第十二弾 『海軍の英雄』
屋上。
夕焼けに照らされて煌く白銀の航空機。
黒い四枚羽のプロペラを持ち、銀翼の先端は丸みを帯びている。
全体的にスマートなフォルムを持ち、無駄な構造は一切存在しない。
「シャルル、しっかり掴まってろよ。」
「うん……分かった。」
ジャックはシャルルをお姫様抱っこしながら、翼の上に立つ。
彼の呼び掛けに、小さく返事を返すシャルル。
先ほど行った開心の影響で、体力の大半を使い果たしたようだった。
シャルルはジャックの首に両腕を回し、力を込めた。
「行くぞ。」
ジャックはシャルルの肩に添えていた左腕で、戦闘機のコックピットを掴んだ。
右手は依然として、彼女の膝裏を支えたままだ。
そのまま僅かに突き出ている足場に乗り、コックピットへと体を滑らせる。
シャルルを抱えた状態でシートへと座り込んだ。
「あっ……。」
「ん? どうした?」
唐突に声を漏らしたシャルルに、ジャックは不思議そうな顔で見つめる。
かなりの至近距離だったが、今は気にしている場合じゃない。
シャルルは彼の首に回していた腕を元に戻し、自らの胸に手を添える。
「ジャックが、乗ったのが分かったわ。」
「っ、そうか……そんなことも分かるのか。」
「うん……この戦闘機が、アタシの心そのものだから。」
自身の発言に驚くジャックに、静かに呟く。
シートに身を預けた瞬間から、自らの中にジャックが居ることを感じていた。
普通では体験できない現状に、どこか満足そうに笑みを浮かべている。
「で、どうやって動かすんだ? 操縦桿が、ねぇんだけど?」
見ると、本来の戦闘機には備えられているはずの操縦桿が、存在しなかった。
その状況に心底困惑するジャック。
「心でイメージするのよ。
エンジンを入れて、プロペラを動かして、カタパルトから勢いよく飛び出て、離陸するイメージ。
そのあとは、旋回したり、上昇下降、射撃の全てをイメージでやっていくの。」
「……なるほどね。」
シャルルが真剣な表情で教えていく。
本来の戦闘機であれば操縦桿を握り、フラップやラダーなどの操作を手動で行うが、召喚で顕現した兵器は悉くイメージで動かす。
それは、精神で動かすことに起因していた。
「ストライカーの精神エアロイズに依存するから、自信を持ってね。」
「了解! へへっ、自信を持つことに関しては天才的なジャック様の技量、見ておきな!」
余裕に満ち溢れた笑みで告げるジャック。
エアロイズとは、人間が存在し得るために必要なエネルギー体のこと。
その中でも精神エアロイズというものは、その時の状況、その人の精神状態に大きく影響する。
精神エアロイズ値が高ければ高いほど、柔軟に兵器を動かすことが出来るのだ。
「…………。」
ジャックは双眸を閉じてイメージする。
エンジンを始動させ、プロペラを動かすイメージ。
そのイメージ通りに、乗っている戦闘機のエンジンとプロペラが動き始めた。
その時、上空から六機の戦闘機が急降下しつつあった。
こちらを離陸前で破壊しようとしている。
それでも、構わずイメージを続けた。
しっかりとプロペラが動いた次に、カタパルトが起動し、離陸するイメージをした。
刹那、ガガガガッ!と機銃音が聞こえ始める。
敵の機銃が火を噴いたのだ。
だが、間一髪でカタパルトが起動し、凄まじい速度で発進した。
「ッ!?」
「ッ!?」
二人して息を呑み、屋上の外へと強制的に押し出された。
と同時に、戦闘機は上昇を始める。
フワッと体が浮き上がる感覚を得た。
「っ、飛んでる……のか?」
「うん、飛んでるよ。
ジャックを乗せて、一緒に飛んでる。」
校舎が離れていく景色の中、驚愕のあまり目を見開かせる。
ジャックの呟きに続くように、シャルルも告げた。
しかし、両者が感じている感覚は明らかに異なっていた。
ジャックはあくまで、戦闘機に『乗っている感覚』を抱いている。
