出航 2話
そろそろか。
「スメー、エンジンを停めて帆を張るんだ」
機関停止、帆に風を受けろ。
風を受けて膨らむ帆を見上げると昔を思い出して気持ちがいい。
今日は波も風も穏やかだ。
空も陽も高く晴れやかだ。
鈴の音のような音が聞こえた。
妖精のウィンガーベルが空から降りてきて僕の肩に腰を下ろす。
「おつかれさま、ウィング大丈夫かい?」
僕は彼女を親しみを込めてこう呼んでいる
妖精は気に入った人間には愛称で呼ばれたがる。
だから、適当に略してよんでいる。
そう言えば誰かさんも適当に略していたな。
妖精は基本的に夜行性だ。
ウィングも眠そうにあくびをしている。
「夜まで寝ておいで、君用のベッドもあるから」
船室への扉を開けるとフワフワと飛んでいった。
「船長、夜までに大西洋の真ん中まで行きます。今日の風なら大丈夫でしょう」
「腕はなまっていないようだね、スメー」
「当たり前でさぁ、海賊ってのは船がホームですから」
そうだったね。僕のホームもそうだった。
だけど、今は妻と子供。愛する家族の居る場所がホームなんだ。
僕を育ててくれた船長がそうであったように。
少し感慨が過ぎたな。
スメーが困っている。
ピーターパンとの戦いが終われば彼の帰るところは無くなってしまう。
それなのに協力してくれる。優しすぎる海賊。
大丈夫、一緒に帰ろう。
もともと家族じゃないか。皆が僕を拾ってくれたんだ。
「スメー、ワニの料理を考えなきゃいけないね。まずはチクタクうるさいアイツを血祭りにあげよう」
僕がニヤリと笑うと彼も笑顔を返した。