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異世界と偏食さん  作者: ボウニン
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1話

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 昨夜エルフを撃滅した次の朝、私は喰らったエルフの青年の表情で目が覚めた、今でも鼻に付く血の香りが【素敵な臭いだ】と感じてしまう自分に恐怖心と嫌悪感を抱く朝である。


 今いる場所は冒険者組合のロビーである、変な声を上げて目覚めた私を周囲の冒険者は訝し気な目で見ていた。


「悪夢でも見たのですか?、こちらサービスの葡萄酒です」


 私の様子を心配した冒険者組合の組合員の女性はガラスコップに半分ほど注がれた葡萄酒を手渡した、この地域は綺麗な水に恵まれていないがために水の代わりとして度数が極端に低い葡萄酒がよく飲まれていた。


 私はそれを一気に飲み干した、そこそこに美味しいそれだが私の喉の渇きはそれでは少しも紛れることは無い、スキル【偏食】の影響である。


「すまない、お察しの通り少々悪夢を」

「エルフ関連のお仕事後の冒険者様はそういった方が多いですね、ところで昨日頂いたエルフの瞳の監査が終わりました、ルアーニャ銀貨77枚とルアーニャ金貨1枚です」


 ルアーニャ銀貨10枚で1月は生活が保障される、今回の報酬は77枚と100枚相当の金貨1枚、生活面で言えば半年ほどは働かずとも何とかなる。


 ただしこの考え方は死ぬかもしれぬ人間の発想であり、私は死なない身である、となればこの【偏食】による空腹感を解決するためにも積極的に何かしらの行動を起こすべきであることは明白であった。


 私は報酬を受け取ると今後の動きについて考える、偏食による空腹感は昨日で分かった、あれは耐えることは不可能に近い、変に我慢をすれば街中で人を喰らうことになりかねない、正直嫌だがどこかでこの食欲は発散せねばならなかった。


 そこで目についた依頼はやはりエルフや盗賊などのそれその物が金になるというよりも倒すことに意義がある対人系の依頼である、対人系の依頼は討伐対象を殺害するのが目的である場合が多い、つまりその死骸はエルフの瞳の様な例外を除きどのように処理しても構わないものが多い、という事は喰らってしまってもそれが露見しにくいのである。


 問題は精神衛生の管理だ、空腹は依頼の敵を喰うとしても私の心はそんなことをしていては遠くないうちに恐らくダメになってしまう、嫌な考え方だが大義名分が欲しいのである。


 そんな矢先に目に入ったのは【連続強姦犯多数所属盗賊団『ゲルタ』討伐依頼】であった、盗賊団ゲルタの構成員による強姦事件の多発に対し、騎士団を介入する前に冒険者でどうにかならぬかと街が組合に依頼を出した、と言う話である。


 弱き女性を犯し、金銭を奪い生活するいわばこの世のゴミを殺し、ついでにそれらを始末した私がさらなる正義のためにその肉を喰らう、という筋書きであれば目覚めも少しはマシになると考えた。


 が、この依頼だが敵の数がエルフの時の比ではない、しかも盗賊ともなれば退路も確保していると考えて間違いはない、、、となるとこの依頼は一人で受けるのは少々厳しいと言わざる負えない、私一人で行って取り逃がすような真似は避けるべきである。


「なんだいお嬢さん!その盗賊討伐に興味があるのか?」

「ひぇ!!?」


 音もなく私の背後に立っていた男の声に私は思わず驚き変な声を漏らした、男の容姿はごつい・髭・重武装の3つで表すことが出来る、雑でマッチョな中年オヤジ、と言う雰囲気である。


「ああ悪いな驚かせたか、俺の名前はグルッドだ、実のところその依頼に目を付けていたパーティの1人なんだが、実のところこのパーティーだと人手が足りなくてな、どうだい臨時で俺たちのパーティにはいらねえか?」


 願ってもいない話ではあるが、この手の話は彼の仲間の同意を得てから返事をするべきであり、今ここで即決の返事を出すのは面倒ごとの元である。


「それは私には嬉しい話だが、グルッドさんの仲間の同意も得たいところなんだが」

「ん、それもそうだな、少し待っていてくれ!」


 グルッド氏が一度席を外し仲間を呼び行った、その間に私は組合の中にある鍛冶屋に立ち寄ることにした、冒険者組合の中には冒険者が使う道具を売る小売店が壁際にいくつか用意してある、そのうちの一つが鍛冶屋だ。