対するシャルルの場合、戦闘機に『乗せている感覚』を抱いていた。
乗っている感覚はともかく、乗せている感覚というのは体験し難い特別なものだ。
神聖な儀式と言われて、納得が出来る状態でもあった。
自らの中にストライカーたるジャックを乗せ、大空を肌で感じながら飛び続けている感覚だ。
シャルルは、自分の心で生み出した兵器を喜んで駆り、自分たちを襲ってきた敵を『叩いて』くれることに感謝した。
そして、何故だか心地が良かった。
いや、シャルルだけではない。
ジャックも同様に心地良さを感じていた。
夢にまで見た大空への到達。
戦闘機を駆り、縦横無尽に暴れ回れる瞬間が訪れたのだ。
ようやく夢が叶ったような感覚に、歓喜の極みと言わざるを得ない。
それを『実現』させてくれたシャルルに、ジャックは心の底から感謝していた。
『ストライカー』と『リアライザー』の『心』が完全にシンクロした瞬間だった。
「シャルル……お前が生み出してくれたこの機体で、奴らを蹴散らしてやるぜ!」
「うん……頑張って。」
ニッと自信に満ち溢れた笑みで告げるジャックに、シャルルはニコッと微笑みながら激励する。
そして、再び彼の首に両腕を回す。
すると、先ほどよりも速度が上がり、機体は上昇中であるにも関わらず凄まじい速度で雲の上まで到達していった。
圧倒的なまでの位置エネルギーを手に入れた機体は、眼下で昇り続けている六機の機体を睨むように下降を始めた。
「ッ!」
太陽を背にしながら、まず一機に向かって機銃を撃つイメージを固める。
刹那、ダダダダダッ!とやや甲高い音が響き渡り、機首に搭載された二挺の機銃が火を噴く。
しかし、僅かに射線が反れてしまい、敵機には当たらない。
「ジャック、もう少しだけ機首を左に寄せて。
弾は敵機の尾翼を通過したから、もう少し前方を狙ってみた方が良いかも。」
「っ、そんなことまで分かるのか!?」
シャルルの突然の意見具申に、驚愕するジャック。
それもそうだろう。
彼女はジャックの懐に身を任せる状態で、左側へ顔を向けており、殆ど前方へは視線を向けていないのだから。
敵を見ることなく、敵の状況のみならず弾の射線まで知らせたのだ。
「弾も、アタシの心の一部だからね。
それと、あの程度の敵の装甲なら、数発当てれば充分空中分解できるわ。」
真剣な表情で告げるシャルル。
まるで当たり前のように述べてくる言葉に、ジャックは頼もしさすら抱いた。
『共に戦う』という想いを、より一層強くさせた。
そして、言われたことが本当ならば、この戦闘機が搭載している機銃は普通じゃないほどの破壊力を持っていることになる。
「ッ!」
再度、ダダダダダッ!と甲高い音と共に二挺の機銃を放った。
シャルルの見立て通り、先ほどよりも左に機首を向けての射撃。
そして、その弾は敵機を見事に捉え、見立てた通り数発の直撃で空中分解してしまっては、敵の機体は四散してしまった。
一機撃墜。
木っ端微塵に破壊した機体をよそに、残り五機となった敵は編隊を崩して離れていった。
すぐさまジャックは、その内の一機を追い掛ける。
そして、更にスピードが上がるようにイメージした。
凄まじい音と共に、急速に速度が上昇した。
その行為が、シャルルは嬉しく思えた。
自らの心を求めてくれている感覚を抱いたから。
そして、ジャック自身もスピードが上昇したことに歓喜する。
シャルルが力を貸してくれる。
自分独りで戦っているわけではない。
お互いがそれを、身を以て体感していた。
その結果として、陸軍の迎撃隊すらも蹂躙した連中を、蹴散らしているのだ。
今ならば、どのような敵が来ても墜とせる自信があった。
「行くぜ!!」
戦意が高揚してくる。
もっと求めたくなる。
そして同時に、愛おしく感じた。
それは恋人を想う愛おしさではなく、心の拠り所としての愛おしさに近い。
