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異世界と偏食さん  作者: ボウニン
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0話

 この物語の最初はとある一人の神の恋から始まった、それはここで長々と語るにはあまりに情報不足であり、そしてくだらぬ恋の物語であった。


 とはいえ語らずには進めない、故に結論だけ言うと神の恋は失敗に終わった、恋の代償はあまりに重く、神は世界を追放され、ただ一人時空の狭間に追い込まれた。

――――――――――――――――――――――――――――――――――

「は、ははははは!!!!!」


 どうもこんばんわ、自分の名前は、、、思い出せない、しかし日本人であることは確かである、そんな自分は今目の前で大笑いする一人の女性を前に困惑していた、ここは何処なのだろうかと言う疑問と自分は誰かという不安感は感情を黒く染め上げていた。


 女性の容姿は日本人とは思えない、赤い髪の毛に金色の瞳、衣服は黒いドレスで、肌の色は真っ白、それはまるで造りの物の様であった。


「あの~、ここは、、何処ですか?」

「ああ、ここは時空の狭間さ、そして私は神様だ」

「あ、小説で流行ってましたね、自分は死んだんですか?」


 半分冗談で自分がそういうと神様は大笑いした、そして腹を抱えうずくまった彼女は憫笑しながら顔を上げ、侮蔑交じりの目線を自分に向けた。


「いいや違うね、君は最初から生きてなどいない、そもそも君の居た世界は私が作った偽物だ、私はね、私が追放された本物の【世界】にもう一度入るため5つの偽物の世界を作り出したんだ――


―1つは誰しもが死なないし人口も増えない不死の世界、その中から最後まで発狂しなかった【肉体】がでるまで待った。

―2つ目は魔術のある世界、その中から魔術に異常なまでに特化した人物の【魂】を手に入れた。

―3つ目は色々な種族の居る世界、その中から常に同族を殺さないと気が済まな 【本質】が生まれるのを待った。

―4つ目に本物の世界そっくりな世界を作り出した、そこでありとあらゆる知識を持った賢者の【知識】が出来上がるのを持った

―5つ目に不死の肉体、魔力の魂、凶暴な本質、膨大な知識、これらを維持するために哲学や道徳、そういった探求心に溢れた世界を作り程よく成熟したころで【人格】を取った


 ――つまりだね、君は今肉体は不死だし魔力も凄い保持してる、あとはその本質を固定し知識を追加すれば完璧だ」

「すみません、何を言いたいかわからない」


 自分がそう言えば神様は頬をいやらしく上げて自分を見下ろした、そしてゆっくりと息を吐き出すと目の色を赤く変えた。


「私は【本物の世界】から追放された、そこでその世界に毒を送り込んで私を拒み続ける賢者共が死ぬか検証しようと思ってな、なあに、君は今から行く世界で好きに生きればいい、まあ君の言った通り小説の様なものだ、気楽に生きなさい」

「は、はぁ」


 未練はなかった、と言うか自分が何者かすら分からない、記憶がない以上過去がない、未練を残すに必要な思い出が一つもない自分は彼女の発言に首を縦に振るしかなかった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

―中央第二帝国・冒険者の都/グルーデン―


 目が覚めればそこは活気あふれる街に生えた一本の街路樹の下であった、身なりは鉄製の軽鎧を身に着けている、自分の名前はアルフレッド・カッチューナ、つい最近田舎からここ、冒険者の都であるグルーデンに出てきた田舎娘である。


 という記憶があるがこれは先の記憶にある神様が勝手に作った物であろう、それと今気が付いたけれど自分は何故かこの世界について知り尽くしていた、と言ってもちょっとその知識と違う部分が街の中に多々見られる、それでも予備知識としては十分すぎるほどこの世界について知り尽くしていた。


 神が言っていた4番目の世界で作った知識、なのだろう、おかげでこの街がどのような物なのか、今いる国がどういったものなのかがよくわかる。


 とりあえず自分は近くの冒険者組合に入ってみることとした、記憶上冒険者になるためにここにいるらしいし、わざわざ組合付近にいる所を見ると神様も恐らく冒険者になることを想定しているだろう。


≪ガチャ!!≫


 冒険者組合とは魔物という無限に湧き出る資源を刈り取り、加工し、販売する商業組織である。


 そんな冒険者組合の館の中は常に荒くれ者が酒を飲み、肉の匂いが立ち込めるそこはまさに酒場と言った感じ、雑多な椅子や机が置かれているほか室内中央には大きな周囲の地図と魔物の出現情報が提示されている。


