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異世界と偏食さん  作者: ボウニン
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1話後編


 グルッドの合図とともに私は魔術詠唱を開始した、それはバグを利用したありえない速度から繰り出される長文魔術だ。


 使用魔法は【ファイアーレイン】だ、どのような魔術かはよくわからないのだが詠唱の長さ、使用魔力、名前からして広範囲に対して火を用いた雨上の魔術であることは安易に想像がつく。


『紅き世界の同調者よ、、『マジックアロー』』


 マジックアローが敵の陣地に向かって弾き出された、と同時に赤い光の玉が敵陣地上空に浮かび上がる、光の玉は乱視で見た月のように3つにぶれ、その大きさを少しずつ大きくしていった。


 光の玉が敵アジトを飲み込むほどの大きさになるのにそう時間がかからなかった、盗賊たちが蜂の巣をつついたように出てくることには光の玉、、と言うよりもはや光その物だろう、光は網目状に切れ目が入り、まるで網戸のようになっている。


 それが次の瞬間、落ちた


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

          「ひああああちいよ!!」

   「警備は何をしていた!!」          「落石だ!!くそ!!!」

  「俺の、俺の腕が、う、、うわあああ!?」    「魔術師を特定しろ!」

         「死んじまう、助けてくれ!!」         


 予想よりも高密度な魔術だ、それ以外は予想通り、焼けた肉のいい香りが立ち込め地の底はマグマが通っているのではと思うほどに明るい、渓谷の底からは悲鳴が聞こえ一瞬で底は地獄になった。


 渓谷は私たちの居る方面にしか逃げられない、しかも雑に作った道を上がる以外には岩を上るしかないのだ、火から逃げるには細い道を上るしかない、しかしそこにはグルッドたちが待ち構える、細い道のせいで数を生かせぬ彼らは焼けて死ぬか切られて死ぬかを選ぶこととなった。


『紅き世界の同調者よ、、『マジックアロー』』

『紅き世界の同調者よ、、『マジックアロー』』

『紅き世界の同調者よ、、『マジックアロー』』


 私は3連続でファイアーレインを放った、少しした後降り注いだ炎は谷底が明るいという表現を越してもはや火山の噴火のようになっていた、ここまで熱気が感じられるところを見るともう岩を上って逃げるような真似は不可能だろう。


 あとは逃亡者を狩るだけ、私は右にある唯一の逃げ道で戦う3人に加勢した、加勢と言ってもやることは一歩も動かずマジックアローを放つだけである


『マジックアロー』


 崩れ落ちた彼らは悲惨にも火の谷底に落下した、それにグルッドが凄まじく強い、振るった剣は男4人を20Mほど吹き飛ばし地の底に落していた。


「あ、あの」


 私の元まで下がってきたリアンは私と共に遠距離魔術を打ち続ける、彼は詠唱の短いファイアースピアが好みなようだ、何故か私には使えない。


「なんだ、、、『マジックアロー』」

「『ファイアースピア』いえ、近くで見たいな~と」

「ふむ『マジックアロー』了解だ」


 魔術士の戦い中の会話は思いのほか滑稽だ、声を使う魔術師の会話は魔術詠唱が言葉の節々に合わられるため恐らく文に書き下ろせばさらに滑稽だろう。


「な、、なんで3本同時に『ファイアースピア』でるんですか?」

「特技としか『マジックアロー』言いようが『マジックアロー』ないな」


 ふと気が付いたら周囲に盗賊が4人、私たちは囲まれていた、グルッドが立ちふさがるあの道を抜けたとは思えない、巡邏の盗賊が駆け付けたのであろう。


 この世界の魔導士は基本的に武術は嗜まない、私はともかくリアンはかなり危険だ、とはいえここでグルッドを呼び戻せば防衛網は突破されせっかくの優勢がお釈迦になる、2人でこの場をどうにかする必要があった。


「ど、どう、どうしよ」

「リアン、絶対動くな」


 私は短剣を取り出した、盗賊の配置的に一度のマジックアローで射抜くのは厳しく、夜とは言え谷底の火の影響でかなり明るい現状では暗さを利用した何かを出来るわけでもない、近接戦が必須である。