自らの身が犠牲になろうとも構わない、と思えるほどの強烈な愛情。
それをジャックは抱いていた。
シャルルも、先ほどの開心のことがどうでも良くなるほどに、愛おしくてたまらなかった。
自らを使ってくれることが、何よりも嬉しかった。
体力の大半が持っていかれているにも関わらず、心の底から力が湧いてくるような気がした。
疲れなど、殆ど感じなくなった。
やがて、追い掛けていた敵機を間近に捉える。
「全門斉射!!」
「ラアァァッ!」
シャルルの合図でイメージする。
全ての装備を斉射する。
機首に備えられた二艇の機銃と、両翼に取り付けられた二門の機銃が一斉に火を噴く。
それらが数発撃ち込まれただけで、コックピットが吹き飛び、両翼とも破壊され、燃料タンクに直撃しては爆発した。
二機目の撃墜に成功した。
敵の破片を避けるため、急下降する。
そして、次なる敵を捉えようと水平飛行に移行しては、前方へと視線を向けた瞬間。
「ジャック、右!!」
「ッ!?」
シャルルの突然の声に、そちらに視線を向ける。
敵の機首がこちらに向いており、完全に射程圏内に入ってしまっていた。
目を大きく見開かせるジャックとシャルル。
撃たれる。
そう考えた二人だったが、突如として爆発してしまった。
「ッ!?」
「ッ!?」
何が起きたのか理解に遅れてしまう。
そして、シャルルが真上を見つめた。
ジャックがそれに続いて視線を向けると、急速に下へと向かっていった機体が存在した。
非常に目立つ金色の戦闘機。
自らの存在を、敵味方問わず大々的に主張しているような戦闘機だ。
その機体は敵を蹴散らした後、次なる敵機を続けざまに撃墜する。
圧倒的な戦闘力だった。
先ほど自分たちが戦意高揚していたのが、酷くバカバカしく思うほどに強い。
「なに、コイツ……一体誰なの?」
「さぁな……ただ、味方っぽいぜ。」
いきなり割り込んできた機体に、シャルルは酷く警戒したような声音で呟き、ジャックがそれに続く。
所属不明機が自分たちを助けたようにも見えるが、警戒して損はないだろう。
『おい、そこのスマートな銀ちゃん! たった一機でインファイトなんて、シビれるねェ!』
「っ、なんだ!?」
「通信ね。」
突如として響いた声に、驚愕するジャック。
そんな彼にシャルルは冷静に答える。
『お! 嬢ちゃんまで乗っけてんのかい? ハハッ! 俺と一緒じゃん!』
『ちょっとフォルテス、戦闘に集中してください。』
『イテッ! メイリアちゃん、頭叩くのは勘弁してくれよ。』
『ふざけている貴方が悪いのでしょう? それより、敵が来ていますよ。』
お調子者と言った風情の男の声と共に、知的で冷静な雰囲気を持った女性の声が聞こえる。
互いの話し声がダイレクトに、通信として相手に伝わるらしい。
「フォルテス!?」
「ん? 誰だ?」
フォルテスという名を聞いて驚愕するシャルルに、ジャックは首を傾げる。
そんな彼に、信じられないと言った風情で見つめた。
「アンタ、海軍の英雄の名前も知らないの!?」
「海軍の英雄? ……知らねぇし、別に興味もねぇよ。」
『あー、キミ達。
いったん通信切るから、先に戻って待っててくれないかな。
片付けたら俺たちも向かうから、そこで話そうぜ。』
「わ、分かりました!!」
ジャック達のやり取りに気まずそうにする男。
彼はジャック達に、先に戻っていて欲しいと伝えてきた。
その言葉を受け、シャルルは慌てて返事を返す。
と同時に、通信はそこで途切れてしまう。
いつの間にか、自分たちは学園からかなり遠く離れた位置を飛んでいた。
すぐさま言われた通りに帰途につく。
「はぁ~……あのフォルテス様が助けてくれたのね……。」
なんて、まるで有名人に対面したファンのように、恍惚な表情を浮かべるシャルル。
そんな彼女を、ジャックは苦笑しながらも見つめていた。