 冒険者組合には登録と言うシステムは無い、冒険者組合と言うのは魔物の出現情報を提示し、その魔物の販売を仲介しているだけなのだ、つまりここで酒を飲んでいる輩達はあくまで冒険者組合の【お客さん】なのである、組合の正規の組合員はこのロビーの奥で魔物の解体や情報収集をしている人たちなのだ。


 まあ私では正規の組合員になるのは不可能だ、組合と言うのは犯罪者などを嫌う、故に身元を正確に話せない私なんかは冒険者組合でなくとも何処の組合にも入れない、出来る仕事はここで酒を飲んでいる連中のように魔物を倒してお金を稼ぐことだけである。


 異世界に来たという感覚があまり湧かない、この世界についての知識が充実しているという事はこの先どうすればいいかを考える必要もないし、どうすればいいかもわかっている、ある意味【自分が異世界人である】、というこの人格が偽物なのではないかと疑うほどに異世界生活はサバサバしていた。


 率直に言って気持ち悪い、ついさっきまで居なかった筈の私がこの世界のことを知り尽くし、さも当然のように目の前にある情報から今日の宿代を稼ごうとしている現実には反吐が出そうであった。


≪ベリ≫


 私はロビー中央に貼られていた魔物の出現情報を剥がし取った、内容は【エルフ出現、ガド森を封鎖、エルフ撃退を確認後商人組合より特別報酬あり】というものだった。


「嗚呼、、お腹が減ったし、、早く仕事をしちゃうか」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――

―ガド森近郊・ガドの道―


 晴天の空の下、私は何もない一本道をただひたすらに進んでいた、街を出てから既に1時間ほど経った、しかし目的地の森は遠くにありようやくその姿が薄らと見えた程度、まだ30分はかかりそうである。


 見渡す限り何もないそこを歩き続けある種の退屈を覚えた私は私物の確認をする事にした、まず自分の衣服は、、麻の女物のドレスの上に安い胸当てとガントレット、レックアーマーを身に着けている、腰には二本鉈上の武器を持っていた。


 ウエストポーチの中身も確認する、中身は紙切れが1枚と銀貨が入った手のひらサイズの麻袋、それとナイフが1本だ。


 私はポーチの中の紙切れを開いた、紙切れには私の事についていろいろと書かれていたので私はそれを歩きながら読むことにした。

―――――――――――――――――――――――――――

【アルフレッド・カッチューナ】

種族・人間 職業・無職 出身地・不明

HP ����������

MP 20000000

攻撃力 500

防御力 40

生活力 349

魔力 70000000

スキル/魔術の理解者    ・魔術の効力を300%

   生者を冒涜せし者  ・HP改変

   知恵の冒涜者    ・鏡の世界での知識の会得

   偏食        ・特定の物質のみ満腹感を得る

   大和撫子      ・精神汚染無効

習得魔術/ファイアーレイン【消費30】

    バーニングラブ【消費90】

    マッジクアロー【消費100】

    神様からの贈り物【消費100%】

――――――――――――――――――――――――――――

 私と言う存在がいかに不自然なものなのかがよく分かった、HPは確認不能だし、魔術系のステータスもバグとしか思えない、スキル欄には神が与えたと思わしきそれらがずらりと並んでいた。


 習得魔術に関しては試しに使おうとは、、、あまり思えない、ファイアーレインとかここで使ったら火事になりそうだし、バーニングラブも名前からして火が付きそうだ、神様からの贈り物は辺り一帯吹き飛びそうでおいそれ使えない。


 知識上存在しない魔術ばかりの中、唯一知識上存在する魔術はマジックアローのみであった、マジックアローとは矢を発射する魔術でありその矢は静止の2秒後の消失する魔法の矢である、この世界では基本中の基本の攻撃魔法らしい。


『マジックアロー!』


 試しに使ってみると一つの詠唱で私が狙った箇所に3つの矢が放たれた、てっきり威力が3倍かと思いきや矢が3倍、これはこの先色々便利そうである。

――――――

―ガド森―


そうこうしている間に森はすぐ目の前に迫っていた、エルフに不法占拠されているためそこには人の影一つなく、鳥のさえずりさえも聞こえることは無い。


 夜のように暗い森に私は足を踏み入れた、風の音と自分の足音以外は何も聞こえない、というより聞こえてほしくない、この静かな森において音と言うのはある種の恐怖である。


 そんな闇夜の森の中、、まあ昼なのだが、暗く日の差さない森の中では私の視界は無いに等しく、仮に討伐対象がいたとしてもそれを目視するのは厳しい状況であった。


 しかしそれはエルフ族にとっても同じことである、エルフ族とは人間の亜種であり、鋭い精神力と高い魔力から弓に魔力を乗せた攻撃が得意であり、寿命は長くその瞳は肉体から離れると結晶化するため装飾品として価値が高い、基本的には魔物扱いで殺しても処罰されない特徴がある。


