出航 3話
「船長、エンジンに火を入れましょうか?このままじゃ・・・」
スメーが困ったように聞いてきた。
海は、完全に凪いでいる。
波の音すらしないのではないかと言うくらい静かだ。
帆は、風がないためしおれている。
通常ならオールで漕いだりしてなんとかこの状況を抜けようとする。
そらそうだ。本来船旅には食料は限られていて目的地があるのだから。
「別に、いいだろう。このままで予定に支障が出る程遅くない」
最初にエンジンで走ったから早い速い。
適当に辺りを見回す。
ん?積乱雲が昇っているな。
思ったよりデカイ。
「スメー!直ぐに帆を畳め!積み荷の固定を急がせろ!嵐が来るぞ」
「そんな馬鹿な、こんな凪いでいるのに」
「スメー、11時の方向。恐らく10kmの距離もあるまい。鈍ったな?」
スメーは視線を巡らすと、一気に険しい顔になって皆に指示を出す。
突然の怒号にみんなビックリしているが訓練通りやってくれている。
すぐにポツポツと雨が落ちて来た。
風が出てきた。
5分後。
僕らの船は高さ30mの波間に揺れていた。
嵐だ。
予想通りだ。
この分なら1時間で抜けれるはずだ。
だった。
嵐の中で既に10時間。
あり得ない。
嵐は風の流れや潮の流れで去って行ってしまうものだ。
しかし、この嵐はまったく動かない。
思い切ってエンジンに火を噴かすがまるで嵐が追いかけてくるようだ。
普通じゃない。
ああ・・・普通じゃない。
船の舳先に誰か座ってる。
ややこしいのが座ってる。
乗せたはずの無い女性が乗っている。しかも下半身は魚だ。
人魚ってヤツだろうな。きっと。
尾びれが魚類だ。イルカのような上下ではなく左右に振るタイプ。
メロウと言う種類だな。
たしか、嵐を呼ぶとか。
呼ぶと言うより居座っているよな。
セイレーンの方が個人的には好みだが、可愛いから許そう。
さて、どうやっておいとま願おうか。
まさか、ぶぶ漬け召し上がれなんて通用しないだろうし。
いきなりズドンで仲間呼ばれたら厄介だし。うーん。
妙案を思いついたよ。