「……そんなにすごい奴なのか? まぁ、さっきの奮闘ぶりを見れば凄いのは解るんだが……。」
「凄いなんてものじゃないわ。
『ライトニング・プリンス』の異名を持ってて、連邦の方では『ヴァレアス帝の悪魔』って言われているくらいよ。
彼に懸賞金が掛けられてるくらいだし、中でも三十機の敵機をたった一機で全滅させたのは有名な話ね。
まさか、そんな人がアタシたちを助けてくれるとは思ってもみなかったけど。」
「ふ~ん……。」
真剣な表情で、フォルテスと呼ばれた男の話を進めるシャルル。
そんな彼女の話を、ジャックも耳に入れる。
よほど好きなのだろうと思いつつも、ジャックはどこか面白くない心情を抱いた。
「とにかく、一度戻りましょう。
アタシたちが居ても、足手まといになるだけよ。」
「……あぁ……そうだな……。」
ジャック達は来た道を戻り、学園へと向かう。
その中でジャックは、先ほどのフォルテスの動きを思い返していた。
急降下で一撃離脱しながらも確実に敵を仕留め、その運動エネルギーを損なうことなく、瞬時に次の標的へと機銃を放って四散させた。
その後も通信しながらも、冷静且つ的確な動きで次なる敵の方へと向かって行った。
彼の動きには、無駄が一切存在しない。
その実力は海軍の英雄として称えられ、絶対的な力を持っているという話にも納得がいく。
それだけの実力を、あの金色の戦闘機は備えていた。
「ジャック、大丈夫? そんな険しい顔して。」
「え? あぁ……大丈夫だぜ。
ただ、さっきの奴が気になってな。」
シャルルの問い掛けに、ジャックは真剣な顔で告げる。
今更、隠していてもしょうがないだろう。
「さっきの奴って……フォルテス様のこと?」
「……話の流れ上そうだって分かるだろ。
ってか、なんで「様」なんだよ?」
キョトンとするシャルルの言葉に、ムッとしながら睨むジャック。
妙に面白くない現状に、彼自身も嫌気が差していた。
「何をそんなに怒ってるの?」
「……別に怒ってねぇよ。」
「怒ってるわよ……なんだか、不機嫌だし。」
ややムキになって答えるジャックに、シャルルは目を逸らす。
どこか悲しそうにする彼女の態度に、ジャックも気まずそうに視線を這わせる。
「あの敵は……俺とシャルルで倒したかったんだよ。」
「え?」
彼の独り言のような発言に、キョトンとして視線を再度向けるシャルル。
よく見ると、悔しそうな表情をしているようにも見えた。
自分が墜とし切れなかったことが、悔しかったのかもしれない。
「ジャック……。」
「お前もそう思わねぇか? 俺たちは、今日初めて召喚したんだぜ。
お前の機体、スッゲェ扱いやすくてよ。
こうして、お前の要望で乗せてはいるけど……俺自身もシャルルと一緒に飛べて、敵を蹴散らせて、良かったと思ってるんだ。
それが、あんな……海軍の英雄だかエースだかよく分からねぇ男に横取りされちまって……それが……それが……悔しくてしょうがねぇんだ!」
ジャックは心底悔しそうに歯噛みしながら、シャルルに訴えた。
まるで独り言のようではあったが、紛れもなく懐に抱く少女に向けた言葉だ。
初めて召喚した。
互いに、酷く緊張したり、苦しんだり、痛かったりしながらもようやく機体を生み出せたのだ。
言い換えれば、この戦闘機が自分たちの子どものような気がしてならないのだ。
あれだけ自分たちで蹴散らしてやろうと心に決めて、それでも自分たちよりも圧倒的な戦闘力を持った連中が突如として現れた。
その連中が、自分たちの倒すべき敵を横取りしていったのだ。
「戦争は、スポーツじゃねぇのは分かってるよ。
勝てば……敵を倒せれば……それで良いってのも分かってる。
結果良ければすべて良しって……そんな価値観だってのも分かってる。
卑怯だとか、非道だとか、そんな言葉が通用しないのも、全部全部、俺は理解してるんだ。
っ、けど!! それでも……俺は奴に助けられるよりも、自分たちで決着を付けたかったんだよ!!」
