ジャック・ザ・リッパー 5話
具の無いスープをすすると舌打ちされた
。
テーブルに向かう自分に向けられる目には何も宿っていない。
ただ、そこらに積もったホコリでも見るかのようだ。
ドブネズミでも、もう少しマシな見られ方をする。
少なくとも無視はされない。
そんなことを考えてアーノルドは少し微笑んだ。
途端に殴られた。
「気持ち悪い子だよ、ニヤニヤしやがって。あんたなんか産まなきゃよかった」
いつもの小言が始まった。
誰も産んでくれなんて言ってない。
必要ないなら産まないでくれれば良いのに。
中絶する金がないのも、孕まされたのも、全部お前が悪いんだ。
アーノルドの中に黒い染みができたような気がした。
なぜか、アーノルドは心が軽くなった気がした。
「商売の邪魔だよ」
いつものように外に出された。
「この売女が」
今夜は、いつものように惨めな気持にならなかった。
なぜか気分が高揚した。
この時、彼は気づいていなかった。
大事なものを捨ててしまった事を。
彼に取って一番大切な事。
希望を捨ててしまった事を。
その夜からアーノルドの目から光が無くなった。
暗く淀んで、それでいてギラギラとした何かを放っていた。
昨日は、殴られなかった。
今日も、殴られなかった。
明日は、殴られるかな?
恐くない。怖くない。
なにもコワクナイ。
雨が降っている。
冷たくない?
変なの。
路地裏でアーノルドは雨に打たれながら歌い踊った。
涙は出なかった。




