出航前夜 1話
しかし、ついこの間、バカなカップルが調子に乗って杭に体当たりをかまし、一本折ってしまった。
人間にとっては、この島はさほど重要でなく放置されたままだ。公園の予算も限られているしね。
さて、そのおかげで僕は飛べなくても島へ渡ることができるんだ。
杭の無い所から島へ近づくと、両隣の杭にいる水鳥が目を覚ました。
僕はうやうやしく御辞儀をし、彼らに一切れのパンを差し出した。
彼らは、それをついばむとまた、目を閉じた。
どこの世界も、門番は賄賂に弱い。
僕は、苦笑いをしながら島へ上陸した。
夜のケンジントン公園は、結構冷える。
そのため、島には水鳥達が集まって暖を取っている。
僕は、水鳥を踏みつけないように注意しながら奥へと歩を進めた。
程なくして、目的地に着いた。
目の前には、他の水鳥の何倍も大きな鳥が羽を休めている。
この公園で一羽だけしか居ないハゲコウで鳥達の長老だ。
なんで、そんなこと知ってるかって?
愚問だな、僕はロストチャイルドだよ?ピーターパンから話くらいは聞いていたさ。
だからこそ、ここへ来たんだ。ピーターパンをピーターパンにした彼の元に。
僕が近づくと彼は、片目をうっすらと開けて僕を見た。
僕は丁寧にお辞儀をして、パンを一切れ差し出した。
彼は眠そうにパンをついばむと僕を見た。
「何か用かね、こんな夜更けに人間が訪ねてくるなんて珍しいを通り越して気味が悪い」
「ピーターパンの事を伺いにあがりました」
ハゲコウは、意識をはっきりさせるためか、首を振り、羽の手入れをした。
「ピーターパンの事なら、私より君達人間のほうが良く知っているんじゃないかね?」
「僕は、彼が今のピーターパンに。ネバーランドの主人になる前がしりたいのです」
「そうか、それならわしの所に来たのは間違いない、今やそれを知るのは、わししかおらん」
長老は、咳払いを一つした。近くの水鳥がピクリとした。
僕は、パンをもう一切れ差し出した。
長老は大げさに口に運ぶと話を続けてくれた。