『マジックアロー』


 私の矢が放たれ一人が倒れると残り3人は血眼になって走ってきた、確実に二度目の詠唱は間に合わないだろう。


≪グシャ!!≫


 私の短剣が盗賊1人の首を切り落とした時には残り2人の剣は私の脇腹を交差するように刺していた、噴き出る血がリアンに掛かり彼はその場に崩れ落ちた。


 痛い、痛いのだ、視界がくらむほどに痛く剣を加熱しているのではと疑うほどに傷口は熱くなった、しかし体に力は入る、私は左側にいる盗賊を切り殺した。


「て、てめえ化け物か!!」

「さあな」

≪ザシュ!≫


 盗賊は地に落ちた、ふと正面を見れば既に谷底の盗賊も多くは死に絶えたようで残り数人となっていた、盗賊戦の終わりは近い。



――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――


―――――――――


――――



 夜が明ける前に盗賊一味は壊滅した、谷底の火が収まるころには逃げ出す盗賊も全滅し完全に仕事は終わった。


 グルッドは証拠用に盗賊の鎧を幾つか抱えると帰路に立とうとした、当然私には本命である【食事】が残っているためここで帰るわけにもいかない、何か適当に嘘を付いて帰りは別行動をとることにした。


「すまないグルッド、私は谷底に生き残りが居たりしないか確認するのと、あのままでは流石に死んだ盗賊が悲惨すぎるから軽い供養をする、先に戻っていてくれ」

「お、おう、供養とはまた、まあいいが俺らは先に撤収するからな、盗賊の馬が1匹鹵獲できたから馬車の置いてあったところに括っておくから使ってくれ」

「ありがとう」


 そう言ってグルッドたちは私を置いて先に帰った、私は戦闘後半に襲ってきた盗賊の身ぐるみを剥ぐと短剣で腕を切り落とした、その後は言うまでもなく、、、食った。


 血が喉に入ると渇きが消えた、肉を喰らえば空腹が紛れる、今日初めての食事であった、悔しくて仕方がないが私はこれでしか空腹を満たせぬのだと改めて理解させられる。


 地上の盗賊を喰い終えると次は谷底へ向かう、まあ谷底は私の魔法で火の海になったため食えるような原型をとどめた死骸など無いに等しく焦げ臭いにおいが立ち込めるばかりである。


 谷底の石は未だに熱気を帯びていた、私はそんな中岩陰であったりちょっとした洞窟もどきに焼けていない死体がないかを確認して回った、それと一応供養と言う名目が故に死骸は一か所にまとめる作業も行う。


 焦げて食えない死骸が渓谷中央に山になった、結果として谷底には食える死骸は1つもなかった、全て完全に炭化してしまい持ち上げると崩れる物まであったぐらいだ。


 そんな中谷の岩壁に深い洞穴があるのが見えた、洞穴からは軽くだが風が吹き込んでいた、かなり深いところを見ると生存者が居てもおかしくなさそうだ。


 まだ少し残っている地面の火で私はカンテラに火を灯した、そして真っ暗な洞穴を進んでいく、若干だが足音が聞こえる、人が居そうだ。


「ひぃ!?、ち、近寄るな!!!」


 暫く進めば男が一人、奴隷であろう少女にナイフを突き立て化け物を見るような目で私を牽制した、冒険者の身分上人質を無視することは難しかった。


「、、、なあ賊よ、貴様らは何故女を犯しては殺すのだ?」

「そ、それは俺らが盗賊で、お、女が弱いからだ!!」

「ふむ、その奴隷も犯したのか」

「こいつはお前らが来なければ今晩使うはずだったんだ、それを!!それをよくも!!!!」


 なんか怒りに火を灯し嫌悪の表情で私を睨んでいるが言っていることは糞ったれその物だし、頭が悪そうだ、それに少女を人質に取っているのではあまりにも台詞の迫力が欠けるというものだ。


「分かった、私がここで自害しよう、その代わりその少女は放してやれ」

「お、おう!」


 当然この男は私の約束など守りはしない、ところで私の不死性だが復活するのは損失していなければ首より上からという法則性があることにエルフとの戦いで気が付いた、それに完全に死にきるまで数秒は体を動かすこともできる。


 私は髪の毛を上げ首を出す動作をした、実際は髪の毛を掴むためのなのだが盗賊には首を切る予備動作に見えているだろう、私は短剣を首に当てて力を入れた。


≪ズシャ!!!≫


 痛みが走った瞬間私は自分の首を思い切り盗賊の居る方向へ投げつけた。


「おらいくぞ糞奴隷!、たっく酷い目にあった!」


 見えぬ視界から聞こえるのは盗賊が私との約束を案の定破り捨て立ち去ろうとする声だ。


 視界が復活したころには盗賊は私のポーチを奪い取り今にもこの場を離れようとしていた、私のカンテラまで持っているものだから何処にいるかがすぐわかる、あれではただの的だ。


