬を置いてある木陰に移動した、後はこの作業を繰り返すのだ。
―――――――
―――
――
-
≪グシャ!!≫
空が赤く色ずくころ、私は35人の死骸を積み上げた、ようやく巡邏の兵士が足りないことに気が付いた彼らは蜂の巣をつついたように周囲に湧き出る、それに加え明るくなってきたため周囲の血だまりが発見され大騒ぎになっていた。
ただその頃には既に私は死骸を近くの丘の上まで移動していた、丘の近くには強力な魔獣が住み着いていて盗賊たちも安易には近づいてこない、つまり安全地帯だ。
とはいえ魔獣は既に私の隣で死んでいるのだ、、、魔獣とは大きなヘビだった、私は捨て身の戦法で蛇にマジックアローを打ち続けた、夜が明けるまで時間が掛かったのはこれが原因だ。
ともあれここで加工せねば街に死骸を持ち込めない、私は早速馬に積んでいた調理器具を取り出した。
調理過程は、、語るに及ばずという感じだが調理方法だけ柔らかく説明すると、干し肉の作り方は極めて単純、煙で燻しながら火を通すだけである、鉄製のボール二つと金網、そして燻製用のチップさいあれば作れる。
私は岩を積んで簡易コンロを作りそこに持ち合わせている炭を入れて火をつけた、その上に金網を起き、ボールの中にチップ、その上に金網、捌いた肉を入れてもう一つのボールで蓋をして2時間ぐらい加熱するだけ。
まあ数か数なので今回はそれを20同時に行う、今回荷物の9割9分が調理器具なのは言うまでもない。
燻している間私は余った脳みそなどを食べつつ空を見上げ、、、なかった。
ここでもし哲学的な気持ちになったら私は、、、恐らく気が触れてしまうだろう。
そうして私の1日は終わった、残る依頼は2つ、私の心は擦り切れるばかりである。
――ああお前のせいで!!――
金色の髪、長い耳、鋭い目、冷たい声、彼は私に弓を引いた
次の瞬間彼は化け物に食い殺される、化け物は黒い長い髪の毛を身に纏い、満面の笑みで顔を血に濡らしていた
――お姉さんは何処までダメになるのかな?――
次は白い髪の毛の少女、少女もまたその化け物に食い散らかされる、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、
化け物はどんどん私に近づいてくる、殺される、、、殺される!!
―― ――
化け物は私に接吻をした、というよりその化け物は鏡に映る、、、
「うわあああ!?」
またあの夢だ、うたた寝をした私を襲ったのは久々に見る悪夢であった。
、、、変えなけらばならないのだ、この現状を、しかしこの様だ、、、私は後悔開した後加工した肉を麻袋に詰め込んで帰路に立った。