じゃック・ザ・リッパー 6話
しばらくして、アーノルドは家に帰らない事が増えた。
家に帰れば、汚い言葉と具の無いスープが待っている。
なぜか殴られなくなったのだけが救いだった。
アーノルドは街を当てもなく彷徨った。いや、徘徊していると言ったほうが良いだろう。
腹が空けば孤児を殴ってなけなしの金と食料を奪った。
奪った金で安宿に泊まった。
アーノルドは身体が大きく力も強かった。
大人でさえ、手を焼くほどに。
彼は一生気が付かなかった。
具の無いスープは、胃腸の弱かった彼のために極限まで煮込まれたシチューであることを。
母親が身を売って稼いだ金は、そのほとんどが食材と彼の薬に使われていたことを。
母親が彼にしたことは、彼の心に影を落とし許されることではない。
だけど、母親はアーノルドを愛していた。
アーノルドは今夜も街に出る。具の無いスープをすすって。
いつの間にか、彼に浴びせられる汚い言葉もなくなった。
娼婦の子供が生きていくには厳しい時代。
生き抜くためには力が必要なことを母親は知っていた。
優しいだけじゃ生きていけない。
正直なだけじゃ生きていけない。
頑張れば、努力すれば成功するほど世界は甘くない。
生きるためには食べなければならない。
母親は、アーノルドに生き抜いて欲しかった。
娼婦の子供だと諦めてほしくなかった。
道を誤ったとしても、どんな手を使っても生きてほしかった。
アーノルドは今夜も街へ。スープをすすり、拳を血に染めに。
そして、彼は念願の彼に出会う。
ネバーランドの王様に。