『マジックアロー』


 私の矢は盗賊の背中を射抜いた、盗賊は膝から崩れ落ち声にならない断末魔を上げる、盗賊の手を離れた奴隷の少女は私を訝しげな眼で眺めた。


「な、なんでおめえ生きて、うう、いてえ、痛いよ、、、」

「盗賊、良かった、君たちは救いようのない塵でよかった、明日の夢には君たちは出てこなさそうだ、そういう意味では愛しているよ、我が同胞」


 奴隷の少女を洞窟から出るように指示した、ここにはもうこの男と私しかいない、再びカンテラとポーチを手に取り服は何故か復活するので鎧を再び着なおすと私は盗賊の首にかじりついた


「な、なん、ウブゥ」


 盗賊は声を失った、私は満腹感を得る、私は人間が豚を喰らうように、彼の足を、腕を、腹を、頭を、喰らった、喰らった、喰らって喰らった、無我夢中で食らいつき、、、気が付いた時には臓物と骨以外盗賊は残っていなかった。



 幸福な満腹感と、やはり罪悪感も襲ってきた、とはいえエルフを喰らったときほど罪悪感があるわけでもなく、彼らには感謝しなければならないだろう、私のために死んでくれたのだ、という感謝の気持ちもあった。


 と、ここで油を売っている暇はない、外では奴隷の少女が待っているのだ。


外に出た時、少女は狼に食い殺されていた、狼は私の姿を見ると一目散に逃げだしその場に残ったのは奴隷の少女の半身だけである。


「ヒュー、、ああ、お姉さ、、ん、人食いなんだ、、ね、み、、、ちゃった」


 少女は殺された、しかしまだ死んではいない、生きていた、既に助けるのは不可能なほどの致命傷、それに私の秘密を知ったからには助けるわけにはいかなかった。


「ああ、そうだ、糞ったれさ、そこで山になってる死骸よりも質の悪い食人鬼さ」

「ふ、ふ、いいよ、、た、食べ、、て、、お、ねえさんは、、


―私のためになら躊躇なく死んでくれたから」



 私は息の途絶えた少女を喰らった、それは今までとは違い臓物も、骨も、全て食べた、ある種の弔いも兼ねていたからである。


 食べ終えたころには涙が止まらなかった、結局自分は糞ったれの異常者だ、また街に帰って、金を貰って、明日も人を喰らうのだろう、いずれ私はきっとこの躊躇さえも忘れるだろう、この世界に生まれてまだ1日、いったい私は何人殺したか、そう思うと嫌悪感で胸が張り裂けそうになる。


 しかし私は死ねないのだ、ここで首を叩き切ろうと死ぬことは出来ないし、ここで自暴自棄になって寝ころんでも明日の今頃には空腹できっと見境なく人を喰らってしまう、先にも後にも結末は変わらない、どちらを選んでも後悔するのだ。


――――――――――――――――――――――――――――――――

―中央第二帝国・冒険者の都/グルーデン―・冒険者組合商館ロビー


「お疲れ様~!」


 街に帰った私はグルッドたちと合流し打ち上げをした、大規模な盗賊の討伐は最初に予定していた報酬を大きく上回り、報酬は一人に付き金貨2枚、アイリとグルットは嬉しそうに酒を呷り豪勢な食事を喰らった。


 一方リアンは私の横腹を眺めては何故か申し訳なさそうな目で此方を見てくる、何か気になる点があるのか尋ねてみることにした。


「どうした?」

「え、その、剣、、当たってましたよね?」

「ああ、あれ外れてたんだ」


 平然と嘘を付いた、というか「私は不死です」なんて言えば面倒なことになるのは火を見るよりも明らかで、ここは自分の不死性は隠すのが定石である。


「そ、、それにしても凄い魔術でしたね、火の雨がぶぁーって」

「そうだよな!!ありゃあ凄かった!!」

「はは、ありがとう」


 私の冒険者の間での評判は街に帰るまでの間で急上昇していたらしい、既に二つ名まで付いているようで周囲の冒険者は私の姿を見るや話のタネにした。


「いや~ほんっとカッチューナが居なかったらあれ終わってたわよ、【烈火の魔弓士】なんて二つ名までついて、羨ましいな~」


 二つ名と言うのは冒険者組合で付けられる、腕利きの冒険者をリスト化するときに付ける名前の事だ、このリストはかなり公の場で使われることが多いため本名を使わないためこのような名前になる、グルッドは【黒の剣神】という二つ名があるらしい。


 私は机の上の肉を頬張り、麦酒を呷った、その食事で腹が満たされるわけではない、しかしその食事は心が満たされるような気がして、、少し嫌な気分を忘れることが出来たのだった。

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