出航 5話
津波のど真ん中を突き破って船が飛ぶ。
太っちょのオジさんがマストに自分を括り付けるとラッパを高らかに吹いた。
嵐の風にも雨にも負けず、空へ吸い込まれて行った。
僕は、バイオリンを手に取っておもむろに弾き始める。
ストラなんとかっていう若者が奨学金の利子代わりに毎年送ってくるバイオリン。
毎年、だんだん音色が良くなって行くバイオリン。
家族で音色を聞いた。
子供達は、はしゃいで踊って走り回って。
妻は、笑っていた。
僕は、幸せだと時間を噛みしめていた。
そんな思い出。
サックス、オルガン、ギター。
色んな音色が彩りを添える。
いつの間にか波は穏やかにメロウ達は静かに浮かんでいる。
僕は、甲板で網にかかっている元凶をほどいてやると、氷砂糖を一つ渡した。
「星のきらめきが汝の下へあらんことを」
「海の加護が我らが航海にあらんことを」
船員が山の幸と山の酒を入れた樽を海へ投げ入れる。
空は、雲一つない夜空。
晴れ渡る星空。
僕たちは、そのまま食事にした。
音楽を奏でながら。
匂いと音につられてウィンガーベルが起きてきた。
嬉しそうに鈴の音のような笑顔を浮かべている。
僕は、見上げた。
ポーラースターの右側の星を。
あそこへ向かって真っすぐ真っすぐ。
その先にネバーランドがある。
ウィンガーベルが音色に合わせて踊る。
妖精の粉を振りまきながら。
僕たちに、船に、妖精の粉が光を帯びる。