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エターナル・スペランツァー  作者: 和島大和
9/15

第八弾 『少女の幻影』




 視線の端で捉えた煌き。


 そちらに視線を送るジャック。




 「さて、ジャック。


  開心(フェデルタ)六星刻印(レジュルタ)の違いはこれで分かったわよね?」



 「…………。」




 『リアライザー』が『ストライカー』を信頼していると心を開く開心(フェデルタ)


 『ストライカー』が『リアライザー』を信頼していると発現する六星刻印(レジュルタ)


 その違いを理解したか否かを問い掛けるも、ジャックは窓の外を見つめていた。




 「ちょっとジャック!! 聞いてる!?」




 シャルルはジャックから無視された感覚に陥り、彼に詰め寄る。


 しかし、当のジャックは窓から視線も顔も逸らそうとはしない。


 その態度が腹立たしく思っていると、唐突にジャックが口を開いた。




 「……シャルル、六機編隊なんて、見たことあるか?」




 真剣な顔と声音で、窓の外への視線を逸らすことなく尋ねる。


 その素っ頓狂な問い掛けに、シャルルは呆れたように目を細めた。


 ここ、ヴァレアス帝国の航空機は『航空隊』という名目で編成され、存在している。


 帝国軍に『空軍』というものは存在せず、『陸軍』と『海軍』のみの軍団を所有しているのだ。


 陸軍と海軍はそれぞれに『航空隊』というものを編成させており、それらは一貫して三機小隊を基本としている。


 それら三機編成の小隊が三つを三個小隊と呼び、三個小隊はすなわち一個中隊としてカウントされる。


 そして、三個中隊を一個大隊として扱うのが、ヴァレアス帝国航空隊の編成状況なのだ。


 それが六機編成、つまり二個小隊で編成される部隊などは存在しない。




 「はぁ? 六機編成? そんなもの、存在するわけ……」




 言葉が途切れる。


 ジャックを見下す言葉を発する途上で、言葉を止める。


 シャルルの視界の端で、微かに煌いたものがあったから。


 そして、同時に僅かにもプロペラの音が聞こえたから。


 思わず彼の視線の先へと、自らも視線を向けた。




 「……嘘……でしょ……。」




 信じられないといった風情で、窓の外を見つめるシャルル。


 ジャックの言った通り、六機編成で学園側へと向かってきていた。


 思わず窓の方へと歩み寄るシャルル。




 「…………。」




 ジャックも同様に席から立ち上がる。


 漆黒の機体が六機。


 それがどんどん、どんどん、近づいてくる。


 窓際まで来たシャルルは、窓に両手を当てて身を預けながらグラウンドの方へと視線を向ける。


 放課後の生徒たちも、不思議そうに空を見上げていた。


 ジャックは漆黒の航空機をジッと見つめる。




 「おかしいぜ。」



 「え? ……おかしいって、六機編成が?」




 唐突に呟いたジャックへと振り向き、教室の真ん中付近で立つ彼に確認するように尋ねるシャルル。


 だが、彼は首を振って否定した。




 「違う。


  六機編成でも、一個小隊が全滅したって仮定すれば不思議なことじゃねぇからな。


  俺が言いたいのは、それ以前の問題だ。」



 「以前の問題……。」




 彼女自身、戦闘機についての知識は詳しくない。


 六機編成という航空隊の特徴ならば知っているが、その航空機についての知識はない。


 ジャックに聞かされた話ならば既知としているが、自らの意志で学んだことは一度もなかった。


 当然ながら、戦闘機に於ける空中機動などの知識も皆無だ。


 ある意味ではジャックが彼女に勝る唯一の要素とも言えた。


 その間も航空機はこちらに近づいてくる。


 それもかなり低空で、だ。




 「戦闘機にとっちゃ、あの高度は異様に低いはずなんだよ。


