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異界転生譚 シールド・アンド・マジック  作者: 長串望
第十章 アクロバティック・ハート

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第八話 闘技2

前回のあらすじ


徳の低いレベルの高い方々が発生してしまう中、順調に医療レベルを上げていく紙月だった。

 闘技の部門に参加する面々は、みな木剣やこん棒、また普段得手としているだろう武器を先の丸い木製のものに置き換えて臨んでいたが、木製だからと言って安全であるという訳でもない。

 冒険屋などは自前の鎧をつけているとはいえ、町民にはそんなものはないし、あったとしても、大の大人が本気で木の棒で殴りつければ、それは十分に骨を砕くし、時には命を奪う。


 そのため、勝敗の判定は戦闘不能によってだけでなく、組合から直々に選ばれたベテランの冒険屋が、技の有効性などからみて、大怪我をする前に早々に決着をつけさせることになっていた。

 それでも時には骨を折るものや出血の多いものもあったが、臨時施療所で対処できる範囲を超えることはないようだった。


 このルールのもとでは、全身鎧の未来でもあまりうかうかできなかった。真正面から普段の調子で受け止めようとすると、無防備に受けたとして有効を取られかねない。かといって未来がうっかり本気で殴りつけてしまうと、相手の生死は保証できない。


 その鎧の見事であることと、いままでに多くの武勇伝を築き上げてきたことから、多くの人々が、そして冒険屋たちでさえ誤解しているところであるが、未来には実のところ武術の心得などさっぱりないのである。柔道さえ、まだやったこともない。


 教室でも、ボール遊びに興じるより本を読んでいる方が好きだった物静かな少年であるところの未来であるから、取っ組み合いの喧嘩なども、まず経験がない。


 それでも、ちょっとした力自慢程度で参加したような町民や農民には、まず負けることがない。

 まずこういった手合いのやり方と言うのは決まって取り組んで力に任せて押し倒すという、町内大会のなんちゃって相撲の域を出ない。

 こういうものは素直に組んでしまえば、なにしろこれでもレベル九十九の前衛職である、負けるわけもない。


 相手の土俵で力任せに倒してやるだけで、済む。


 もう少し手馴れてきて、木剣やこん棒で殴り掛かってくるものは、少し厄介だ。

 何しろ素人は、木剣の軽さに任せて滅多打ちにしてくる。これを盾で受けるのだが、なにしろ素人の剣と言えども当たれば判定を取られかねないので、丁寧に受けてやる必要がある。

 そして隙をついて盾を押し出す、シールドバッシュの形で押し倒してやればいいのだが、加減が難しい。軽すぎれば意味がないし、重すぎれば骨を折ってしまう。


 冒険屋は難しいところだった。

 一口に冒険屋と言っても、駆け出しの素人同然もいるし、熟練のものもいる。そしてその中でもさらに、人間相手を得意とする者も、魔獣相手を得意とする者もいるので、一律に誰が強いどう強いとは言えないのである。


 それでも受け身に慣れているから怪我をさせることはぐっと減るし、多少強めに打っても耐えるので、いささか気が楽ではある。


 ただ、攻めに関しては楽になっても、受けに関しては難しくなったというのも本音だった。


 まず純粋に打ち込みが鋭くなる。これは、まだ、獣人の未来の目にははっきりととらえられる範囲だが、時々体がついていかない。

 また、こちらの目の良さを理解して、フェイントを仕掛けてくる相手も増えた。これは慣れるまでかなり翻弄され、勝ちをもぎ取られるほどではなかったが、いくつかいいのをもらってしまっている。


 それでも最終的には、巨体を生かして組みかかり、場外に放り投げるという原始的な手段が一番やりやすい辺り、未来の身体能力はそこらの冒険屋を圧倒していると言っていい。


 知り合いの冒険屋たちも参加していたが、《レーヂョー冒険屋事務所》のクリスは気付いたら敗退しており、ハキロも運悪く最初の方で腕のいい武芸者にあたり敗退。ムスコロは巡りも良くいいところまで行ったようだったが、テクニカルな相手に翻弄されて、食らいつくも惜敗であった。


 《巨人の斧(トポロ・デ・アルツロ)冒険屋事務所》の面子はほどほどに散らばって、ほどほどに勝ち残っているものもあったが、他の冒険屋事務所もそれは同じようで、終盤はこれらが席を奪い合うことになりそうだった。


 やがて決勝戦が近づくにつれて、他の試合を見る余裕も出てきたところで、未来は参加者の中に知り合いの姿を見つけてぎょっとした。

 そこそこに腕はあるだろう歴戦の冒険屋をまるで相手にもせず一蹴してしまったのは、西部冒険屋組合付きの冒険屋ニゾと同じく騎士ジェンティロである。


「何してるんですかスプロなんかで」

「いやなに、森の魔女と盾の騎士がいるんだ。面白くならない訳がないだろう」

「あはははは……」

「一応、仕事でもある。急に腕利きの冒険屋が出てきたわけだからな、組合としても、気にしてはいるのだ」


 そう言いながら、騎士ジェンティロも腕を振るうことに否やは無いようである。


 ニゾは素早い動きで距離を詰め、いまのところ全試合一発で相手を気絶させているという凄まじさであるし、ジェンティロはそこまで鮮やかさはないが、堅実な詰将棋といった試合で確実に相手を仕留めてきている。


「いずれかの試合でぶつかることがあれば、よろしく頼む」

「森の魔女も出れば面白かったんだがなあ」

「お手柔らかにお願いします……」


 これは、簡単にはいかなさそうであった。

用語解説


・用語解説

 基本的に与太話。

 読まないでも問題ないことが多いが、時々本編で語ってないことをしれっと語っていたりするので注意。

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姉弟作「異界転生譚ゴースト・アンド・リリィ」
連載中!
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