ジャック・ザ・リッパー 8話
「へへ、よ、よう」
あからさまに不審者だ。
アーノルドは、自分で思うよりずっと人付き合いが苦手でした。
「なんだ?お前は!?」
ピーターパンの顔が険しくなります。
ずっと、ずっと探してた。会いたかった。
アーノルドが一歩進むと、途端に、ピーターは宙へ翻りナイフを抜きました。
怪しい奴め!!
ここは、お前みたいな汚い大人が来ていい場所じゃないんだぞ!
ピーターパンが威嚇します。
周りからは、「おとな、おとな」「こわい、きたない」妖精が囁いています。
ちがう!俺は、大人じゃない!俺をネバーランドへ連れて行ってくれ!
ココロの底からの叫びだった。
だけど、王様には届かない。
お前は大きい、お前は大人だ。
お前の手は汚れている。
お前は、盗んだ。お前は奪った。
お前は、子供じゃない。
妖精の声が合唱のようにこだまします。
俺は、ネバーランドへ行きたいんだ・・・。
この嗚咽ともつかないつぶやきは王様の耳に届きました。
ティンク!
ピーターが声をかけた妖精がアーノルの周りを飛び回ります。
アーノルドの身体がかすかな光を纏いました。
さぁ、嬉しい事、楽しい事を考えて!思い出して!
そうすれば。
ほら!飛べるよ!
ピーターパンが宙返りをしてみせます。
しかし、アーノルドは飛べません。
楽しい事?嬉しい事?
そんなの知らない。
あれ?飛べないの?
じゃあ、ネバーランドへは、連れて行けないと。
ママにもう一度「産み直して」もらいなよ。
そう言うとピーターパンは、北極星の右側の星の方角へ飛んで行ってしまいました。
アーノルドは、一瞬、なにがなんだか分からなくなりました。
ピーターパンに会った。
妖精の粉も振りかけてもらった。
なのに、なのに。
気がつくと、アーノルドは、真っ赤な部屋に佇んでいました。