  演習にしても、あんな超低空飛行をわざわざ演習する必要性はない。


  あれじゃあまるで、魚雷でも投下する勢い……」



 と、そこで―――




 「ッッッ!!!」




 ―――ジャックは目を大きく見開かせた。


 漆黒の戦闘機が、何かを抱えているのが見えたから。


 いや、抱えたのが見えたから。


 それは、漆黒の小型爆弾だった。


 予め抱えていたのではなく、抱えたのだ。


 まるで車輪式の着陸装置(ランディングギア)のように、機体内部から爆弾が出てくるというあり得ない構造だ。


 そのような航空機を実装していたことに、ジャックは驚きを隠せない。




 「シャルル!!!」




 ジャックは爆装する戦闘機を見るなり、窓へと手を添える少女の名を叫んだ。


 それと同時に駆け出す。




 「え?」




 シャルルはキョトンとしながら、ただ呆然と立っていた。


 いきなり自身の名を叫び、駆け出してくる彼の姿が、表情が、印象的だったから。


 それはシャルル自身が初めて見た、あからさまに感情を表面に出したジャックだった。


 普段はここまで感情的になることはない。


 それだけに、今のジャックの表情であまりに切羽詰まった状況であると理解した。


 そして、バッと背後を振り向く。




 「……ぁ……っ。」




 シャルルは小さく声を漏らした。


 あまりに接近しすぎた戦闘機が見えたから。


 空間がゆっくりと流れる。


 そんな中で、敵国であるシュトラール連邦の軍服を着込んだ兵士の顔が、こちらを睨んでいるのが見えた。




 ドオオォォォォン!!!




 凄まじい轟音と共に、教室全体が激しく揺れる。




 「くっ!」



 「きゃっ!」




 揺さぶられた教室で、ジャックが足を止めてその場で片膝をつき、シャルルがバランスを崩して倒れる。


 うつ伏せに倒れる。



 ドオオォォォォン!!!


 ドオオォォォォン!!!



 立て続けに爆発音が聞こえ、その度に教室は左右に揺れ続けた。


 まるで地震が襲ってきたかのように揺れ動く教室。


 外から悲鳴が聞こえてくる。


 ジャックは片膝をつきながら耐え、シャルルは身を這わせるようにグッと堪える。


 やがて揺れが収まると、互いに視線を合わせた。


 シャルルが(もた)れ掛かっていた窓が、壁ごと崩壊していた。


 茜色の日差しに照らされながら、うつ伏せで倒れているシャルル。




 「無事か、シャルル!」



 「だ、大丈夫……でも、ゴメン……震えて力、入んないよ。」




 ジャックが呼び掛けると、弱々しくも応答するシャルル。


 恐怖によって体と声が震え、上手く力が入らないらしい。




 「ま、待ってろよ……今すぐ……ッ!!?」




 ジャックはすぐさま立ち上がろうとして、ドクンと鼓動を高鳴らせた。



 茜色の空。


 差し込む日差し。


 うつ伏せに倒れた少女。


 少女が動けない状況。



 ドッと全身から汗が滲み出る。


 全く同じ光景を、過去と重ねる。




 『ジャック……生きて……』




 幻聴が聞こえる。


 幻覚が見える。


 存在しないはずの黒髪の少女。




 「……ジャック……手、借りても良いかな?」



 「っ、あ、あぁ、もちろんだぜ!」




 シャルルの問い掛けに我に返り、すぐさま立ち上がった。


 刹那、敵機がこちらに向かってくるのが見えた。


 その光景に、嫌なことを思い出しつつも駆け出した。


 プロペラの音が近づいてくる。




 『間に合えっ! 今度こそ……間に合ってくれ!!』




 ジャックは必死の形相で駆け寄り、内心で祈り始める。


 シャルルの元へと着くと同時に、彼女の体の真横に立っては両手を伸ばした。


 ギュッとシャルルの手を握り締める。


 絶対に離すまいと力を込める。


 そして、グイっと引っ張ろうとして―――



 ―――ガガガガガガッ!



