出航 2話
懐かしい夢を見たな…。
目を覚ますと外は、うっすらと明るみを帯びていた。
小鳥たちが歌い始めていた。
妻が部屋に、ココアを運んで来てくれた。
「どうしたの?」
「なにが?」
「あなた、泣いているわ」
え?
妻は、頬を伝う涙を拭ってくれた。
「たぶん…ちょっと懐かしい夢を見たからだと思う」
僕は、ココアに口をつけて微笑んだ。
さぁ!出かける支度をしなくっちゃ!今日は、待ちに待った出航だ。
「あなた、気を付けてね」
「ああ。必ずピーターパンを倒して子供達を取り返してくる」
朝食を済ませ、赤い衣裳に身を包み朝靄の中に出ていった。
僕は、ゆっくりと確かめるようにシャツに手を通した。
ハンガーに掛けてあるコートと帽子を手にリビングへ向かった。
リビングには、すっかり朝食の用意が整っていて朝日に照らされていた。
シンプルなグリーンサラダに目玉焼きにベーコン。そして、クロワッサン。質素だけど暖かい朝食だ。
僕は、一瞬微笑み椅子に腰掛けた。こんな朝食とも暫くお別れだ。
妻が温かい紅茶を煎れてくれた。
ふと、隣の空席が目に留まる。息子の席だ。
あの日以来、冷たいままの椅子。
部屋もそのままにしてある。いつあの子が戻ってきても良いように。
妻は、掃除を欠かさない。しかし、掃除をしながら涙を落とす妻の背中は不憫でならない。
大丈夫だ。僕が取り戻す。