 私は鍛冶屋おじさんに視線を向けると其処に居る老体は私のサイズに合った防具を幾つか並べてくれた、空気を読む文化がこの世界にもあるらしい。


「その胸当てとガントレット買いたいのだが」

「お目が高いね!そいつぁ英雄様の防具を作ったブレッゲンのお弟子さんの防具だ、まだ駆け出しってことで安いが質は高級品にも劣らぬ一点ものだ」

「じゃあそれで」


 私が選んだ防具は全て艶消しの黒色で、防具には薄く横を向く鷲の模様が入っていた、以前付けていた安物とは違い重量感は見た目よりもある、しかし形がいいのか重さが均等で付け心地は良い。


「お嬢さん!仲間を連れてきたぜ!!」


 とここでグルッド氏が帰ってきた、彼の後ろには魔導士風の格好をした背の低い少年が1人、茶色いショートの髪の毛の女が一人だ、剣士2人に魔導士1人、この世界ではよくある編成だ。


「ぼ、僕はリアンと、い、いいます、僕は手伝ってくださるのなら嬉しいです」

「私はアイリ・スワッツァ・ライン、異論はなしよ、よろしく頼む」


 どうやら私が依頼に参加することには問題がないようである、一応髪の毛を後ろで括り身なりを整えた後私も自己紹介をすることにした。


「私はアルフレッド・カッチューナ、魔導士だ、得意な魔道はマジックアロー、近接戦闘はあまり期待しないでほしい」


―――――――――――――――――――――――――――――

―チューダー平原


 私たちはその後チューダー平原を横断し、盗賊達のアジトがあるゴアド渓谷を目指し馬車に乗り込んだ、平原には背の低い草が生い茂り、緑色に塗られた馬車は踏みしめられた道をガタガタと音を立てて進んでいた。


 御者台にはグルッド、荷台には私ら3人の配置であり目の前のアイリとリアンは魔術について話の花を咲かせていた。


「やっぱ万能魔術はマジックアローよ」

「で、でもあれは威力から見るMP消費が大きすぎて、、、と、思うんだけど、、、カッチューナさんは、ど、どう思います?」


 結論から言えば彼の言う通りだ、マジックアローはMP消費から見た威力が消費に見合っていない、ただし私は威力三倍のMPはほぼ無限、気にするまでもないのだが、、、それを言っては話にならないので私の事は棚に上げて話に参加した。


「マジックアローの利点は隠密性だと思う、詠唱がほぼ不要で光も音も出ない、闇夜で放てばほぼ確実に狙った方向に飛んでいくし暗殺に特化していると思うな、奇襲特化の魔術と考えれば優秀な部類だと思う。」

「な、、なるほど!」

「流石マジックアローが得意な魔術士ね~」


 実はマジックアロー、凄い使い方が出来たりするのだ、マジックアローは詠唱が非情に短文、その短さは魔術でもトップなのである、そして魔術詠唱の脆弱性を突くとこのマジックアローは賢者の用いる神の御業ともとれるそれを上回る脅威となる。


 長文詠唱中、例えばファイアーレインであれば『紅き世界の同調者よ、我の敵を燃やせ、家族を燃やせ、我を燃やせ、嗚呼事なきを得ることはそれ即ち自分には無理があるようだ、我を拒みし愚者に死の鉄槌を、我を拒みし我が夫に火の鉄槌を』なのだが長文詠唱は光を発生するため読み終える前に妨害されることが殆どである。


 しかしこれにはバグがある、『紅き世界の同調者よ』の時点でマジックアローを放つと何故かファイアーレインも術式詠唱を完了したことになるのだ、全ての魔術において詠唱の最初の区切りでマジックアローを挟めば可能な技である。


 とは言えそれはかなりの覚悟を持って臨まねばならぬ技術でもある、タイミングを間違えると座標がずれて自分に魔術をぶつける事となるのだ、常人であれば多くは失敗する、しかし私のスキル【知恵の冒涜者】により私はほぼ確実にこれを実行することが可能で、私から言わせればマジックアローこそ最強の魔術なのである。


 

 日が西に傾き始めた頃である、時計で言えば1時頃なのであろう、今まで生い茂っていた草木は枯れたものが多くなり砂利や動物の骨などが目立ち始めた。


 馬車の上ではアイリは熟睡、リアンは本を読んでいた、この震える馬車の上で寝れる彼女は冒険者として向いているのだろう、私には無理だ。


「ところでリアン、なんか周囲の植物が減ってないか?」

「ええっと、こ、ここら辺はラム水と言う水が地下に流れるようになったんですよ、ラム水は劇毒です、で、でそれを吸い取った植物は枯れて、そ、それを食べた動物も死んだんです、この先の渓谷はそれが酷く、言い方を変えれば見晴らしがよくなったんです、なので盗賊が住み着いたわ、わけなんですよ」