 機銃の音が響き渡った。


 その音が耳に届くか否かの所で、シャルルを自分の懐まで引っ張り上げることに成功。


 ドサッ!と後ろに倒れ込みながらも、依然として手は握り続けていた。




 「ッッッ!!!」




 そうしてジャックは、目を見開かせながら自らの両手を凝視する。


 両手で持っている、少女の手を見つめる。


 そうしてゆっくりと、シャルルの腕、肩、顔と視線を這わせていった。




 「イタタタ……って、いつまで触ってん……ッ!?」




 片目を瞑りながらも、ジャックの方へと視線を向けるシャルル。


 いつまでも握り続ける彼に対し、講義をしようと口を開くも、言葉を途切れさせた。


 彼の表情が、蒼白となっていたから。


 まるで、焦りの感情がそのまま表情に出ていたから。




 「…………。」




 ジッと見つめてくる。


 声を上げる。


 いつも通りの、少女の声が聞こえる。




 「……シャルル……。」



 「な、なに?」




 視線を外すことも、瞬きすることすらも忘れて、ジャックはシャルルの名を呼ぶ。


 初めて見る彼の表情に困惑しながらも、シャルルは反応した。


 目の前の少女は、確かに反応した。


 ただそれだけで、ジャックは震え出す。




 「……本当に……無事、なんだな。」



 「……ぶ、無事よ。


  アンタのお陰で、傷一つ負わずに済んだわ。」



 「…………。」




 ジャックの確認するような問い掛けに、視線を逸らしながら返答する。


 シャルルが視線を逸らしても、彼は視線を逸らさなかった。


 ジッと見つめているのが、視界の端で捉えられる。


 そればかりか、手を離したジャックがシャルルの頬に触れてくる。


 彼を上から見下ろす形となり、その状態で頬に添えるような触れ方をされ、見る見る間に顔が熱くなるのを感じるシャルル。




 「も、もう良いでしょ? ありがとう! 感謝してる……わ……。」




 業を煮やし、赤くなった顔を見られまいとして礼だけ済ませる。


 早くジャックから離れようと彼の胸元に両手を置く。


 そのまま起き上がろうとした刹那、ギュッと唐突に抱き締められた。




 「っ、良かった……今度は……今度こそは……俺が、護れた……。」



 「……ジャ、ジャック?」




 震える全身で抱き締めてきたジャックの言動に、違和感を覚えてしまう。


 いつもの彼とは明らかに違って見えた。




 何故、このような行動をするのか。


 何故、このような言動をするのか。


 何故、このように震えているのか。



 それを問い掛けようとしたところで、ジャックにグイッと押し起こされてしまう。




 「とりあえず、周囲の被害を確認するぞ。」



 「……え?」




 唐突な切り替えに、シャルルが追い付かない。


 いつものジャックに戻り、彼らしい言動をした。


 そのままそそくさと、廊下の方へと歩んでいく。




 「何してる? そこに居たら危ねぇぞ。」



 「あ、うん。」




 呼び掛けられると、すぐさまシャルルは立ち上がった。


 抱き締められたことで、一気に緊張や恐怖が払拭(ふっしょく)されたようだった。


 廊下の方で待機している彼の元に向かう。


 ゆっくりと歩を進めていく二人。


 シャルルがジャックの後を追い掛けるように、ついて行った。




 「あの……ジャック、今の……」



 「今は緊急事態だ。」



 「え?」




 先ほどのことを問い掛けようとするシャルルの言葉を遮り、真剣な声音で告げるジャック。


 その真剣さに、キョトンとする。


 立ち止まった彼は、一度シャルルの方へと体を向けた。




 「今は緊急事態だから、俺に関する質問は受け付けねぇ。


  さっきのことで聞きたいってんなら、後にしてくれ。」



 「…………。」




 真剣な表情で、淡々と述べるジャック。


 有無を言わさぬ雰囲気を全面に出しながら、シャルルを見据えていた。


 その表情と気迫に圧倒され、シャルルは無言で頷いた。


 そうだ、と考える。


 今はジャックのことについてよりも、もっと心配するべきことがあるのだ。


 シャルルの首肯を確認するなり、ジャックは再び歩を進める。




 内心で舌打ちしていた。


 傷付かなかったシャルルを見て、想定以上に安心してしまった。


 その結果として弱い自分を曝け出してしまい、そんな自分に嫌気が差す。


 階段を降りる中で考えを一旦放棄した。


 二階部分から煙が充満し始めた。


 一階へと降りた先で見た光景に―――



 「ッ!?」


 「ッ!?」



 ―――二人は言葉を失った。


 その悲惨さに。


 その凄惨さに。


 その惨烈さに。

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