冷たい玉座 12話
「それだけじゃないけど、まずは、フックに聞かなきゃ。ねえ、フック、貴方は私たちと帰る?」
「僕は、帰れない」
帰れない?どうしてだ?帰りたくないのか?
「どうして?」
彼女は優しい微笑みを浮べている。
「この国は、ネバーランドはピーターパン無しでは消えてしまうから。ネバーランドが消えてしまったら妖精も夢も全てが消えてしまうから」
フックは、少し涙を浮かべて、それでいて強い意志を持っていた。
「大きくなったわね」
彼女はフックの頭を撫でた。
「ネバーランドは、パパの育ったところだから大切な思い出の場所だから守らなくちゃ」
「あなたも本当は気づいていたのでしょう?ネバーランドが無くなってしまえばロストチャイルドが行き場を失ってしまう。そしでも、ロストチャイルドは生まれてしまう」
分かっている。分かっているけど。
「ピーターパンになれるのは、自らの意志でネバーランドにやって来て、人である事も鳥である事も諦めて、冷たい玉座に独りで座る事を覚悟をした人だけ」
「そんなこと、そんな寂しい事を僕は子供にさせたくない」
「そうよね。だから、あなたの船長もこの国にやって来た。そして、この国に残った」
なんだって?
どういうことだ?
彼女は赤い本をポケットから出した。
ずいぶんと古ぼけた本だ。
「船長の日記よ。家の壁の穴から出てきたわ」
彼女は一息吐くと大変な仕事でもするように言葉を続けた。
「船長は、自分の子供がロストチャイルドになってしまったから、取り戻しにやって来た。
そして、ピーターパンと対峙した。その時、ピーターパンがこの世に必要な存在である事を知った。船長は、この国を安定させる為に海賊になって留まる事を選んだそうよ」
そんな、そんな馬鹿な。
ピーターパンは、敵だ。
「だから、船長はピーターパンに決して勝たなかった」
そうだ、あんなに強くて賢い船長が勝てないはずなんてない。
考えれば分かる事だ。
僕だって、ピーターパンを追いつめる事が出来たくらいだ。
船長なら、船長なら勝ってもおかしくない。