「ふむ、物知りだね」

「あ、ありがとう」


 私の知識ではここは緑が生い茂っている筈だったのだ、鏡の世界とやらの時代と今が若干ずれている、そのラム水とやらも私の記憶には無かった、私のこの知識が何事においても適応されるとは言えないという現実を改めて実感させられる。


「おい三人とも!こっからは徒歩だ、どうせ寝てるであろうアイリを起こせ!」


 グルッドの言う通り私たちはアイリを起こし馬車から降りた、そしてポーチの中にある程度の回復魔道水と護身用の短剣を入れ馬車を瓦礫の山の後ろに隠した。


「こっからは盗賊が出るぞ、武器は隠せ、顔も外套で隠せ、足音は立てるな、野蛮そうな奴は先制攻撃しろ」

「「「了解」」」


 緊張感が増してきた、ここから先はゴアドの森、、だった場所である。

――――――――――――――――――――――――――――

―ゴアド礫道


 歩き始めて30分程である、ついに草木は完全にその姿を消した、魔女の街のように周囲には枯木がいくつも生えている、盗賊の物か分からないが幾つか剣の鞘などゴミも落ちていた。


 艶消しの黒色の外套を頭を隠すように被った私たちはなるべく目立たぬように道を外れて歩く、と言ってもあまりに見開きが良すぎて道から外れることにあまり意味は無さげだ。


≪カチ、カチ≫


 グルッドが木製の小さな箱を振った、中に何か入っているのだろう乾いた音が鳴る、恐らく【サルド信号機】だ、形はだいぶ知識と違うが周囲に対し言葉以外で合図を出す道具であり、2回鳴らすのは止まれの合図のはずだ。


 前方には2人盗賊らしき人影があった、といより盗賊であろう、胸当てには大きく丁寧にも赤い丸の中にヘビの紋章、盗賊団の標を掲げていた。


『マジックアロー』


 私はそれを射抜いた、まるで盗賊の標は的の様であり魔道の矢は正確無比に2人を射抜いた、余った一本は左側の盗賊の頭を射抜く、完全にオーバーキルだ。


≪カチ、カチ、カチ≫

(   進め   )


 再び歩みを進める、次第に周囲には鉄条網が敷かれるようになり大規模な騎士団からの攻撃を意識した防衛陣地が目に入るようになった、しかし冒険者の様な少数からの攻撃はさして意識はしていないようである、さっきの盗賊達は巡邏していたのだろうが意識の低さから少数の敵まで見張るつもりがないのが目に見える。


 それと枯木が進むにつれて減少している、人工的に切り払ったのであろう、道も増えいよいよこの奥には盗賊のアジトがあることを実感させられた。


 既に日は傾き、まだ光はあるがもう十数分で完全に消えうせるだろう、赤い光に照らされた周囲は不気味さを感じさせ、前を歩く3人からはさらなる緊張感を感じさせられた。


≪ブォアン!!!≫


 空中には飛竜に乗った盗賊が見え始める、飛竜飛行は日差しがないと飛行できない、夜を間近に飛竜使いの盗賊がアジトに戻り始めたのだ。


≪カチ、カチ≫

( 止まれ )


 再び歩みを止めればついに渓谷が見えた。

―――――――――――――――――――――――――――――――――

―ゴアド渓谷・ゲルタ基地


 岩肌が荒々しい渓谷、その下には想像以上に大量のテントが見えた、その数は優に100を超えるだろう、想像以上なのだ、冒険者組合からの情報の5倍以上はある、これには3人も顔を引きつらせていた


「ど、どうするのよ」

「どうするってやるしかねえ、奇襲だ」


 奇襲、つまり長文魔術であれを一掃するという事だ、しかしそれは非現実的である、なぜら、、、


「あ、あの、日が暮れてからは長文系の魔術は自殺です」


 そう、無理なのだ、長文詠唱は光を伴う、読み上げる前に光を見た盗賊の矢が魔術師を射抜くのがどう考えても先なのだ。


「、、私がやろう、私なら勘づかれることなくあそこに魔術を放てる」

「え、ど、どうやってですか!?」

「、、、、よし、任せた」

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