 そんなエルフ族は私が森に入ったことを確認すると魔力の光で私を照らした、既に木の上に構えた彼ら彼女らは弓を引き絞り今にも私を射抜かんと身構えていた。


「立ち去らぬというならば蜂の巣だ!!!」


 金色の髪の毛を揺らし、引きつった悲痛の表情を向ける彼らに私の声は届かぬだろう、説得に応じるとは思えない。


『マジックアロー』


 私の魔術の矢は声を荒げた青年を打ち抜いた、青年の後ろの少女も打ち抜かれ隣にいた別の青年もその矢に倒れた、返答すらせずに魔術で殺害した私に対しエルフ族は信じられぬものを見る表情を向けた後、憤怒に身を焦がし弓を引き放った。


≪ザシュ!!≫


 急に電気が消えたように視界が暗くなった、足も焼けるような痛みが走り背中も痛い、文字通り私は蜂の巣にされたのだろう、しかし私の思考は未だにやまず、無意識に取った短剣は見えぬはずの矢を弾く。


――――――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――


―――――


――



 どれ程の時間が経ったのであろうか、エルフ族は矢を失った、失ったというよりも打ち切ったというほうが正しいのであろう、失った私の視界は既に復活していて、適当に振るった短剣にはエルフ族の頭が刺さっていた。



「ば、ば、、、化け物!!!!!」


 地を這うエルフの言葉に私は薄ら笑いを浮かべながら首を縦に振る、周囲に散らばった私の肉片の数は彼らを上回る質量で、私の首は既にいくつも地面に散らばっている、私の血肉で周囲は阿鼻叫喚の地獄と化していたのだ。


「私も概ね君の意見に同じだ、しかし怯えるのは私だろう、こんな地獄を作ったのは君たちに他ならない」

「この化け物!!近寄るな!!!」


 私には分からなかった、たった一人の女に対し数百本と矢を放った自分たちがどうして怖くならないのか、私は怖い、彼らを躊躇なく殺せる自分が怖いのだ、しかし何故だか分からないがその怖さは彼らの殺害を止める動機にはなりえなかった、故に殺す。


『マジックアロー』


 再び響いた私の声と共にまたエルフは何人も死んでいく、逃げまどう彼らだが既に日が落ちかけた森の中、逃げるのはかなり苦労している、対して私はこの場から動かずとも魔術を唱えれば幾らでも殺せる、すでに勝負はついていた。


『マジックアロー』         『マジックアロー』

      『マジックアロー』

『マジックアロー』 

            『マジックアロー』    『マジックアロー』

    『マジックアロー』      『マジックアロー』

 『マジックアロー』   『マジックアロー』    『マジックアロー』


『マジックアロー』         『マジックアロー』

      『マジックアロー』

『マジックアロー』 

            『マジックアロー』    『マジックアロー』

    『マジックアロー』      『マジックアロー』

 『マジックアロー』   『マジックアロー』    『マジックアロー』



 終わった時には月明りが森に差し込み若干の視界を私は得た、そこに見えた光景は木を染め上げるエルフの血と、蠅を呼び寄せる彼らの肉、そして輝く彼らの眼であった。


 私は目を広い持ち合わせていた麻袋に結晶化したエルフの瞳を回収した、大きさは手に1つ握って余裕があるが2つは握れぬほどの大きさ、色は様々だが光を反射するとそれはそれは綺麗に輝く物ばかりである。


 すべての瞳を回収し終えた私は気が付いた、私が眺めていたのはエルフの瞳などではなかったのだ、未だに月明りに照らされる森の中のそれに私は心奪われていた、それとはエルフの弓でも衣服でもない、長い耳、、は少し近いのかもしれない。


 肉だ、私はエルフの肉に目が釘付だったのだ、空腹時からしばらくの時間が経った、そんな私はよだれを少々垂らしながらエルフの死骸を見つめていた。


 誰もいない、鳥の声すらしない森の中、私のスキルは偏食、神は私に同族を喰らうように設定したのだ、反吐が出る、吐き気がするという意味だ、実際吐いた。


 しかし私の手は止まらなかった、本能はエルフを喰らえと言っている、一方私自身は喰らいたくない、さながら小説の天使と悪魔、だが本能に理性は打ち勝ち難い。


≪ガブ!、、クチャ、クチャ、、、グシュ、ニチャ、、、、≫

―――――――――――――

―――――――――

―――――

――


 それからの事は語るに及ばず、かくして神が解き放った悪魔は地上に降り立ったというべきであろうか、エルフの死骸が消えた森の中私は神が地上に送り込んだ【毒】なのだと理解するのであった。

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