ジャックは淡々と自身の想いを告げていき、最後はコックピットの壁をドンッ!と叩いてしまう。
それほど、彼にとっては悔しい瞬間だったのだ。
海軍の英雄によって、自分たちは手を引かざるを得なくなった現実。
そのことが、ジャック自身は悔しくてたまらなかった。
「その上、シャルルがそんな嬉しそうに奴の話を進めちまったら……俺はどうしたら良いか判らなくなる。」
最後に、ジャックは顔を俯かせながら、小さく呟いてしまう。
初めて明確に、シャルルの前で弱い自分を全面的に曝け出した。
それほどまでに、今回の召喚はジャックにとって特別なものだったのだ。
「ジャック……ごめんなさい。
別に、アタシも悔しくないわけじゃないの。
最初に乱入してきた時はすっごく警戒しちゃったし、得体の知れない奴が入ってきて嫌な思いしたから。
でも、アタシはフォルテス・エクレールの……彼の、いわゆるファンなの。
彼に憧れて、アタシも海軍に入ろうって決意したくらいなのよ。
彼が居なければ……アタシはここには居ないわ。」
「…………。」
シャルルの謝罪を含んだ弁解の言葉を、ジャックは黙って聞く耳を持った。
彼女にとって、フォルテスは海軍を目指すきっかけを作ったほどに大きな人物なのだという。
それに助けられたとあれば、女心としては嬉しさはあって然るべきなのかもしれない。
それでも、とジャック自身はどうしても納得できない部分があった。
闘争心が強い男だからこその感情なのかもしれないが、シャルルの心情がどうあれ、フォルテスが気に入らないことに変わりなかった。
そんな彼を全面的に推すシャルルを見て、ジャックは心に引っ掛かるものがあった。
「フォルテスさんはアタシの憧れであって、パートナーでもなんでもない。
ジャックだからこそ召喚を決意したし、ジャックだからこそ……開心をしたのよ?」
「…………。」
開心をした。
この事実が、かなり大きく感じた。
本当にフォルテスを選んでいるのならば、そもそもジャックに開心などしないはずだ。
その想いは上辺だけではなく、深層意識にまで起因するものだという。
本当に、心の奥の奥で相手を想わなければ、実現できない芸当なのだ。
それは既に、ジャックも理解している。
そして、ジャック自身も彼女の心に触れて、優しさに触れて、嬉しさが込み上げていたのは事実なのだ。
それら事実を、たった一度の出来事で無に帰してしまうのは、彼も流石にどうかとは思った。
己が、まずは冷静になるべきなのだとジャックは考えた。
「お前が心を開いてくれて、俺が心を開いたから……こうしてこの機体が、生まれたんだよな。」
ジャックは、自らが今乗っている戦闘機のコックピットを見渡しながら、呟いた。
誰かに確認するでもなく、自分自身で納得するために。
「そう……二人だからこそ、この世に『存在』できた戦闘機よ。
この機体は、世界中のどこを探しても二つ目が存在しない。
この世でたった一つ……アタシたちの機体なんだから。」
ジャックに続き、教え諭すように笑みを浮かべて述べるシャルル。
だからこそ、召喚は神聖な儀式なのだ。
唯一無二の存在を生み出す儀式であるが故に。
「……悪い。
なんか、変に落ち込んじまってたよな、俺。
ウジウジするのは、俺の性に合わねぇぜ。」
「うん、でも……。」
苦笑混じりに告げたジャックの頬に、シャルルは手を添えた。
どこか心配するように、ジッと緑眼を向けてくるシャルル。
「あまり一人で抱えちゃダメだからね。
どんな時でもアタシは、ジャックの味方なんだから。」
「……あぁ、分かってる。」
シャルルの言葉に、フッと微笑みながら頷く。
その言葉だけで、充分だった。
どんな状況でも自分の味方になってくれるのは、目の前の彼女なのだから。
二人は夜へと近づきつつある中、学園のグラウンドへと着陸していった。